偉大なるしゅららぼん(万城目学)
![]() |
|
![]() 琵琶湖を舞台にしたファンタジー 偉大なる、しゅららぼん
万城目 学(著) ずっとタイトルが気になって仕方がなかった万城目学さんの『偉大なるしゅららぼん』を読み終えました。
滋賀県には日本最大の湖 琵琶湖がある。
1000年以上前から琵琶湖畔には「湖の民」が存在していた。 特殊能力を持つ「湖の民」の代表的な存在は日出家。 日出家に生まれ、特殊能力があると認定された者は、中学を卒業すると本家に寄宿し、お堂で特訓を受け「特殊能力」を磨くことになっている。 その間、本家のある地域の高校に通う。 日出涼介は中学を卒業し日出本家にやってきた。 これから3年間、高校に通いながら修行させてもらう。 本家には涼介と同じ歳の日出淡十郎がいる。 淡十郎は本家の跡取りである。 涼介と淡十郎は高校で同じクラスになった。 そしてそのクラスには、日出家同様 湖の民である棗家の跡取り息子 棗広海もいた。 日出家と棗家はお互いに「特殊能力」を持つライバルとして1000年もの間いがみ合ってきた。 涼介は、高校入学初日から、棗広海に殴りつけられてしまった。 ライバルだった涼介、淡十郎VS広海の三人が、意外な人物に追い詰められ、ピンチに。 そこで発生する「しゅららぼん」とは一体何なのか? 三人は窮地を脱することができるのか? (『偉大なるしゅららぼん』を私なりにご紹介しました。) 「湖の民」の特殊能力とは、相手の心に入り込んで気持ちを左右したり、体の動きを操作したりする力です。
日出家、棗家に生まれた者全てに能力が備わっているわけではありません。 能力を持って産まれてきたこどもには「さんずいへん」の漢字を使った名前が付けられることになっています。登場人物の名前に着目すれば、その人が特殊能力の持ち主かわかるようになっているのです。 私の名前は「千波留」。さんずいへんの漢字が入っております。 この時点で私はこの物語に大変な親近感を抱くことになりました。 ところで、人の心に入り込んで気持ちを左右させたりする力を羨ましいと思いますか? 日出家はその能力を商売などに活用して大きく成長したと書かれていました。 確かに、人の心を自在に操れたなら、商品を売りつけることなど容易いことで、一族の繁栄には良いことかも知れません。 ただ、主人公の日出涼介はそんな力を100%ポジティブなものとして受け止めることができていません。涼介の父も、どうやら同じ気持ちのよう。 だけど「特殊能力」を持って産まれてきた涼介が、やみくもにその力を使ってしまわないように、しっかりと自分の能力を学んでおいた方が良いと思い、涼介が中学を卒業すると、ルール通り本家へと送り出すのです。 日出本家は文字通り「御殿」です。周囲にお堀があるようなお城に住んでいます。使用人の数もたくさんいて、お弁当もローストビーフや鰻重など毎日手の込んだものばかり。 そんな御殿で生まれ育った本家の跡取り息子 淡十郎は、リアルお殿様のような性格です。 思い通りにならないものがないのだからお殿様になるのは当然のことかもしれません。 ただ、普段は殿様らしく何事にも淡々としているのに、「デブ」と言われると人が変わったようになり、てひどい(でも面白い)復讐をします。つまり自分のビジュアルには相当引け目を感じているのでしょう。 一方、ライバルの棗広海は高身長のイケメンで、とてもモテる。淡十郎が好意を寄せた同級生女子までもが棗広海のことを思っております。 好きな相手に振り向いてもらえない淡十郎は、生まれて初めての挫折を味わい、棗広海に報復を誓うのです。 ああ、青春。 クラスの男女の淡い恋物語と「特殊能力」を組み合わせた学園エスパーものか?と思ったら、ことはそんなに単純ではありませんでした。 意外な人物が割り込んできて、一気に「超能力合戦」のような状況になってきます。結構なスペクタクル場面もありますが、最後は「青春」に戻ってきます。 なんだかワクワクする結末で、読後感が爽やかなのが良いです。 この小説は滋賀県という、私には比較的土地勘がある場所が舞台です。 特に、琵琶湖の北部にある竹生島が大きな意味を持っているところに惹かれました。 竹生島の宝巌寺は西国三十三カ所参りの三十番。 琵琶湖周辺のお寺におられる観音様は全て、竹生島を向いているんですって。 琵琶湖の周りにお寺がいくつあって、観音様が何体いらっしゃるのか知りませんが、全員が竹生島に向いていらっしゃる。竹生島は多くの観音様のパワーの集積場所で、相当なパワースポットだと思われます。 この小説において、竹生島が「湖の民」の特殊能力開発に大きく関わることには説得力があると思いました。 『偉大なるしゅららぼん』によると、昔は日本全国に「湖の民」がいたけれど、今は琵琶湖周辺だけになっているのだとか。 竹生島の強烈なパワーに守られている琵琶湖周辺でも、環境問題や少子化の影響なのか「湖の民」が数を減らしているのも、なんだか現代の日本が抱える問題と似たところがある気がしました。 この小説は壮大なファンタジーなのですが、ファンタジーの中に現実味があるからこそ、最後まで面白く読めるのかも知れません。 最後に「しゅららぼん」の意味も明かされますよ。 【パーソナリティ千波留の読書ダイアリー】 この記事とはちょっと違うことをお話ししています。 (アプリのダウンロードが必要です) 偉大なる、しゅららぼん
万城目 学(著) 集英社 高校入学を機に、琵琶湖畔の街・石走にある日出本家にやって来た日出涼介。本家の跡継ぎとしてお城の本丸御殿に住まう淡十郎の“ナチュラルボーン殿様”な言動にふりまわされる日々が始まった。実は、日出家は琵琶湖から特殊な力を授かった一族。日出家のライバルで、同様に特殊な「力」をもつ棗家の長男・棗広海と、涼介、淡十郎が同じクラスになった時、力で力を洗う戦いの幕が上がる…! 出典:楽天 ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
|
OtherBook