HOME  Book一覧 前のページへ戻る

漢方小説(中島たい子)



 
漢方小説
中島 たい子(著)
出版社:集英社(2008)【内容情報】(「BOOK」データベースより)川波みのり、31歳、脚本家、独身。胃がひっくり返ったようになるのに、眠れないのに、病院に行って検査をすると『特に異状なし』。あのつらさは何?昔の男が結婚したショックのせい?それとも仕事のストレス?最終的にたどりついた東洋医学で、生薬の香りに包まれながら、みのりが得たものは。心と体、そして人間関係のバランスを、軽妙なテンポで書き綴る、第28回すばる文学賞受賞作品。(出典:amazon
いきなりですが、ヒステリー球ってご存知ですか?

「あ~、何かありましたよね、ドラゴンボールで…」
それは元気玉!

15年ほど前でしょうか、ある日喉に違和感を覚えました。
喉の下の方、もしかしたら食道なのかもしれないけど、
何かがそこにある。

寝ても覚めても喉に違和感があり、気持ちが悪いので、
ごっくんと飲み下そうとしましたがダメでした。
じゃあ、口から出してしまおう、ということで、
ババチイ話ですが「カーッペッ」を試みても出てこない。
昭和世代の人には、ラムネの瓶のビー玉のような状態と
説明したらわかってもらえるかもしれません。

これは絶対病気だな。
腫瘍があるに違いないと覚悟を決めて病院へ。
検査を受けるも「何もありませんよ」と言われました。

なにも?何もないですって?
いやいやいや、今、こうしている時にも私の喉には
何かがありますって。
本当なんですって。
えい、ヤブ医者め。もっとちゃんとした病院で検査してやる!

しかし、次の病院でも同じことでした。

もやもやしているとき、偶然にも、
父がとても信頼してお世話になっている呼吸器専門の医師と
お話をする機会がありました。
そこで、症状を訴えたところ、いとも簡単に言われたのです。
「それはヒステリー球ですね」
「は?ヒステリーだま?」
「ええ。更年期障害の症状の一つで、わりとよくあることなんですよ。」

がーん。更年期障害?!
まだそんな年齢だと思っていなかった私は
まずはそこに大いなるショックを受けました。
しかし、ストレスが主な原因で、実際に異物はないこと、
よく寝て、適度に運動して、あまり気にしないことが治療法だと聞いて
ほっとしました。
そして、日が経つといつのまにか治っていました。

さて『漢方小説』。

***
主人公・川波みのりは脚本家。
独身で31歳の女性です。
ある日「胃のあたりがドキドキ」し始めたと思ったら、
ロデオマシンのようにのたうちまわることに。

救急車まで要請したのに、病院に着く頃には治ってしまう。
おまけに、検査をしても異常が発見されない。
そもそも、症状を説明しても医師たちは、
そんなところ(胃のあたり)は普通はドキドキしません、というばかり。

医院をはしごして、5軒めにたどり着いたのは漢方医。
お腹を触診し、ドキドキするのはここですね、と言い当てたのだ。
おまけに医師は良いオトコだった。
こうして みのりは、漢方にハマっていくのだった。
***

この小説は、陰陽五行に基づいた東洋医学のうんちくと、
仕事や飲み仲間との人間関係が みのりの言葉で語られます。
とても親しみやすく、読みやすい小説です。

東洋医学では人間の感情も陰陽五行に当てはめるんですって。
感情は「喜」「怒」「哀」「楽」の四つではなく
「喜」「怒」「恐」「驚」「悲」「憂」「思」の七つ。
それが5グループに分けられ(恐と驚、悲と憂はワンセット)
それぞれが五臓に関わっているそう。
そして病気の原因のことを「邪気」と呼び、
それに負けない力や免疫力を「正気」と呼ぶんですって。

要するに「無邪気」こそ、一番の健康法と言えるかもしれません。
そのほか、東洋医学や漢方薬について、
興味深いことが山ほど書いてあり、
みのり ではないけれど、私も東洋医学にハマりそうになりましたよ。

みのりの周囲の人間模様も、
「ああ、こういう人いるいる」と一緒に一喜一憂できました。

中島たい子さんの文章は非常に軽快です。
そして特徴の一つは比喩の面白さだと思いました。

例えば、体の調子が良くなっていく段階を説明する部分。
某社のビスケットを紅茶に浸して食べていたのが、
そのまま食べられるようになって、
次は同じラインのもうちょっとバターがたっぷり入ったビスケットに…
といった具合です。

小説ではこの部分は実際の商品名が書かれているので、
ああ、確かに具合が悪い時に⚫︎⚫︎⚫︎ビスケットを
ミルクや紅茶に浸して食べたら おいしかろうなぁと実感がわきますよ。

東洋医学に興味のある方、
理屈では割り切れないことに悩んでいる方にお勧めします。

ところで、私はこの小説を、発行されたばかりの2005年に一度読んでいます。
当時はさほど違和感がなかったけれど、
今読むと「これ、どれくらいの人がわかるだろう」と思う部分が一箇所。

それは みのりの飲み仲間の一人が
離婚したかつての旦那様が誰に似ているのか聞かれた時の答え。
”日景忠男の恋人(沖雅也)”って、
昭和人間の私はわかるけど、
あなたは おわかりになりますか?

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BLOG ⇒PROページ

著書:パーソナリティ千波留の読書ダイアリー
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。
だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。

「千波留の本棚」50冊を機に出版された千波留さんの本。
『私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。』購入サイトはこちらAmazonでも購入できます


OtherBook

千波留の本棚

何気ない1日を過ごせることの幸せを感…

パンとスープとネコ日和(群ようこ)

千波留の本棚

優しい人たちの物語

そのときは彼によろしく(市川拓司)

千波留の本棚

小説の中に亡き母がいた

星の王子さま(サン=テグジュペリ)




@kansaiwoman

参加者募集中
イベント&セミナー一覧
関西ウーマンたちの
コラム一覧
BookReview
千波留の本棚
チェリスト植木美帆の
[心に響く本]
橋本信子先生の
[おすすめの一冊]
絵本専門士 谷津いくこの
[大人も楽しめる洋書の絵本]
小さな絵本屋さんRiRE
[女性におすすめの絵本]
手紙を書こう!
『おてがみぃと』
本好きトークの会
『ブックカフェ』
絵本好きトークの会
『絵本カフェ』
手紙の小箱
海外暮らしの関西ウーマン(メキシコ)
海外暮らしの関西ウーマン(台湾)
海外暮らしの関西ウーマン(イタリア)
関西の企業で働く
「キャリア女性インタビュー」
関西ウーマンインタビュー
(社会事業家編)
関西ウーマンインタビュー
(ドクター編)
関西ウーマンインタビュー
(女性経営者編)
関西ウーマンインタビュー
(アカデミック編)
関西ウーマンインタビュー
(女性士業編)
関西ウーマンインタビュー
(農業編)
関西ウーマンインタビュー
(アーティスト編)
関西ウーマンインタビュー
(美術・芸術編)
関西ウーマンインタビュー
(ものづくり職人編)
関西ウーマンインタビュー
(クリエイター編)
関西ウーマンインタビュー
(女性起業家編)
関西ウーマンインタビュー
(作家編)
関西ウーマンインタビュー
(リトルプレス発行人編)
関西ウーマンインタビュー
(寺社仏閣編)
関西ウーマンインタビュー
(スポーツ編)
関西ウーマンインタビュー
(学芸員編)
先輩ウーマンインタビュー
お教室&レッスン
先生インタビュー
「私のサロン」
オーナーインタビュー
「私のお店」
オーナーインタビュー
なかむらのり子の
関西の舞台芸術を彩る女性たち
なかむらのり子の
関西マスコミ・広報女史インタビュー
中村純の出会った
関西出版界に生きる女性たち
中島未月の
関西・祈りをめぐる物語
まえだ真悠子の
関西のウェディング業界で輝く女性たち
シネマカフェ
知りたかった健康のお話
『こころカラダ茶論』
取材&執筆にチャレンジ
「わたし企画」募集
関西女性のブログ
最新記事一覧
instagram
facebook
関西ウーマン
PRO検索

■ご利用ガイド




HOME