侠飯(福澤徹三)
読めば食欲増進・元気倍増 侠飯
福澤徹三(著) 私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では週に一度、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。
今回ご紹介するのは、福澤徹三さんの『侠飯(おとこめし)』。 司馬遼太郎さんは「漢」と書いて「おとこ」と読ませました。福澤さんは「侠」と書いて「おとこ」と読ませます。「侠飯」つまりは、任侠とグルメの意外な組み合わせの小説なのです。 若水良太、大学四回生。三流大学の上に、深く考えず選んだ学部が文学部。なかなかうまくいかない就職活動に悩む毎日だ。そんなある日、帰宅途中にヤクザの銃撃戦に巻き込まれた。こんなところで死んでしまうのか?
命の危機を救ってくれたのは、目つき鋭く顔に傷のある男、柳刃竜一。名前からして物騒な柳刃はヤクザの組長だという。左手の小指の先もない。絵に描いたようなヤクザだ。 駆けつける警察から逃れるため、柳刃と子分の火野は一人暮らしの良太の部屋に転がり込む。居住地での銃撃戦ということで、ニュースにもなっていて、ほとぼりが冷めるまで柳刃はここに住むという。ヤクザと同居などとんでもないとしぶる良太だが、命の恩人だろうと言われれば、返す言葉もない。 もし柳刃たちが潜伏していることを周囲にバラしたら、ヤクザの流儀できっちり痛めつけた後、山に埋めるぞと脅され、良太は震え上がる。こうして普通の大学生とヤクザの同居が始まった……。 出だしから飛ばしています。面白いです。
このヤクザ柳刃の性格が面白いんですよ。きれい好きで、料理が得意。 良太のマンションに来て最初にしたのが大掃除。汚部屋寸前だった良太の部屋がすっきりきれいになるのは面白くも爽快でした。 そして料理!! いつもお弁当やコンビニ料理でお茶を濁している良太の冷蔵庫にその時あったのは、オイルサーディンとかまぼことリンゴとネギ。 さぁ、これで何を作る? ここまでくると、私の目線は完全に良太と一致していて、目の前で柳刃が手際よく調理するのを目を丸くして見ていました。(妄想の中で) その料理のおいしそうなこと!!思わず読書の手をとめて、メモ帳に材料と作り方を転記しましたよ。 ポチッとすれば何でも宅配してもらえる現代。立派な冷蔵庫が届いたと思えば、食材や調味料がどんどん届き始め、柳刃が腕を振るい始めます。 どれもこれもおいしそうで!! 良太の大学の友だちが部屋に遊びに来てしまうというハプニングの時は、柳刃は良太の叔父でシェフだと紹介することで切り抜けます。 もちろん友人たちも柳刃の料理に感動し、以後ちょくちょく訪れるように。柳刃は料理のコツを教えるとともに、人生訓めいたことも語ってくれます。 たとえば就職活動について。 むずかしいことはわからんが、自分という商品を売りこみにいく場が面接だろ
(本文より引用) つまり、自分たちが買い物をするときのように、面接官が受験者を値踏みする、ということです。
私がフリーになる前に所属していた事務所の社長も同じことをおっしゃっていました。 オーディションを受けに行く際の心構えとして 「あなたたち、リンゴを買う時に、色や形やツヤを見て、一番良いのを選ぶんじゃないの?リンゴですらそうなのよ。自分がおいしそうに見えるように、努力するのは当たり前でしょ」と。 セルフプロデュースということですね。 柳刃が良太たちに、いい影響を与え始めるのが明るくて良いです。読んでいて楽しい。 そして私がこの小説で一番すばらしいと感じたフレーズは 食べもので性格が変わる
(本文より引用) 子どもの頃から好き嫌いの激しい私、遅まきながら最近になって苦手な食べものを克服しています。これからでも間に合うかなぁ。
中途半端な良太、有名企業の御曹司の洋介、オタクで先が見えない信也、性格以外はパーフェクトと言われる春菜、それぞれの変化と、ヤクザ者柳刃シェフのお料理をご堪能あれ! 私はこの小説に出てくる料理のなかで、「りんごチーズ」と「スジ肉の煮物」はすでに作りましたよ。簡単でおいしかったです! 食育仁侠小説(勝手にジャンルを決めた)『侠飯』。あんまり面白かったので、続編も読み始めています。 昨年夏にはテレビ東京でドラマ化されているのですね。キャストが私のイメージとはちょっと違うけど、機会があれば見てみたいです。 侠飯
福澤徹三(著) 文藝春秋 就職活動に悩む大学生・若水良太は、ヤクザどうしの銃撃戦に巻きこまれ、組長の柳刃竜一が部屋に居座ってしまう。居候の柳刃はお取寄せが趣味でキッチンを占領しては料理を作り、恐怖と美味に混乱する良太。そこに同級生たちも加わって事態は予想外の方向へ!まったく新しい任侠×グルメの異色料理小説。文庫書き下ろし作品。 出典:楽天 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』 |
OtherBook