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ほんじつ休ませて戴きます(さかもとけんいち)

ほんじつ休ませて戴きます
人生最晩年、あふれ出た愛の言葉集
さかもとけんいち(著)
著者のさかもとけんいちさんは大阪市北区にある「青空書房」という古本屋の名物店主。

大正12年(1923年)に生まれ、22歳で終戦を迎えています。

学徒動員で招集を受け、陸軍へ。

何度か死と直面したものの、いろいろな偶然が重なって、戦争で命を落とさずに済みました。

しかし、戦争中には正義と信じていたものがそうではなかったと知らされたり、近所のお姉さんが、生きていくために春をひさいでいるのを見たり、いったい何を信じて良いのやら、絶望して自殺を考えた さかもとさん。

死に場所を探してうろうろし、どうせ死ぬなら大好きな場所でと、天王寺公園に向かいます。

そしたら園内にある大阪市立美術館が目に入るのです。

最後に絵を見てから死のう…

その時の展示はマチスでした。

さかもとさんは、世の中にこんな美しい色があったのかと衝撃を受けます。

絵と、その絵を生み出す人間の力に圧倒され、自分も何か創造したい、と、死ぬのをやめたのでした。

とはいえ、家族はみんな飢えています。

さかもとさんのお父さんは船場のぼんぼん育ちで、ガツガツしたところのない人。

これは自分がなんとかして、家族を食べさせなくては。

何かを創造する以前に、お金を稼がねばならない…

しかし金を稼ぐ手段がない。

どうすれば、どうすれば…と周りを見渡すと、出征前に夜学に通いながら買いためてあった、岩波新書100冊が目に入るわけです。

それを難波(もとの新歌舞伎のあたり)で売りに出したところ、飛ぶように売れました。

貧しくて、食べるものにこと欠いても、本を読みたい人がこんなにもいっぱいいるのか、とさかもとさんは気付かされます。

まさに「人はパンのみにて生くるものにあらず」。

これがきっかけで さかもとさんは古本屋「青空書房」を開くことになりました。

本を読むことの素晴らしさを、一人でも多くの人に伝えたい一心で、売りに来た本はなるべく高く買い取り、売る時には手頃な値段にしていた「青空書房」。

ご自身も本を読むことが大好きで、商売より読書が優先。

読書が佳境に入ると、お客様がいても「もうちょっと読むまで待ってて」。

そんなとき、青空書房のお客様は怒ったりせず、じっと待ってくださるんですって。

さかもとさんの人柄にも惹かれ、お客様の中には有名な作家さんも名を連ねています。

さかもとさんは、青空書房を休む時には手描きのポスターを貼り出していました。

そこには「ほんじつ休ませて戴きます」という言葉に、ちょっとした絵や言葉が添えられていました。

本を読むことは豊かに生きること、本を愛してくださいよ、という思いに満ちたことばが。

常連さんの中には、味のあるポスターを見たさに、わざわざ休みの日に青空書房を訪れる人もいたそう。

この本は、描きためたポスターと、さかもとさんの愛の言葉を紹介したもので、後半は、入院した奥さんへ送り続けた絵手紙が紹介されています。

結婚59年。
その絵手紙からは奥様への感謝と愛情がにじみ出ていて、涙が出ます。

絵手紙の宛先を見てびっくり。

奥様が入院していたのは、大阪府箕面市粟生間谷にあるガラシア病院!
近い!

読み終わって、私は青空書房に行こう〜と思いました。

さかもとさんに会いたいナと。

ところが、なんてこと!!

さかもとさんは、2016年7月に亡くなっていたのでした。

そして青空書房も、さかもとさんの死に伴って閉店されたのでした。
あああ!

今までいっぱしの読書家ぶっていたのに、青空書房を知らなかった私はモグリだぁ!

知ってさえいればいつでも行ける場所にあったのに。

さかもとさんと、あの本のこと、この本のこと、お話ししたかったのに。

知らないって罪だ。

ワタクシ、今かなり へこんでいます。

本当に、一度だけでもお会いしたかった。

さかもとさん、天国で再び奥さんと会えたのでしょうね。

安らかにお眠りください。

いえ、寝ていらっしゃらないかも。

きっと大好きな本を心ゆくまで読んでおられるでしょう。
合掌。
ほんじつ休ませて戴きます
人生最晩年、あふれ出た愛の言葉集
さかもとけんいち(著)
主婦の友社(2013)
生命とは何やねん、今ここにあることや。90歳、古書店「青空書房」店主が綴る、いとしきものへの生命のメッセージ。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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