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いとしいたべもの(森下典子)

いとしいたべもの
森下 典子(著)
私は記憶を司る部分の妙なポイントが発達しているらしく、友人たちから「よくそんなことを覚えているね!」と言わることが多々あります。

私の場合、記憶しているというよりも、普段格納庫にしまわれていて自分でも意識していないエピソードが、なんらかの言葉でパッと表面に飛び出してくる感じなのです。

今風にいうと、記憶にいろいろなタグが付いていて、会話の中にその単語が出てくると、検索システムが自動的に作動して、思い出がよみがえってくるんです。

しかし、そのような能力が発揮されるのは、たいてい、全く重要でないことばかり。「へぇー」と受け止められケラケラケラっと笑っていただいたら終わることばかりです。

そんな私が、「この人、よくこんな話を覚えているもんだなぁ」と感嘆したのが『いとしいたべもの』の著者 森下典子さん。

たべものにまつわる、あんな思い出こんな思い出が時に年月日まで特定して記述されています。

この本でエピソードが紹介されているたべものは「はじめに」も入れると23個。

ラーメン、オムライス、くさや、サッポロ一番みそラーメン、カステラ、ブルドックソース、鮭、水羊羹、カレー、舟和の芋ようかん、鶴屋吉信の栗まろ、松茸、きつねどん兵衛、江戸むらさき、メロンパン、茄子、ポテトサラダ、たい焼き、カレーパン、おこわ、崎陽軒のシウマイ弁当、おはぎ、おかゆです。

それを初めて食べた時の思い出や、その時に一緒にいた人たちの話は、ほぼ同じ時代を生きて来た私には、実感を伴って読めるものばかりでした。

とはいえ私は関西人なので、くさやは想像することもできませんし、「海苔の佃煮といえば『磯自慢』やわ~」「サッポロ一番はみそより塩ラーメンのほうがおいしいよ」などなど、反論(?)もいろいろありました。

しかし、それは些細なこと。
森下典子さんのたべものに関する描写は素晴らしい。
読んでいると、そのものが目の前にあり、自分もそれにかぶりついているような気がしてくるんです。

たとえばカレーパンをかじった瞬間、パン粉がセーターの胸元にこぼれてしまう様子など、「そう、そう、そうなのよ!」と誰もが思うことでしょう。

何より「はじめに」のエピソードを読むと、胸がいっぱいになり、きっと誰もがたべものにまつわる自分の思い出を振り返りたくなることでしょう。

この本は和菓子のあんこを練る機械などの食品加工機械メーカー株式会社カジワラのホームーページ「おいしさ さ・え・ら」に月に一度連載したものから生まれたんですって。

試しに検索したら、今も連載は続いていました。
現時点での最新号はキャッスルの「コロッケパン」。
味わい深い挿絵も森下典子さんの作品です。

うまいなぁ、文章も絵も。
HP上で見るのも楽しいけど、本のページをめくりながら読むと一味違う楽しさがあります。
Web掲載されたものを書籍化する意味はある、と改めて感じることもできました。

おいしく読めるたべものエッセイ『いとしいたべもの』
おおいにお勧めします。

それにしても、この本を読み終わった直後に、友人がTwitterで「鯛焼きを食べました」と写真を掲載しているのを見てびっくりしました。
この本の中で紹介されている東京三大鯛焼きの一つ人形町の「柳家」の鯛焼きだったのです。
さっそく「その鯛焼きは東京三大鯛焼きの一つだって」とうんちくを披露できました。
あとの二つは本で直接確認してくださいね。
いとしいたべもの
森下 典子(著)
文藝春秋(2014)
できたてオムライスにケチャップをかける鮮やかな一瞬、あつあつの鯛焼きの香ばしい香り…ひと口食べた瞬間、心の片隅に眠っていた懐かしい思い出が甦る―だれもが覚えのある体験を、ユーモアに満ちた視点と、心あたたまる絵でお届けする、23品のおいしいエッセイ集。(出典:amazon
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



 

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