走らんかい!(中場利一 )
岸和田の熱さが伝わる 走らんかい!
岸和田だんじりグラフィティ 中場利一(著) 『岸和田少年愚連隊』以来、久しぶりに中場利一さんの小説を読みました。
大阪府には多くの市町村があります。阪神間に住んでいれば、大抵の市町村は名前ぐらいは知っています。 だけどそこがどんな場所かと聞かれたら、行ったことや住んだことがない限り、漠然とした印象しかありません。 ですが岸和田市は別。 きっと関西圏のたいていの人は岸和田と聞けば「おお、だんじりの!」と思うはず。 その言葉の中には、 ・現住所がどこであろうと、だんじり祭りの日には会社(学校)を休んで戻ってくるらしい ・何をさておいても まずだんじり らしい ・建物などにぶつかった時のための だんじり保険がある ・不幸にして死人が出ても、祭りはやめない というプチ情報も盛り込まれております。 私も岸和田市には行ったことがないのに、だんじり祭りに命を懸ける熱い市というイメージが固定しております。 『走らんかい!岸和田だんじりグラフィティ』は岸和田市を舞台に、だんじりへの熱い想い、友情、恋を描いた物語です。 17歳のヤマトは父親との二人暮らし。現在は大阪府の別の市に住んでいるが、岸和田出身のヤマトの父は、会話のほとんどが だんじりだった。そしてこのたび、二人はかつて住んでいた岸和田の家に引っ越すこととなった。
ヤマトはカシコ(関西弁「賢いお子」の意味)の学校に通っていた。しかし学校には友人がいない。引きこもり一歩手前だが、誰にも干渉せず干渉されない。そんなポジションも良いのではないかとヤマトは思っていた。 ところが岸和田に引っ越してくるや、濃密な人間関係にあっさりと引き込まれてしまう。気がつけば地域のだんじりの青年団にも加入させられていたのだった。地域住民の暑苦しいまでの一体感は、全てだんじりのため。日頃の行動の全てが、一年に一度の晴れ舞台の準備になっているのだ。 心の基礎体温が低めのヤマトだったが、心から信じられる仲間と、だんじりへの愛が芽生え始める。同時に、気になる女の子と出会う。相手も自分のことを気に入ってくれているようだ。だがその恋は決して成就しない恋なのだった……。 (中場利一さん『走らんかい!岸和田だんじりグラフィティ』を私なりに紹介しました) いやはや、知っているつもりだったけれど、岸和田市は本当に だんじり命の市だと再認識させられました。
この小説に出てくるだんじり関連の情報を全て事実だと仮定しますと、まず、岸和田のカレンダーはだんじり祭りがある9月が起点なんですって。 そしてだんじり祭りが終わるや否や、男たちが交わす言葉は 「えらいこっちゃ!祭りまで一年しかないど!大忙しやあ!」
(中場利一さん『走らんかい 岸和田だんじりグラフィティ』P33より引用) 準備してもしても し足りないらしいです。
祭りに燃える青年も中年も、やんちゃが多いのに、茶髪の人が一人もいません。 みんな髪の毛は真っ黒。 その理由は 「茶髪のヤツはだんじり曳かさへんど!」という お達しがあるから。 祭りが終わるとまた茶髪に戻すのだそうですよ。 ひったくりが多発した時には、岸和田警察からのお願いが入り、「ひったくりのようなセコイ犯罪をするヤツはだんじりを曳かさへんど!」と各地区にアナウンスが。 すると劇的にひったくり件数が減ったそうです。 だんじりに参加できないことが何よりの刑罰なんですね、岸和田では。 そもそも 岸和田のだんじり祭りは1700年代、岸和田城主が五穀豊穣を祈願して始めたお祭りだそうですが、もしかしたら岸和田の住民は当時から血の気が多く、ガス抜きの意味も兼ねた祭りだったのかもしれません。 同じ市内でも「ウチのだんじりが一番や!」と競い合うことで一層祭りは盛り上がります。 近所付き合いが希薄になっている今日の日本でも、自分の住んでいる地域への愛、同じだんじりを曳く仲間との繋がりをこんなにも持っていられる岸和田市民が羨ましい気もします。 ヤマトの恋については、現実にはありえないシチュエーションの気もするけれど、それは「お話」ということで。 ところで私が以前夢中で読んだ『岸和田少年愚連隊』に出てくる特別なキャラクター「カオルちゃん」の消息が『走らんかい!』に出てきたことは嬉しかったです。映画では小林薫さんが演じていたんですよ。 どちらを先に読んでも面白いとは思うけど、岸和田市のイメージがあまりない方は、実際に岸和田のだんじり祭りの映像をご覧になってから読まれることを強くお勧めします。 綱を曳いていない人も後ろからワラワラと走っていて、小説のタイトルが『走らんかい!』なのがよくわかるというもの。 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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