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旅ドロップ(江國香織)

いろんな味の旅がある

旅ドロップ
江國香織(著)
江國香織さんの旅に関するエッセー『旅ドロップ』には、2016年から2019年にかけてJR九州の車内誌『Please プリーズ』に連載された36のエッセーと、三遍の詩、そして番外編『トーマス・クックとドモドッソラ』が加えられています。

エッセーのタイトルをご紹介しましょう。
旅ドロップ1 心が強くなる歌
旅ドロップ2 大分の緑とバードマン
旅ドロップ3 地理の勉強のこと
旅ドロップ4 パリの地下鉄と真理ちゃんの声
旅ドロップ5 バターパンのこと
旅ドロップ6 かわいそうなつばめ
旅ドロップ7 日帰り旅行の距離と時間
旅ドロップ8 最初に行く店のこと
旅ドロップ9 思い出の富士山
旅ドロップ10 平安時代の旅
旅ドロップ11 はみだす空気
旅ドロップ12 逆転現象のこと
旅ドロップ13 死者の家
旅ドロップ14 コーヒータイム
旅ドロップ15 旅先の雨
旅ドロップ16 長崎の夜
旅ドロップ17 決意している
旅ドロップ18 かれいひのこと
旅ドロップ19 スドクのこと
旅ドロップ20 ローマのケニア
旅ドロップ21 みたいなもの
旅ドロップ22 乗り継ぎのこと、あるいはフランクフルトの空港の思い出
旅ドロップ23 ナッシュヴィルのアイスクリーム
旅ドロップ24 三十分間の旅
旅ドロップ25 年中眺めていたかった版画のこと
旅ドロップ26 ポケットから出現するもの
旅ドロップ27 動物たち
旅ドロップ28 がんばれ永明
旅ドロップ29 ロシアの紅茶
旅ドロップ30 ロシアの書道
旅ドロップ31 斜めのコップ
旅ドロップ32 九州@東京
旅ドロップ33 脱臭剤の思い出
旅ドロップ34 F氏からの手紙
旅ドロップ35 にこやか問題
旅ドロップ36 帰る場所のこと
(江國香織さん『旅ドロップ』目次より転記)
エッセーは一話が約1000文字。ページにすると3枚で、隙間時間に好きな章をさっと読むことができる程よい分量です。

私は江國さんほど旅行体験はありませんが、実際の旅行についてだけではなく、「旅」を思わせるあれこれについても書かれているので、いろいろな部分に共感できました。

特に「わかる!!」と思ったのは「旅ドロップ18 かれいひのこと」。

「かれいひ」は「乾飯」と書きます。

干したご飯のことで、水やお湯をかけて戻して食べる平安時代の保存食です。携帯にも便利なので、旅行の時に持参していたようです。

江國さんは、古典の授業でこの「かれいひ」に出会い、非常に印象に残ったと書かれています。

それを読んで私は思わず「わかる!私も!」と声に出して言いそうになりました。

あれは高校の古典の授業。

「昔、男ありけり」で始まる『伊勢物語』が教科書に載っていました。

主人公の「男」のモデルは、平安の色男 在原業平と言われています。

色々あって都を離れ、東国を目指していた一行が三河国の八橋を通りかかったときのこと。

美しく咲いているカキツバタを見て、一人が、都に残した妻を思う句を詠んだところ、皆、思わず泣いてしまい、それが携帯食の乾飯の上にかかり、乾燥したお米がふやけてしまった、というお話。

原文は
「かれいひのうへに なみだおとして ほとびにけり」

高校の教室でその文章を読んだ江國さんの感想は
干したご飯が戻るほどの涙って、このひとどれだけ泣いたのだろう、と思った。
(江國香織さん 『旅ドロップ』P86より引用)
そして江國さんは大人になってからも、この文章を時々思い出すのだそうです。

私も、高校の授業で習った時には江國さんと全く同じことを思いましたし、そして現在でも、固いご飯を食べている時などにふと「かれいひのうへに なみだおとしてほとびにけり」を思い出すことがあるのです。

いやぁ、嬉しい。

「旅ドロップ6 かわいそうなつばめ」も、共感できる章でした。

江國さんは、物語に登場するつばめが つらい目に遭わされているのを哀れんでおられます。

その物語とは、オスカー・ワイルド『幸福の王子』とアンデルセンの『おやゆびひめ』。

この2つの物語の中で、生まれながらの旅人のつばめがどんな扱いを受けているかは実際に読んでみてください。

私は、子どもの頃に読んだ童話の中で、『幸福の王子』と『おやゆびひめ』が好きではありません。

特に『幸福の王子』は思い出すのも嫌。

このエッセーを読んで、私がなぜこの2作品を好きになれなかったのかやっとわかりました。

つばめがかわいそうすぎたからだったのね!

江國香織さんといえば、先日『去年の雪』を読んだ時には「こんな風変わりな小説を読むのは初めて!」と驚き、著者自身、どんなに変わったひとなのだろうと思いましたが、このエッセーを読むと、とても親しみを覚えるのでした。

タイトルの「旅ドロップ」の意味は、この本に書かれていません。

私が勝手に想像したのは、サクマのドロップ缶。

オレンジやレモンなど数種類の味が入っていて、子どものころの私はいつも「ハッカが出てきますように」と祈りながら缶を傾けたものです。

なのに手のひらに落ちてくるのは、たいていがオレンジ味。

がっかりしながら口に放り込み、コロコロ転がしながらなめていましたっけ。

最近食べていないわ、サクマのドロップ。

あのドロップ缶のように、いろいろな味の「旅」が詰まっている、だから『旅ドロップ』なのではないかしら。

『旅ドロップ』のなかにはきっと、あなたのお好きな味の「旅」もあると思いますよ。
旅ドロップ
江國香織(著)
小学館
旅をした場所と空気、食べ物、そして出会った人々や動物たちーこのエッセー集は、ちいさな物語のようだ。時も場所も超えて、懐かしい思い出に、はるかな世界に連れ出してくれる。エッセー37篇のほか巻頭に詩を三篇収録。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
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ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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