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山桜記(葉室麟)

山桜記
葉室麟(著)
出版社:文藝春秋(2016)【内容情報】(「BOOK」データベースより)朝鮮出兵の前半、文禄の頃。一通の文箱が博多の津に打ち上げられた。それは半島に渡った夫を思う妻のものだった。興味を持った豊臣秀吉は女を名護屋に呼び寄せたが…(「汐の恋文」)。顧みられること稀な戦国の世の夫婦の姿に焦点をあて、「武」の背後に秘められた様々な情愛の光景を描いた傑作短編七作を収録。(出典:楽天
幕末に並んで時代劇、時代小説で人気があるのは
戦国時代ではないでしょうか。
個性的な人物が風雲に乗り、次々現れるのですもの。
結果が分かっていても、ワクワクします。

上杉謙信、武田信玄、伊達政宗、
織田信長、徳川家康、豊臣秀吉…
もっともっと名前があがるはず。

かたや女性はどうでしょうか。
信長の妹お市の方やその娘の淀君、
明智光秀の娘であり細川忠興の妻細川ガラシャ、
秀吉の正室おね(ねね?)、
有名な女性は何人かいますが、
それ以外の武将や大名の妻がどんな人だったのか、
ほとんどスポットがあたっていないのではないでしょうか。

葉室麟さんの『山桜記』は、
戦国時代から江戸時代初期の九州各地ゆかりの武将と
その妻の姿を描いた短編集です。

短編は7つ。それぞれの主人公は

『汐の恋文』
肥前佐嘉(さが、原文のまま)の大名竜造寺政家の家臣
瀬川采女と妻菊子。

『氷雨降る』
九州島原半島に四万石を有する
有馬晴信と妻ジュスタ(洗礼名)。

『花の陰』
細川忠興と細川ガラシャの息子
細川忠隆と妻千世。

『ぎんぎんじょ』
肥前の大名鍋島直茂と妻彦鶴

『くのないように』
徳川家康の十男頼宣と
妻八十姫(加藤清正の娘)。

『牡丹咲くころ』
元柳川藩主立花忠茂と
妻鍋姫(伊達政宗の孫)。

『天草の賦』
天草の乱異聞。

『天草の賦』だけは少し趣が異なりますが、
それ以外は、夫婦の絆や、親子の情、嫁姑の関係など、
現代に生きる私たちでも共感して、
一緒に泣いたり笑ったり、喜んだり憤ったりできる
人間関係が描かれています。

七編に共通しているのは、
登場人物がみな凛としていること。
特に『牡丹咲くころ』に登場する
原田宗輔、のちの原田甲斐の生き様には
胸が締め付けられました。
これ、宝塚歌劇向きだと思う。
チギちゃん(雪組トップスター早霧せいな)に
やってもらいたいわ〜。

もう一つ胸が熱くなったのは、
『くのないように』。

加藤清正の、娘に寄せる思いの深さ。
八十姫は11歳の時に父を亡くしており、
自分の名前に込められた父の思いを、
ずいぶん後になって知らされます。

タイトルどおり『くのないように』との父の思い。
八十姫はそれを、
単に苦しみを避けるのではなくて、
物事にとらわれる苦から逃れることだと理解します。
その上で自分らしく生きろということなのだと。
私は加藤清正を荒くれ武将だと思っていたのですが、
新たな一面を見ました。

戦国時代の結婚はほとんどが政略結婚だったと思っていましたが、
その中にも、相手を思いやる気持ちや、愛情があったのだなぁ。
それは葉室さんが作り上げたフィクションなのかもしれないけれど、
ぜひ、そうであってほしいと、
願わずにはいられない美しいお話でした。

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BLOG ⇒PROページ

著書:パーソナリティ千波留の読書ダイアリー
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。
だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。

「千波留の本棚」50冊を機に出版された千波留さんの本。
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