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ショートケーキ。(坂木司)

ケーキは人を救う

ショートケーキ。
坂木司(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

今回ご紹介するのは坂木司さんの『ショートケーキ。』

とても美味しそうであり、可愛らしくもある表紙です。

この作品はショートケーキにまつわる5つの短編から成り立っています。

それぞれのタイトルを紹介しましょう。
ホール
ショートケーキ。
追いイチゴ
ままならない
騎士と狩人
(坂木司さん『ショートケーキ』目次より引用)
最初の作品「ホール」の主人公は、ゆか。
ゆかの母親はシングルマザーだ。ゆかが10歳ぐらいの時に両親は離婚した。記憶の中に両親がいがみあっている姿はない。

おかげでゆかにはトラウマはないし、今も月に一度父親と面会している。とはいえ、両親の離婚がきっかけで何かを失ったことは確かだ。

ゆかには気の合う友だちがいる。高校で出会った「こいちゃん」は、ゆかと家庭環境が同じで、お互いわかりあうことができたのだ。

ゆかとこいちゃんは二人で「失われたホールケーキの会」を結成した。 母子家庭になってから、ホールケーキを買ってもらう機会が大幅に減った者の会だ。

その原因は値段が高めということと、母と娘二人では食べきれないということ。 だから何かあると ゆかとこいちゃんは二人でホールケーキを買って食べるのだ。そして二人で話をすると元気が出るのだった。
(坂木司さん『ショートケーキ』の冒頭「ホール」の出だしを私なりにご紹介しました)
我が家は二人家族ですが、お互いのお誕生日には必ずホールケーキでお祝いします。

ちょっと食べ過ぎかなぁと思うものの「やっぱり誕生日にはホールケーキにロウソクをともしてフーッと息を吹きかけなくちゃ」と思うんですよ。そして夫が甘いもの好きなおかげでホールケーキはちゃんと完食しちゃいます。

でもこれが母と娘の二人家族だと、なかなかホールケーキは買わないかもしれません。 ゆか と こいちゃんにとってホールケーキは自分たちが失ったものの象徴なのでしょう。 二人で買ったホールケーキをもりもり食べる様子は可愛らしくもあり、健気でもあります。

「ホール」の次の短編「ショートケーキ。」の主人公は、ケーキ屋さんでアルバイトをしている男子大学生。「ホール」で ゆかとこいちゃんがホールケーキを買いに行くお店のアルバイトくんです。

彼は、アルバイトで接客をするうちに ケーキを買うお客さんがみんなハッピーな表情をしているわけではないことに気が付きます。

仕事や浮世の付き合いに疲れたような表情の人が、ショーケースに並べられたケーキを見て、ハッと足を止める様子を「救命ボートを見つけた遭難者みたい」と表現するアルバイトくん。(実際にそう表現しているのは坂木司さんですけど)。

自分が扱っているケーキが単なる商品ではなく、誰かの力になっていることに気がつくわけです。
そう考えているのはアルバイトくんだけではありません。 売り場の先輩である上田さんはこう言っています。
「うちのケーキってさ、なんかちょっとだけ日々の何かを救っているような気がするんだよね」
(坂木司さん『ショートケーキ。』 P48より引用)
辛い時、お酒を飲んでうさを晴らす人もいれば、アイドルの笑顔に癒される人もいる、そしてケーキを食べて疲れを癒す人もいるはず、というわけです。自分が取り扱っている商品をそんなふうに思えるって、働きがいがありますね。

さて、そんなアルバイトくんにとって気になるのが、時々やってくる二人の女性。 二人はいつもホールケーキを買ってくれます。

盗み聞きするつもりはないけれど、聞こえてくる二人の会話の中に「失われたホールケーキの会」という言葉が。なんだろう、大学のサークルか何かだろうか?疑問に思うアルバイトくん……

もうお気づきだと思います。アルバイトくんのお店でホールケーキを買っているのは「ホール」に登場した ゆかとこいちゃん。

この短編集は、すべてショートケーキが出てくるだけではなく、登場人物がなんらかの形で次の作品に繋がっているのです。

ケーキの甘さ、おいしさを思い浮かべながら、それを食べる人、売る人の人生の機微を読む仕掛けになっている「ショートケーキ。」。タイトルの通り、ほんのり甘く優しい読後感でした。

同時に、むしょうにイチゴのショートケーキが食べたくなって困っています。
ショートケーキ。
坂木 司(著)
文藝春秋
ケーキは、ちょっとだけ日々の何かを救ってくれる。誰からも愛されるケーキをめぐる、甘くてすこし酸っぱい5つの物語。 出典:楽天
profile
池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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