賢者のおくりもの(オー・ヘンリー)
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![]() 記憶していたのとは違った 賢者のおくりもの
オー・ヘンリー(著) 私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。
2023月12月06日放送の番組では、オー・ヘンリーさんの『賢者のおくりもの』をご紹介しました。 とても有名なお話なので、本で読んだことがない方も、一度くらいはあらすじを聞いたことがあるのではないでしょうか。 いつもはネタバレを気にしてストーリーの核心部分はぼかすのですが、このお話に限っては有名なので、その配慮はいらないと判断しました。 もし、全くこの話をご存知なくて、今後自分で読むまでは知りたくない、とおっしゃる場合、ここから下はお読みにならないでください。 内容をごく簡単にまとめると、 質素に暮らしている夫婦が、クリスマスの日、互いにサプライズでプレゼントを用意する。
妻は、夫が祖父から譲り受けた金の時計に相応しい金の鎖を、夫は、妻の魅力の一つである長い髪の毛に飾る櫛をプレゼントすることに決めた。 ところが、この夫婦はお金持ちではなかったので、妻は自慢の髪の毛を売り、夫は金時計を売ってそれぞれのプレゼントを買うことに。 相手がさぞ喜んでくれるだろうと思いながら、いざプレゼント交換をしてみたら、どちらのプレゼントも相手の役には立てなくなっていた。 残念なすれ違いだが、それは愚かな行為ではなく、賢者のおくりものなのだ。 というお話しです。
私はこのお話を中学一年生の時に初めて知ったと記憶しています。 本を直接読んだのではなく、授業中に聞いたのではなかったかしらん。 デコちゃんというニックネームの、おでこの広い国語の先生が「相手に喜んでもらいたくて、自分が一番大事にしているものを手放すことができる、それが真の愛情だと作者は言っているのです」 と話してくれました。 以来、クリスマスの時期になるとふと、この話を思い出したりしていたのですが、今回、図書館だよりのためにこの絵本を読んでみて、愕然としました。 私が思い描いていた夫婦と印象が違う。 これって、こんなテイストの話だったっけ?と。 12歳だった私にとって、この夫婦は若くはない印象でした。 そして私の中では、お互いが用意したプレゼントが相手の役に立たないこと、自分の行為が無意味になったことを悟った時、二人は黙ってハグし合い、相手の愛情を噛み締めた……というふうな映像を思い浮かべていたのです。 ところが、この絵本によると、この夫婦は若いし、私の記憶にある二人よりも、もっと泥臭いというか人間臭く描かれていました。 まず、奥さん。 奥さんの手元には、少額ですがお金があります。 到底金の鎖を買えそうにない少額のお金です。 彼女は、日々の生活費を切り詰めに切り詰めてそれだけのお金を貯めました。 肉屋さんにも野菜屋さんにも、毎回毎回値切り倒し、相手に呆れられながら貯めたのです。 私の記憶の中の『賢者のおくりもの』からは、そんな部分は抜け落ちていました。 生々しいですね。 一方夫はというと、家に帰って妻の髪の毛が短くなっているのを見ると、持っていた妻へのプレゼントの包みをテーブルに放り投げたではありませんか。 いくらがっかりしたからって、プレゼントを投げ出すなんて、乱暴だわ。 そういう態度、私は好きじゃないです。 おまけに、夫のその態度を見た妻はヒステリックに嘆くんです。 私の髪の毛が短くなったから、もう私のことなんて好きじゃないのね!と。 (かなり意訳しております) なんですの? この女性は、自分は髪の毛だけが取り柄だと思っていたのかしら? 私の中の『賢者のおくりもの』では、静かにハグし合って、お互いの気持ちを噛み締める場面のはずが、なんだかガチャガチャ大騒ぎではないですか。 この本を「図書館だより」のために選んでくださった図書館司書さんは、妻が聖人君子ではなく、人間臭く描かれているところが魅力だとおっしゃっていました。 確かにそうなのかもしれませんが、自分の中で勝手に美化された『賢者のおくりもの』を長い年月胸の中に温めていた私としては、主人公のキャラクターがあまりにも違いすぎてちょっとがっかりというか、当惑してしまったのでした。 よく「幼い頃に読んだ本を、大人になってから読んだら印象が違う」と言いますが、その変形版と言えるかもしれません。 ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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