いきなりですが、ヒステリー球ってご存知ですか?
「あ~、何かありましたよね、ドラゴンボールで…」
それは元気玉!
15年ほど前でしょうか、ある日喉に違和感を覚えました。
喉の下の方、もしかしたら食道なのかもしれないけど、
何かがそこにある。
寝ても覚めても喉に違和感があり、気持ちが悪いので、
ごっくんと飲み下そうとしましたがダメでした。
じゃあ、口から出してしまおう、ということで、
ババチイ話ですが「カーッペッ」を試みても出てこない。
昭和世代の人には、ラムネの瓶のビー玉のような状態と
説明したらわかってもらえるかもしれません。
これは絶対病気だな。
腫瘍があるに違いないと覚悟を決めて病院へ。
検査を受けるも「何もありませんよ」と言われました。
なにも?何もないですって?
いやいやいや、今、こうしている時にも私の喉には
何かがありますって。
本当なんですって。
えい、ヤブ医者め。もっとちゃんとした病院で検査してやる!
しかし、次の病院でも同じことでした。
もやもやしているとき、偶然にも、
父がとても信頼してお世話になっている呼吸器専門の医師と
お話をする機会がありました。
そこで、症状を訴えたところ、いとも簡単に言われたのです。
「それはヒステリー球ですね」
「は?ヒステリーだま?」
「ええ。更年期障害の症状の一つで、わりとよくあることなんですよ。」
がーん。更年期障害?!
まだそんな年齢だと思っていなかった私は
まずはそこに大いなるショックを受けました。
しかし、ストレスが主な原因で、実際に異物はないこと、
よく寝て、適度に運動して、あまり気にしないことが治療法だと聞いて
ほっとしました。
そして、日が経つといつのまにか治っていました。
さて『漢方小説』。
***
主人公・川波みのりは脚本家。
独身で31歳の女性です。
ある日「胃のあたりがドキドキ」し始めたと思ったら、
ロデオマシンのようにのたうちまわることに。
救急車まで要請したのに、病院に着く頃には治ってしまう。
おまけに、検査をしても異常が発見されない。
そもそも、症状を説明しても医師たちは、
そんなところ(胃のあたり)は普通はドキドキしません、というばかり。
医院をはしごして、5軒めにたどり着いたのは漢方医。
お腹を触診し、ドキドキするのはここですね、と言い当てたのだ。
おまけに医師は良いオトコだった。
こうして みのりは、漢方にハマっていくのだった。
***
この小説は、陰陽五行に基づいた東洋医学のうんちくと、
仕事や飲み仲間との人間関係が みのりの言葉で語られます。
とても親しみやすく、読みやすい小説です。
東洋医学では人間の感情も陰陽五行に当てはめるんですって。
感情は「喜」「怒」「哀」「楽」の四つではなく
「喜」「怒」「恐」「驚」「悲」「憂」「思」の七つ。
それが5グループに分けられ(恐と驚、悲と憂はワンセット)
それぞれが五臓に関わっているそう。
そして病気の原因のことを「邪気」と呼び、
それに負けない力や免疫力を「正気」と呼ぶんですって。
要するに「無邪気」こそ、一番の健康法と言えるかもしれません。
そのほか、東洋医学や漢方薬について、
興味深いことが山ほど書いてあり、
みのり ではないけれど、私も東洋医学にハマりそうになりましたよ。
みのりの周囲の人間模様も、
「ああ、こういう人いるいる」と一緒に一喜一憂できました。
中島たい子さんの文章は非常に軽快です。
そして特徴の一つは比喩の面白さだと思いました。
例えば、体の調子が良くなっていく段階を説明する部分。
某社のビスケットを紅茶に浸して食べていたのが、
そのまま食べられるようになって、
次は同じラインのもうちょっとバターがたっぷり入ったビスケットに…
といった具合です。
小説ではこの部分は実際の商品名が書かれているので、
ああ、確かに具合が悪い時に⚫︎⚫︎⚫︎ビスケットを
ミルクや紅茶に浸して食べたら おいしかろうなぁと実感がわきますよ。
東洋医学に興味のある方、
理屈では割り切れないことに悩んでいる方にお勧めします。
ところで、私はこの小説を、発行されたばかりの2005年に一度読んでいます。
当時はさほど違和感がなかったけれど、
今読むと「これ、どれくらいの人がわかるだろう」と思う部分が一箇所。
それは みのりの飲み仲間の一人が
離婚したかつての旦那様が誰に似ているのか聞かれた時の答え。
”日景忠男の恋人(沖雅也)”って、
昭和人間の私はわかるけど、
あなたは おわかりになりますか? |
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター
コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
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著書:パーソナリティ千波留の読書ダイアリー
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。
だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。
「千波留の本棚」50冊を機に出版された千波留さんの本。
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