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漢方小説(中島たい子)

漢方小説
中島 たい子(著)
いきなりですが、ヒステリー球ってご存知ですか?

「あ~、何かありましたよね、ドラゴンボールで…」

それは元気玉!

15年ほど前でしょうか、ある日喉に違和感を覚えました。

喉の下の方、もしかしたら食道なのかもしれないけど、何かがそこにある。

寝ても覚めても喉に違和感があり、気持ちが悪いので、ごっくんと飲み下そうとしましたがダメでした。

じゃあ、口から出してしまおう、ということで、ババチイ話ですが「カーッペッ」を試みても出てこない。

昭和世代の人には、ラムネの瓶のビー玉のような状態と説明したらわかってもらえるかもしれません。

これは絶対病気だな。

腫瘍があるに違いないと覚悟を決めて病院へ。

検査を受けるも「何もありませんよ」と言われました。

なにも?何もないですって?

いやいやいや、今、こうしている時にも私の喉には何かがありますって。

本当なんですって。

えい、ヤブ医者め。もっとちゃんとした病院で検査してやる!

しかし、次の病院でも同じことでした。

もやもやしているとき、偶然にも、父がとても信頼してお世話になっている呼吸器専門の医師とお話をする機会がありました。

そこで、症状を訴えたところ、いとも簡単に言われたのです。

「それはヒステリー球ですね」
「は?ヒステリーだま?」
「ええ。更年期障害の症状の一つで、わりとよくあることなんですよ。」

がーん。更年期障害?!

まだそんな年齢だと思っていなかった私はまずはそこに大いなるショックを受けました。

しかし、ストレスが主な原因で、実際に異物はないこと、よく寝て、適度に運動して、あまり気にしないことが治療法だと聞いてほっとしました。

そして、日が経つといつのまにか治っていました。

さて『漢方小説』。
主人公・川波みのりは脚本家。独身で31歳の女性です。ある日「胃のあたりがドキドキ」し始めたと思ったら、ロデオマシンのようにのたうちまわることに。

救急車まで要請したのに、病院に着く頃には治ってしまう。おまけに、検査をしても異常が発見されない。そもそも、症状を説明しても医師たちは、そんなところ(胃のあたり)は普通はドキドキしません、というばかり。

医院をはしごして、5軒めにたどり着いたのは漢方医。お腹を触診し、ドキドキするのはここですね、と言い当てたのだ。おまけに医師は良いオトコだった。こうして みのりは、漢方にハマっていくのだった。
この小説は、陰陽五行に基づいた東洋医学のうんちくと、仕事や飲み仲間との人間関係が みのりの言葉で語られます。

とても親しみやすく、読みやすい小説です。

東洋医学では人間の感情も陰陽五行に当てはめるんですって。

感情は「喜」「怒」「哀」「楽」の四つではなく「喜」「怒」「恐」「驚」「悲」「憂」「思」の七つ。

それが5グループに分けられ(恐と驚、悲と憂はワンセット)それぞれが五臓に関わっているそう。

そして病気の原因のことを「邪気」と呼び、それに負けない力や免疫力を「正気」と呼ぶんですって。

要するに「無邪気」こそ、一番の健康法と言えるかもしれません。

そのほか、東洋医学や漢方薬について、興味深いことが山ほど書いてあり、みのり ではないけれど、私も東洋医学にハマりそうになりましたよ。

みのりの周囲の人間模様も、「ああ、こういう人いるいる」と一緒に一喜一憂できました。

中島たい子さんの文章は非常に軽快です。

そして特徴の一つは比喩の面白さだと思いました。

例えば、体の調子が良くなっていく段階を説明する部分。

某社のビスケットを紅茶に浸して食べていたのが、そのまま食べられるようになって、次は同じラインのもうちょっとバターがたっぷり入ったビスケットに…といった具合です。

小説ではこの部分は実際の商品名が書かれているので、ああ、確かに具合が悪い時に●●●ビスケットをミルクや紅茶に浸して食べたら おいしかろうなぁと実感がわきますよ。

東洋医学に興味のある方、理屈では割り切れないことに悩んでいる方にお勧めします。

ところで、私はこの小説を、発行されたばかりの2005年に一度読んでいます。

当時はさほど違和感がなかったけれど、今読むと「これ、どれくらいの人がわかるだろう」と思う部分が一箇所。

それは みのりの飲み仲間の一人が離婚したかつての旦那様が誰に似ているのか聞かれた時の答え。

”日景忠男の恋人(沖雅也)”って、昭和人間の私はわかるけど、あなたは おわかりになりますか?
漢方小説
中島 たい子(著)
集英社(2008)
川波みのり、31歳、脚本家、独身。胃がひっくり返ったようになるのに、眠れないのに、病院に行って検査をすると『特に異状なし』。あのつらさは何?昔の男が結婚したショックのせい?それとも仕事のストレス?最終的にたどりついた東洋医学で、生薬の香りに包まれながら、みのりが得たものは。心と体、そして人間関係のバランスを、軽妙なテンポで書き綴る、第28回すばる文学賞受賞作品。 出典:(出典:amazon)
profile
池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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