六人の嘘つきな大学生(浅倉秋成)
何度もどんでん返しが 六人の嘘つきな大学生
浅倉秋成(著) 私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。
今回ご紹介するのは、浅倉秋成さんの『六人の嘘つきな大学生』。 舞台は2011年。開発したSNSが若者の支持を受け急成長中のIT企業「スピラリンクス」。その最終選考に残った六人の大学生たち。
イケメン、美女、いかにもスポーツエリート……所属大学も、早稲田大学、一橋大学など、一流大学だ。 スピラリンクスは先鋭的でおしゃれな会社だ。ボードゲームやダーツに興じながら会議ができるミーティングルームや一流コーヒーショップと連携しているカフェスペースもある。自由な社風が魅力だ。 しかも、今回初めて新卒者の採用を行うのだが、月給は50万円。六人は皆、採用されたいと熱望していた。 業務内容や社風同様、スピラリンクスの入社最終選考もユニークだ。本物の業務案件を六人でディスカッションし、その内容によっては六人全員が採用になる可能性もあるとのこと。 六人は1ヶ月の準備期間中に、親交を深め、色々な資料を集めては擬似ミーティングを行い、全員採用を勝ち取ろうと気合いを入れていた。 ところが、最終選考日直前、スピラリンクスは選考方法を変えると通告してきた。採用されるのは一人だけ。六人で誰が入社にふさわしいかディスカッションするようにと。 全員で入社を勝ち取ろうと言っていた六人がライバル同士になってしまった。そして当日、ディスカッションルームにはとんでもないものが仕込まれていた。 それは六人それぞれがこれまで犯してきた「罪」を弾劾する文書だった。一体誰がそんなものを仕込んだのか?誰が内定を勝ち取るのか? (浅倉秋成さん『六人の嘘つきな大学生』の出だしを私なりに紹介しました) 私は1986年の春に就職しました。いわゆる「バブル」少し前ではありましたが、さほど苦労せずに就職できました。
確か履歴書を提出後、筆記試験があり、最終的に面接があった気がしますが、1対多の面接でした。グループディスカッションなんてしたことがありません。 そんな時代の入社試験を体験しなくて済んで本当に助かりました。きっと就職できなかったことでしょう。 この小説で内定を勝ち取ろうとする大学生たちはそれぞれとても優秀です。団結して全員で内定を勝ち取ろうとしているときはそれがいい方向に動きます。 しかし、たった一人しか採用されないとわかってからこの会社に採用されるのは自分であり、そのためには他を蹴落としてでも、と頑張ります。 小説は、すでに入社後数年経ってから、ある人が最終ディスカッションで起こったことの真実を追求するところからスタートします。 最終ディスカッションでそれぞれの罪を暴く書類を用意したのは一体誰だったのか。「蹴落とされた」人たちはその後どんな仕事に就いたのか。ミステリとして、読み応え十分です。 その合間に「就活って一体なんなんだ?!」という問いかけが何度か投げかけられます。 生殺与奪の権を握られ、右往左往させられる学生たち。全能の神のように見えた人事部の人たちが入社してみると、さほど権威があるとは思えない。「就活って一体なんなんだ、なんの意味があるんだ?!」と。 すでに就職活動が遠い過去になった私には、そのあたりの心の叫びが自分ごととして捉えられませんでした。 それに第一希望の会社に就職できたとして、最後までその会社で勤め上げる人が、どれほどの確率でいるのでしょうか? なんらかの事情で退職せざるを得ないこともあれば、自分の意思で辞めることもあるでしょうし、やりたいことが見つかって独立することもあるでしょう。 就職が人生に影響のある出来事であることは認めるけど、やり直しはいくらでも効くのだよ、だからそんなに必死にならなくても……そう六人の大学生に語りかけたくなるのでした。 色々な意味で何度もどんでん返しがあり、ミステリとして とても面白い。特に若い方は面白く読めると思います。 私も、純粋にこの小説世界に共感できる年齢で読みたかったなぁ。 六人の嘘つきな大学生
浅倉秋成(著) KADOKAWA 「六人の中から一人の内定者を決める」。仲間だったはずの六人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を開けると「○○は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とはー。伏線の狙撃手・浅倉秋成が仕掛ける、究極の心理戦。 出典:楽天 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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