あえのがたり(加藤シゲアキ他)
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![]() 10人の作家による能登半島地震チャリティ短編集 あえのがたり
加藤シゲアキ他(著) アイドルであり作家でもいらっしゃる加藤シゲアキさんが、今村翔吾さん、小川哲さんに呼びかけ、立ち上げられた「能登半島応援チャリティ小説企画」は10人の作家さんがそれぞれ1万文字で紡いだ世界を集めたもの。
タイトル「あえのがたり」は造語です。 奥能登地域の農家では、古くから”田の神様”に感謝を捧げる「あえのこと」という儀礼が行われているそうです。 「あえ」は「おもてなし」を、「こと」は「祭り」を表す言葉。 その意を汲んで、物語によるおもてなし、「あえのがたり」というタイトルに決まったそうです。 錚々たる作家さんのおもてなし小説はあっという間に読み終えることができました。 能登地震が発生した2024年1月1日、加藤シゲアキさんはインドにいらっしゃったそうです。例年であれば所属事務所のカウントダウンイベントに参加するはずですが、2023年の年の暮はそのイベントは開催されず、予定が空いた加藤さんは海外で過ごすことになったわけです。 インドにいても、スマートフォンを通して震災の情報は伝わってきます。 しかも翌日には、羽田空港で能登半島地震に関連する痛ましい事故の報道も飛び込んできました。インドにいた加藤さんは生きることや祈りについてなど、宗教的な考えが自然と浮かんできたそうです。そして被災者の皆さんに何かできないかと考えるようになったそう。 帰国してすぐ、2024年1月17日に行われた第170回直木賞選考会には、加藤シゲアキさんの『なれのはて』が候補に挙げられていました。 ニュースで直木賞受賞の一報を待つ作家さんの姿を拝見することがあります。大抵、出版社の担当編集者や関係者も一緒に待っていたりしますが、その日の「待ち会」に今村翔吾さんが顔を出したのだそう。 残念ながら受賞ならずということがわかった後、今度はそこに小川哲さんが残念だったねと声をかけにきてくださったのですって。 そこで加藤さんがお二人に「能登半島地震の被災者の方たちのために、一緒に何かやりませんか?」と呼びかけてチャリティ企画が始まったというのです。その日が阪神淡路大震災の発生日、1月17日だったことは偶然ではない気がします。 小説は食べられませんし、電気も生み出しません。 被災者に全く役に立たない、と思われるかもしれません。 でも、エンタメは人の心を温めたり動かしたりできるもの。 一過性ではなく、また局所的ではないチャリティ小説にしたいとのことで、あえてジャンルを限定しないことになりました。SFや純文学、ファンタジーなど、なんでもいいと。また、ダイレクトに被災地のことを書いてもいいし、全く関係ないことでもいい。ただ、大きく「物語によるおもてなし」というテーマが決まったのでした。 収録されている作品を掲載順にご紹介します。 著者名は敬称略で失礼します。 ・加藤シゲアキ「そこをみあげる」
・朝井リョウ「うらあり」 ・今村昌弘「予約者のいないケーキ」 ・蝉谷めぐ実「溶姫の赤門」 ・荒木あかね「天使の足跡」 ・麻布競馬場「カレーパーティー」 ・柚木麻子「限界遠藤のおもてなしチャレンジ」 ・小川哲「エデンの東」 ・佐藤究「人新世爆発に関する最初の報告」 ・今村翔吾「夢見の太郎」 (『あえのがたり』目次より引用) よく存じていて、作品も拝読したことがある作家もいらっしゃれば、お名前は存じているけれど作品を読んだことがない方、大変失礼ながらお名前も今回はじめて知った方、と色々です。『あえのがたり』は物語にもてなしてもらう以前に、作家さんとの新たな出会いの場でもあるのですね。
どの作品も面白かったのですが、私は特に蝉谷めぐ実さんの「溶姫の赤門」と今村翔吾さんの「夢見の太郎」に引き込まれました。 「溶姫の赤門」の主人公 溶姫は、11代将軍徳川家斉の二十一女で、加賀藩前田家に嫁ぎます。その嫁入り支度の話なのです。物語の内容も面白いけれど、ストーリーの底に江戸時代と現代、能登半島と東京を繋ぐものがあり、感動しました。なんと完璧な短編であることか。 「夢見の太郎」は、はっきりとした時代背景は描かれていません。 現代ではないな、ということだけはわかります。 読んでいるとなんだか「日本昔ばなし」を思い出し、テーマ曲を歌いたくなるような語り口のお話です。 ストーリー自体はとてもシンプルなのですが、読み終わったあとで、心にじわじわっと感動が広がってくることに驚きました。 性善説にも過ぎるだろうと感じるお話なのに、心揺さぶられる。小細工を弄さない、まっすぐな物語に、風格すら感じてしまいます。 「夢見の太郎」の最後の行を読み終わった時、新美南吉さんの『手袋を買いに』のラスト「ほんとうに、人間はいいものかしら」という母キツネのことばが不意に心に浮かんできました。 人間っていいなぁ。 さまざまなジャンルの魅力的な短編が収められた『あえのがたり』の締めくくりが「夢見の太郎」であることに深く納得しています。余韻に浸れる。 物語によるおもてなし『あえのがたり』は、被災地支援という意味だけではなく、いろいろな人におすすめしたい短編集です。 ちなみに、声の書評stand.fmでは小川哲さんの『エデンの東』について語っています。よろしければお聞きくださいね。 【パーソナリティ千波留の読書ダイアリー】 この記事とはちょっと違うことをお話ししています。 (アプリのダウンロードが必要です) あえのがたり
加藤 シゲアキ(著), 今村 翔吾(著), 小川 哲(著), 佐藤 究(著), 朝井 リョウ(著), 柚木 麻子(著) 講談社 小説を読み、未来につなぐ。能登半島応援チャリティ小説企画。加藤シゲアキ「そこをみあげる」神に見放され、何一つうまくいかなかった男が山で見つけたのは打ち捨てられた船だった。 朝井リョウ「うらあり」ある島を訪れた男女4人。人々はあたたかく迎えてくれたのだが。 今村昌弘「予約者のいないケーキ」このサプライズケーキは、一体誰に提供すればいいのだろう。 蝉谷めぐ実「溶姫の赤門」加賀藩主・前田斉泰への輿入れを前に、徳川の姫は思い悩んでいたー。 荒木あかね「天使の足跡」大事なミニブタも夫もいなくなってしまった。あと残っているのは、娘だけ。 麻布競馬場「カレーパーティー」少数精鋭のチームに配属され、親睦を深めるための癖のあるカレーパーティーが始まる。 柚木麻子「限界遠藤のおもてなしチャレンジ」あんたがおもてなししている場合なの?友の危機に集まったのは『スーパーゴリオ爺さんズ』。 小川哲「エデンの東」担当編集者から届いたメールに、私は激怒した。もっとわかりやすくしてほしい、だと? 佐藤究「人新世爆発に関する最初の報告」プラスチックが漂着する小さな漁村に暮らすカロイは“新聞島”と呼ばれる無人島に惹かれていた。 今村翔吾「夢見の太郎」「夢がある」と周囲に語って以来、太郎は主から疑いの目を向けられー。 出典:楽天 ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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