ウクライナから来た少女 ズラータ、16歳の日記(ズラータ・イヴァシコワ)
「好き」という原動力の強さ ウクライナから来た少女 ズラータ、16歳の日記
ズラータ・イヴァシコワ(著) 私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。
今回ご紹介するのは、ズラータ・イヴァシコワさんの『ウクライナから来た少女ズラータ、16歳の日記』。 16歳の頃、あなたは自分の将来についてどんな展望がありましたか? やりたいことを見つけていましたか? 私は全く何も考えていませんでした。 本を読むことが大好きでしたが、それを仕事に結びつけていませんでした。 好きなことを職業にするなんて(できるなんて)考えたこともなかったのです。 漠然と、大学は文学部に進みたいけど、文学に関する仕事に就けるわけがないので、卒業後はどこかの会社に就職することになるんだろうなぁ、ぐらいの考えです。 著者 ズラータさんは16歳で自分の好きなこと、やりたいことを見据え、将来の夢を明確に思い描いていました。 ウクライナのドニプロ市に住む16歳の少女ズラータ。絵を描くことと日本語が大好き。
ズラータが日本語と出会ったのは13歳の時だった。祖母の家の本棚に「日本語独習」という本を偶然見つけたのがきっかけだ。それはズラータのおじ(母の弟)の本で、昔、日本語を独学するのに使っていたのだという。日本語の文字はこれまで見たことがないような形をしていて種類も多くズラータの興味をひいた。叔父にその本を借りて日本語を独学し始めたズラータは、言語だけではなく、アニメや漫画など日本の文化にも興味を持つようになった。そして、幼いころから絵が好きだったことから、将来は日本に行って漫画家になりたいと思うようになった。そのためには今通っている絵の専門学校で技術を身につけると同時に、働いて資金を貯めなくては。 そんな夢を持っていたズラータの運命が変わったのは2022年2月24日。ロシアがウクライナに侵攻してきたのだ。戦争だ。まだドニプロ市が攻撃されることはなかったが、周囲の人はみなガソリンスタンドやスーパー、銀行などに並んで非常時に備えようとしていた。学校でも、いざとなったときには各自命を守る行動をするように教えられる。命の危険もあるかもしれない事態に、ズラータは思う。「日本を見るまでは死ねない!」。 そしてズラータの母は決断した。ズラータを日本に避難させると。ズラータの夢を知っていた母は、彼女を応援するために一生懸命お金を貯めていたのだ。まだ先のことだと思っていたが、今こそ娘を日本に送り、身の安全を確保すると同時に夢に一歩近づけさせる時だと……。 (ズラータ・イヴァシコワさん『ウクライナから来た少女ズラータ、16歳の日記』の出だしを私なりにまとめました) 結論から言うと、ズラータさんは無事に日本にやってきます。しかし、戦争中に国を出ることはそんなに簡単なことではありません。
まずは、日本への直行便がでているポーランドのワルシャワへ行くにも、戦時下で列車はダイヤ通りには動きません。列車を待つ時間の長いこと。しかも周囲は同じように国外脱出しようとしている人であふれかえっているのです。 なんとか無事にワルシャワに到着したと思ったら、今度は新型コロナウイルスへの感染が判明。もちろん飛行機に乗ることはできず、数日間待機することに。ズラータさんはなんと日を置いて4回、PCR検査で陽性判定を受けました。陰性でなければ渡航できません。潤沢な資金があるわけではないズラータさんは、そこにとどまる費用も心配になり、もう日本に行けないのではないかと思うのですが、偶然出会った人との縁により、無事、夢の日本にやってきたのでした。 この「日記」は2022年の数ヶ月間についての記録です。ズラータさんの目からみた戦時中の精神状態や周囲の様子などが文章だけでなく、絵からも伝わってきます。 1冊の日本語独習本から日本語を勉強して太宰治にハマり、『人間失格』の初版本を購入したズラータさん。好きになったらとことん追求する人なのでしょう。そんなズラータさんが戦時下の緊張状態で、戦争以外のことに集中したいときにしたことは「折紙」。しかも「奴さん」や「兜」「鶴」のようなスタンダードなものではなく「蛙」や「龍」に挑むのが彼女らしいと言えるかもしれません。 「好きこそものの上手なれ」と言う諺の通り、ズラータさんの日本語能力は非常に高く、それが彼女の道を開くことになります。日本から取材に来ていたマスコミの人と話し、自分の言葉で日本に行きたいことを伝えることができたのです。 どれくらいのものか、この動画を見ていただくとわかりやすいと思います。 私はズラータさんから、「好き」という原動力の強さを感じました。「好き」という思いから生まれた夢に向かって、ひたむきに進むズラータさんだからこそ、ピンチに際して奇跡的な出会いに恵まれ、無事に日本に来られたのかもしれません。
ズラータさんがただがむしゃらに夢に突き進むだけではなく、戦争という非常事態の中、非常に冷静に物事を捉えている様子に感動しました。 この戦争についても、いろいろな意見を言う人がいる。その人たちの意見を聞いて、それが自分のよく知らないことだったり、直接見たり聞いたりしたことでない場合は、「そうだよね? そう思うよね?」と同意を求められても、私は頷いたりしないことにしている。一度そう言ってしまうと、私はそのテーマについて十分にわかっている言うことになってしまい、相手もそのつもりでどんどん聞いてくるだろう。そうしたらその人の考えや選択肢を変えてしまうかもしれない。それは私もつらいし、相手のためにもならない。
(ズラータ・イヴァシコワさん『ウクライナから来た少女ズラータ、16歳の日記』P93-94より引用) 相手によく思われたくて、ついつい話を合わせてしまいそうになるけれど、ズラータさんの意見があまりにも正論で、自分が恥ずかしくなりました。
もう1箇所、ハッとさせられる部分がありました。 「明日がある」という気持ちは前向きに生きる上でとっても大切なことだと思う。でも、あまりにそれを思い続けてしまうと、明日に頼り過ぎてしまう気がする。課題を明日に投げてどんどん先延ばしにしてしまう。それでは駄目だ。やっぱり今日を精一杯生きないといけない。だって明日は来ないということだって十分にあり得ることを知ったから。
一日、一日、今日という日を充実させて、悔いのないものとして重ねていきたい。今すべきこと、今しかできないこと、そのことに集中していこう。今日という日が明日も続くとは限らないのだから。 (ズラータ・イヴァシコワさん『ウクライナから来た少女ズラータ、16歳の日記』P142より引用) この気持ちを、私も阪神淡路大震災の時に感じました。
今日と同じような明日が来るとは限らない、と。だからこそ今日、いや"今"を一生懸命生きなくてはいけないと、そう思ったはずなのに「喉元過ぎれば熱さ忘れる」でしょうか。徐々にその気持ちが薄まって、最近は なあなあで過ごしています。ズラータさんの日記のおかげで、その気持ちを思い出すことができました。 ズラータさんの日記は、2022年7月で終わっています。4月に日本に到着し、生活に少し慣れたころで、日本で実際に生活してみて驚いたことや感心したこと、逆に対処に困っていることなどが書かれています。 最後の日付から約1年。ズラータさんは今どうしているのかしら。彼女の夢が叶うことを祈っています。 【パーソナリティ千波留の読書ダイアリー】 この記事とはちょっと違うことをお話ししています。 (アプリのダウンロードが必要です) ウクライナから来た少女 ズラータ、16歳の日記
ズラータ・イヴァシコワ(著) 株式会社 世界文化社 「あなたはこれから一人で生きていくの」。母のその一言からすべてが始まったー。昨日までマンガと小説が大好きな普通の女子高生だった、ズラータ・イヴァシコワ。母が必死で工面してくれた16万円をもって戦火が広がる故郷からあこがれの日本を目指すー。全力で生きることに挑戦をする女子高生に訪れたやさしい奇跡と生きることへの挑戦。 出典:楽天 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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