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歴史と人生 (半藤一利)

「歴史探偵」半藤一利さんのエッセンス

歴史と戦争
半藤一利(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では週に一度、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

今回ご紹介するのは、半藤一利さんの『歴史と人生』です。

著者 半藤一利さんは、1930年生まれ。現在 88歳で、現役の作家です。

もともとは、東京大学卒業後、文藝春秋社に入社、松本清張さん、司馬遼太郎さんらの担当編集者を務められていたそう。

「歴史探偵」を名乗っておられ、『ノモンハンの夏』、『日本のいちばん長い日--運命の八月十五日』など数多くの作品を出版されています。

『歴史と人生』は半藤さんのこれまでの著作の中から、さまざまなエピソードを選りすぐったエッセイ集。

どんなフィルターで抽出したかというと、
浮世を楽しんで生きる知恵。
(本の帯から引用)
面白くて一気に読んでしまいました。

一言で「歴史」と言っても範囲が広すぎますが、この本では五つのジャンルに分けてあります。
第一章 歴史とリーダー、そして組織なるもの
第二章 歴史のこぼれ話を拾い集めて
第三章 歌と言葉で大いに遊ぶ
第四章 大好きな漱石先生のこと
第五章 近頃思うこと、憂うこと
(半藤一利『歴史と人生』 目次より引用)
私は、第二章、第三章、第四章が特に面白かったです。

まず第二章「歴史のこぼれ話を拾い集めて」の中で最も印象深かったのは、豊臣秀吉と明智光秀に関して書かれた部分。

紹介されている明智光秀の言葉
「仏の嘘をば方便と言ひ、武士の嘘を武略と言ふ。是を以って之を見れば、土民百姓は可愛きことなり」
(上半藤一利『歴史と人生』P47より引用)
権力者の嘘は正当化され、悪がまかり通ることもある。それに比べると、まともに生きる民衆は哀れで可愛い存在だと言うのです。

本能寺の変は、織田信長に理不尽な目にあわされた私怨を晴らしたもののように思っていましたが、この批判精神と、ヒューマニズムが下地にあったのだと思うと、明智光秀を見る目が変わりました。

一方の秀吉。

関西人は太閤さんが好きで、私もそうなのですが、最晩年、息子秀頼の行く末を五大老五奉行にあてて頼み込んだ遺書はいただけないと思っています。

草履取りから駆け上がっていった自らの道を省みたら、そんな遺言がどれほどあてにならないか、わかりそうなものなのに。

半藤さんは
こんな哀れな文言を読むと、天下人になんかなりたくないものよ、という気にさせられる。
(上半藤一利『歴史と人生』P47より引用)
とバッサリ。

ただし、秀吉の辞世の句は褒めておられます。

第二章でもう一つ印象に残ったのは、志賀直哉の日本語廃止論。

昭和二十一年、敗戦後の日本で、本当の文化国家になるための方策として、志賀直哉がぶち上げた主張がこれ。
《私は此際、日本は思い切って世界中で一番いい言語、一番美しい言語をとって、その儘、国語に採用してはどうかと考えている。それにはフランス語が最もいいのではないかと思う。》
(半藤一利『歴史と人生』 P47より引用)
これが「小説の神様」と呼ばれた志賀直哉大先生のお言葉か?!

信じられない!

やっぱり太宰治のいうとおり、志賀直哉は「小説の神様」ではなく「作文の神様」だったんだな!フン!

(たいていの太宰ファンは志賀直哉が大嫌い。話すと長くなるので今回は割愛します。)

第三章「歌と言葉で大いに遊ぶ」は文学論です。

この章で一番印象に残ったのは、紫式部と清少納言の比較。

半藤さんは、紫式部は「猫派のエゴイスト」、清少納言は「犬派で忠臣的」とおっしゃっています。

こんな見方があるなんて、面白い!

ちなみに二人の作品に犬や猫が登場する回数も比較してありました。

第四章「大好きな漱石先生のこと」は、読めば読むほど夏目漱石が好きになる章です。

半藤さんご自身、夏目漱石のことが好きで好きで、それが高じて(?)夏目漱石のお孫さんと結婚されているんですよ。

そんな半藤さんがおっしゃるには、夏目漱石の書簡は文学作品以上に面白いのですって。この章では、多くの書簡が紹介されています。

たとえば鈴木三重吉に当てた手紙にはこう書かれています。
「死ぬか生きるか、命のやりとりをする様な維新の志士の如き激しい精神で、文学をやって見たい。」
(半藤一利『歴史と人生』 P128より引用)
夏目漱石のあの文体がこんな精神から生まれていたのかと、背筋が伸びる思いです。

自分に厳しい反面、夏目漱石は門下生や後進の人に優しかったのですね。

芥川龍之介の『鼻』を読んで本人に出した手紙では作品を褒めるだけではなく、周囲の評判など気にせず、このまま進んでいけば、類まれな作家になれると励ましています。

また、しじゅうお金に困っていた石川啄木には何度でもお金を貸し、結局一度も返済してもらっていなかったなど、夏目漱石に関する興味深いエピソードが満載です。

「夏目家の猫には本当に名前がなかったのか」という疑問についても、義理のお母さん(つまり夏目漱石の娘)に質問することで解決しています。

夏目漱石の義理の孫になった半藤さんならではですね。この答えはご自身で読んでみてくださいね。

私は半藤一利さんの作品は『ノモンハンの夏』しか読んだことがなかったのですが、『歴史と人生』を読んで、他の作品も読みたいと思いました。

面白いところを集めたエッセイ集は半藤さんの作品の良い入口になっていると思います。
歴史と戦争
半藤一利(著)
幻冬舎
幕末・明治維新からの日本近代化の歩みは、戦争の歴史でもあった。日本民族は世界一優秀だという驕りのもと、無能・無責任なエリートが戦争につきすすみ、メディアはそれを煽り、国民は熱狂した。過ちを繰り返さないために、私たちは歴史に何を学ぶべきなのか。「コチコチの愛国者ほど国を害する者はいない」「戦争の恐ろしさの本質は、非人間的になっていることに気付かないことにある」「日本人は歴史に対する責任というものを持たない民族」-八〇冊以上の著作から厳選した半藤日本史のエッセンス。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

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ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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