宇宙から帰ってきた日本人 (稲泉 連)
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![]() 宇宙が人に与える影響とは 宇宙から帰ってきた日本人
日本人宇宙飛行士全12人の証言 稲泉 連(著) 私が立花隆さんの『宇宙からの帰還」を読んだのは1990年代半ばのことだったと思います。
「宇宙体験という、人類史上最も特異な体験を持った宇宙飛行士たちは、その体験によって、内的にどんな変化をこうむったのだろうか」という観点で、立花隆さんが宇宙飛行士にインタビューしたドキュメンタリーで、とても興味深いものでした。 当時私は建築関係の会社の総務部で働いていました。社長はいろいろと新しいことにチャレンジする人で、あるとき「今度から月曜日の朝礼で、ランダムに指名された人に3分間スピーチしてもらうから」と発案。 ちょうど『宇宙からの帰還』を読んだばかりだった私は、3分間スピーチで、その感想をちょっぴり興奮気味に語りました。 「宇宙で見る『黒」は地球上のどんな黒色よりも黒いそうです。たとえようがない闇の色なんです。その漆黒の中に青い地球がポツンと浮かんでいる。それをみた宇宙飛行士達の多くが神の存在を感じたらしいです。 中には宇宙ステーションの船外ミッションで、手順を自分自身で復唱して『次は◯◯するんだよな』と心の中でつぶやいたら『そうだよ』という声が聞こえて思わず振り向いた人も居たんですって。 でも当然そこには自分以外の人間はいなくて、ああ、今自分は神様に話しかけられたんだと感じたそうですよ。そのせいか、地球に戻ってから牧師になる宇宙飛行士が何人も居たらしくて……」 残念ながら私のスピーチは空回り。同僚のみんなは「は?」といった表情でした。よく考えたら職場の朝礼の3分間スピーチには話題がそぐわなかったかも。とほほ。 とはいえ当時の私は、人に語らないではいられないほど宇宙飛行士の体験談に感じ入っていたのでした。 それから約30年経って、読んだのが『宇宙から帰ってきた日本人 日本人宇宙飛行士全12人の証言』。お恥ずかしいことに、私は宇宙へ行った日本人12人の名前をすぐに全員思い出せませんでした。 私が覚えていたのは、秋山豊寛さん、毛利衛さん、向井千秋さん、山崎直子さん、古川聡さん、野口聡一さん、若田光一さん。この他に、金井宣茂さん、大西卓哉さん、油井亀美也さん、星出彰彦さん、土井隆雄さんがいらっしゃるのでした。 上記12名の方のほぼ全員が立花隆さんの『宇宙からの帰還』を読んでおられるのですって。 アメリカ人宇宙飛行士の多くが神の存在を感じたというインタビューを読んで、自分は一体どう感じるだろうと思われたのだとか。 面白いことに、毛利衛さんや若田光一さんなどは神様の存在云々はともかく、人生観が変わったとおっしゃっているのに、金井宣茂さんなどは宇宙体験はあくまでも「仕事」であって、人生観が変わるといった大げさなことはなかったとおっしゃっています。 概ね1990年代に宇宙に行った方達は人生観が変わったと感じ、2000年以降に行った方達は「仕事」や「任務」だと感じておられるようです。 考えてみれば、ロシアの宇宙飛行士ガガーリンの「地球は青かった」が名言として残ったのは、地球上の誰も青い地球を見たことがなかったから。 私たちは今、人工衛星から送られてきた映像で、地球が青いことを知っています。 もちろん肉眼で、しかもあの宇宙空間から見るのとは違うとは言え、そのあたりの「慣れ」は大きいと言えるでしょう。 もう一つ、子どもの頃から宇宙に憧れや夢を持っていた人は宇宙に行ったことで人生観が変わる場合が多いようです。 どちらにしても、宇宙での体験は決してありきたりなものではありません。皆、地球を外側から見て、感じることがあったようです。 ある人は、その美しさに感動し、ある人は地球を小さく感じ、またある人は地球を大きく感じています。同じものを見て、感じることが違うのは面白いものです。 多くの人が語っているのは、地球は一つだということ。青い地球の上に、数多くの国があり、人種がいると言っても、宇宙から見れば、一つである。それが人体にも似ているという人もいました。 人間の体の中には、幾つもの細胞があり、微生物も存在している、それが一人の人間として生きている、その様子が地球と同じだと言うのです。その反対のような意見もありました。 よく「地図に国境があるけれど、宇宙から見れば国境(境界線)はない」と言われるけれど、そんなことはない、宇宙から見ても国境を感じた、と。 灌漑用水が発達したイスラエルは緑色に見えるけれど、それ以外のシナイ半島は赤茶けて見えるし、夜の朝鮮半島は三十八度線あたりを境として、煌々たる光と、闇に分かれている、それがすなわち国境ではないかというのです。 宇宙からは飛行機が描く飛行機雲、タンカーの通った跡など、地球の様子が驚くほど細かく見えるそうです。 そしてそれを見ているうちに、地球環境の悪化も真に迫って感じるらしく、このままではダメだ、と真剣に考えることになるのだとか。 そういった真面目な話ばかりではなく、面白い体験談もありました。 金井宣茂さんは、無重力に体も心も慣れてしまったため、地球に帰ってきても、自分が浮かんでいられるような気がしてならなかったそうです。 例えば、ビルの高層階にいるときにふと、このまま窓の外に出ても、浮いていられるんじゃないかと、思ってしまうのですって。自分でも危なっかしくて、しばらくは意識して気をつけていたそうですよ。 そのほか、ものを投げた時に、そのものが描く放物線を美しいと感じるなど、ずっと地球にいたら当たり前で気がつかないことを帰還後感じた人もいらっしゃいます。 やはり、行った人でなければわからないことがいっぱいあるのでしょうね。 そういう私はと言えば、宇宙自体は好きだけれど、行ってみたいとは思いません。 新社会人になったばかりの頃、同期入社の仲間たちとの雑談で、「もし宇宙旅行が可能になったとして、いくらなら参加したいか」という話題になったことがありました。 その時私は「うーん、150万円くらいだったら行くかも」と答えて周囲の人を呆れさせました。そんな金額で行けるか!!と。 私にすれば、それくらいの金額で行けるということは、宇宙旅行が全く特別なものではなくなっているということ。そうでなかったら行きたくないという意味だったのですが。 宇宙服がどこかに引っかかって穴が空いてしまったら、とか、温度調節機が壊れてしまったら、なんてことを考えただけでも、息が詰まってしまう。地球がいい! 地上にいたい! 重力万歳、空気万歳! だけど、人類の未来のためにも宇宙開発は必要不可欠なんだなとこの本を読んで理解できました。もちろん日本もそこに参加しなくては。 とは言え宇宙飛行士に選出されてもすぐに行けるものではないのですね。みなさん何年も、時には10年以上も訓練や準備をして、宇宙に飛び立っています。 宇宙に行かれた時の年代が40歳代の人が多いのはそのせい。体力、気力、知力全てを鍛えなくては行けない場所なのです。そう考えると12人の日本人宇宙飛行士の皆さんに改めて尊敬の念を抱きます。 今後も日本人宇宙飛行士がたくさん生まれますように。 ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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