強制終了、いつか再起動(吉野真理子)
現実から目を背けてはいけない 強制終了、いつか再起動
吉野真理子(著) 私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。
今回ご紹介するのは、吉野真理子さんの『強制終了、いつか再起動』。 加地隆秋は父親の転勤のため、中学三年生の春、新潟から東京の学校に転校した。
新潟で通っていた中高一貫校の系列校が東京にもあり、そこに通うことになったのだ。 系列校といっても、授業の進み具合は比べ物ならない。授業についていくのが精一杯だ。 困ったことはもう一つある。隆秋は見かけによらず運動ができないのだ。 背も高く肩幅もあり、見かけはいかにもスポーツができそうなのに、運動神経が全くなく、体育の授業ではとんでもない動きで目立ってしまう。 転校してきてクラスに溶け込む前に、みんなから悪い意味で注目されてしまい、隆秋は学校が全く楽しくない。 そんな隆秋のために、父が家庭教師を雇ってくれた。 都内の有名私立大学に通う安岡は爽やかな青年で、教え方もうまい。おまけに、学校になかなか居場所を見つけられない隆秋の悩みも聞いてくれる。頼れる家庭教師だ。 ある日安岡は、自分が通う大学のキャンパスに隆秋を連れて行ってくれた。おまけに下宿にも招いてくれた。喜ぶ隆秋だったが、安岡の下宿で、とんでもないものを見つけてしまう。 それは大麻だった……。 (吉野万理子さんの『強制終了、いつか再起動』の出だしを私なりに紹介しました) 最初は、いじめに関する小説かと思いましたが、そうではなく、中学生の薬物依存のお話なのでした。
そんなバカなと思ったのですが、最近は大人だけではなく、中高校・大学生など、反社勢力とは無関係な学生までもが逮捕されているのだそうです。 薬物に対するハードルが随分下がっているようなのです。 この小説の中で、中学3年生の隆秋に大麻を勧めるのは家庭教師である現役大学生です。 隆秋の中にあった「薬物依存者=廃人」というイメージとは全く違うまともな青年、しかも学校で孤独を感じていた隆秋にとって良き理解者が勧めてくれたのです。 「気持ちがスッとするよ」と。 一度試してみて、危なそうだったらやめればいい、そんな気持ちで第一歩を踏み出してしまう、きっとこれは本当にあることなのでしょう。 薬物に関係するのは隆秋だけではありません。他のクラスメートも別の場所で薬に手を染めそうになります。 こんなことが本当にあるのだろうかと、信じられない気持ちでいっぱいですが、現実から目を背けてはいけないのだと思います。 とはいえ、薬物に関する話ばかりでは気が滅入ってしまいます。 中学生YouTuberとして、フォロワー数を増やすことに生きがいを感じている生徒、二次元に夢中になっている生徒など、今どきだなぁと思う生徒も登場します。 微笑ましい場面もあるので、嫌な気持ちにならず最後まで読めるのが救いです。 それにしても薬物に関して「一回だけなら大丈夫」「やめようと思ったらやめられる」ということはないのだなと思いました。 同時に、薬物依存から抜け出ようと頑張っている人も、何年経とうと、100%治ったと言い切れないのです。 だからと言って、一度薬物に手を出した人のことを、やり直しがきかないと、切り捨てていいものではないと、この小説は訴えているのでした。 強制終了、いつか再起動
吉野真理子(著) 講談社 薬物依存者の回復サポートにあたる団体「日本ダルク」で、薬物にどっぷりと依存した経験のある人たちへの聞き取りを行うなど、さまざまな取材によって裏付けられた社会派のヤングアダルト小説です。 出典:楽天 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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