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緋色の残響(長岡弘樹 )

母と子の成長物語

緋色の残響
長岡弘樹 (著)
今年(2020年)年明けに放送された木村拓哉さん主演のドラマ『教場』。その原作者である長岡弘樹さんの『緋色の残響』を読み終えました。

この本には5つの短編が収められています。
・黒い遺品
・翳った水槽
・緋色の残響
・暗い聖域
・無色のサファイア
(長岡弘樹さん『緋色の残響』目次より引用)
5つの短編の主人公は二人暮らしの母と娘です。母親は強行犯係の刑事 羽角啓子。娘は中学一年生の菜月。同じく刑事だった夫が殉職したため、啓子はシングルマザーです。

将来新聞記者になるのが菜月の夢。両親ともに刑事だからか、菜月は相手の心理を読む方法や、人にものを尋ねるときの手順やコツに詳しく、学校の新聞部での活動にそれを生かしています。

5つの短編は、啓子と菜月親子の身辺で起こった事件の顛末を描いたもの。

こんな狭い範囲で、しかも短期間に何件も殺人事件が起こるものか?という現実的な疑問が浮かばなくもありませんが、そこは目をつぶって、さらりと読むのが良いかも。

それぞれ、事件の詳細や犯人の心理や手口についてはさほど深く描かれていません。

どうやって啓子が事件の真相に近づくのか、また、菜月がどのようなサポートをするのかがこの短編集の主眼のよう。

つまり、母と子の交流や、成長に重きを置いているのです。その点、本格ミステリーファンの方には物足りなさがあるかもしれません。

とはいえ、全く何も考えないで読めるわけではありません。私は一作目『黒い遺品』は、菜月がどのようにして「犯人の似顔絵」を描いたかすぐに推測できましたが、二作目の『翳った水槽』では、なぜ犯人が自首したのか、理由が理解できず、悩みました。

ところで先日、とある街の書店に立ち寄ろうとしたら、いつもは空いている駐車場が全て車で埋まっていました。

おそらく、緊急事態宣言下、読書でもして過ごそうとされる方が多いのだと思います。(どこの図書館もしまっていますし)

そんな今、あまり難しいことを考えずに読め、読後感も穏やかな『緋色の残響』はお勧めできると思います。

ちなみにこの母と子の物語はシリーズ化されていて、第一作『傍聞き』、第二作『赤い刻印』そして『緋色の残響』の

順番で読むと良いようです。
緋色の残響
長岡弘樹 (著)
双葉社
刑事であった夫が殉職後、強行犯係の刑事として、また一人娘の母親として日々を過ごす羽角啓子。中学生の娘・菜月の将来の夢は、新聞記者になることだ。菜月もかつて通っていたピアノ教室で、生徒がレッスンの休憩中に急死した。死因は食物アレルギー。不慮の事故と思われたが、犯人の存在が浮上する。菜月のある行動が導いた真実だったー。表題作「緋色の残響」、『推理小説年鑑ザ・ベストミステリーズ2019』に選出! 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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