国宝(吉田修一)
芸の道とは、なんと厳しく果てのないもの。 国宝
吉田修一(著) 吉田修一さんの『国宝』上下巻を読みました。
分厚い上下巻なので、1日では読みきれません。だけど何をしていても早く続きが読みたくてたまらず、最後は朝4時半まで起きて一気読みしてしまいましたよ。 戦後の長崎。
任侠 立花組組長の権五郎は、新年会の席で、敵対する組の襲撃を受け、命を落とす。 一人息子の喜久雄と幼なじみの徳次を引き取ったのは、たまたまその新年会に招かれていた大阪の歌舞伎役者、二代目 花井半次郎だった。 もともと日本舞踊を習っていた喜久雄は半次郎の部屋子となる。 半次郎には喜久雄と同年代の息子俊介がいた。 二人はすぐに仲良くなり、歌舞伎役者としての修行に励むのだった。 半次郎は芸に厳しく、公平な判断を下し、三代目半次郎は実子俊介ではなく、喜久雄に継がせることに決めた。 その後、喜久雄、俊介、徳次の人生は、日のさす時もあれば、先が見えないような時もありと、紆余曲折をたどる。 その中にあっても喜久雄は芸を突き詰めていくのだった…… (吉田修一さん『国宝』上下を 大まかに紹介しました) タイトルから推測されると思いますが、小説の最後には、主人公が人間国宝に認定されます。
そこに至るまでの山あり谷ありは本当にドラマティック。 歌舞伎界を仕切る会社の思惑や、親(後ろ盾)を喪った若手歌舞伎役者の厳しい現実、ちょっとしたことで移ろう人気などは、現実もこうであろうと思わせるリアリティに満ちていました。 しかし筋立ての面白さもさることながら、登場人物が皆魅力的であることが、読み始めると先が気になって仕方がなくなる理由だと思います。 切磋琢磨する喜久雄と俊介、喜久雄を「坊ちゃん」と呼び、影に日向に守り続ける徳次。それ以上に魅力的なのは彼らを支える女性たちです。 生母がなくなった後、喜久雄を育てた義母マツ。 歌舞伎界での母親となった、二代目半次郎の妻 幸子。 喜久雄の幼なじみの春江などなど、皆、気持ちいいほどに覚悟が決まっていて、行動がかっこいいです。 また、歌舞伎や日本舞踊の演目の解説も、非常に読み応えがありました。 私は子どもの頃日本舞踊を習っていました。この小説に出てくる日本舞踊の演目はほぼ全部知っているので、どのような着物を着て、どこからどう出てきて、どんな振り付けで踊るのかわかるだけに、文章を読みながら頭の中で実際に喜久雄や俊介が踊っている姿が見えるようでした。 お座敷遊びの「とらとら」が、歌舞伎の演目『国性爺合戦』から派生したものだというような、うんちく話も面白いです。 それにしても芸の道とは、なんと厳しく、果てのないものでしょうか。 読み終わり、その結末の凄まじさに、しばらくは何もできなくなってしまいました。 そして久々に、歌舞伎を見に行きたくなりました。舞台が好きな方には是非読んでいただきたい作品です。 余談ですが、上巻に常日頃私が思っていることが書かれていまして、胸がスッキリしました。 それはこの言葉。 「貧乏には品がある。しかし貧乏臭さには品がない」
(吉田修一さん 『国宝 上 青春篇』P126〜127より引用) 私は子どものころから、貧乏臭いのが大嫌いなんです。
貧乏が嫌いなのではなく、貧乏臭いのが大っ嫌い! もちろん私が言う「貧乏臭さ」とは、財産があるなしとは関係がありません。 貧乏臭い歌舞伎役者さん(舞台人)なんて、考えただけでゾッとしますワ。 この一文を読めただけでも、この小説と出会った甲斐があったと言えます。 国宝
吉田修一(著) 朝日新聞出版 1964年元旦、長崎は老舗料亭「花丸」-侠客たちの怒号と悲鳴が飛び交うなかで、この国の宝となる役者は生まれた。男の名は、立花喜久雄。任侠の一門に生まれながらも、この世ならざる美貌は人々を巻き込み、喜久雄の人生を思わぬ域にまで連れ出していく。舞台は長崎から大阪、そしてオリンピック後の東京へ。日本の成長と歩を合わせるように、技をみがき、道を究めようともがく男たち。血族との深い絆と軋み、スキャンダルと栄光、幾重もの信頼と裏切り。舞台、映画、テレビと芸能界の転換期を駆け抜け、数多の歓喜と絶望を享受しながら、その頂点に登りつめた先に、何が見えるのか?朝日新聞連載時から大きな反響を呼んだ、著者渾身の大作。 出典:楽天 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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