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満願(米澤穂信)

満願
米澤穂信(著)
信じた人に裏切られるのは辛いもの。

裏切りとまではいかずとも、「この本面白いよ」と勧められて読んでそうでなかったときの気持ちも相当なものがあります。

「うぬぬぬぬ!時間を返せ!」と暴れたくなる。

世の中に数々いる(ある)ブックナビゲーターの中で私が最も信頼していると言ってもいい宝島社の「このミステリーがすごい!」。

2015年版「このミス」で国内編第1位獲得の米澤穂信『満願』を読み終わりました。

いやー、面白かった!。

そして、怖かった。

ごく普通に見える人が実は一番怖いのかもしれない、そんな感想を抱きました。

『満願』は短編集で、
夜警
死人宿
柘榴
万灯
関守
満願
の6つの作品から構成されています。

部下を殉職させてしまった警察官が、事件をたどり部下の殉死の裏にある「真実」を推測する『夜警』。

『死人宿』は昔 見捨ててしまった彼女に、謝って、もう一度やり直したいと思う男性が主人公。

彼女が人里離れて経営する旅館を訪れるとひっそりとした旅館ながら意外なことに客足が絶えることがないという。

それは、温泉の構造上、たまにガスで死んでしまう事故が起こり、「楽に死ねる宿」として有名だから。

主人公が訪ねた日も、自殺志願者が落としたと思われる遺書が見つかる。

チェックインした客はまだ全員生きている。

行きがかり上、自殺志願者を割り出し、決意を翻させる手助けをする主人公だが…

自分の美しさを武器に、イケメンと結婚。

二人の娘に恵まれたものの徐々に夫のダメさ加減に気がつき、離婚訴訟に踏み切る母親。

しかし、娘二人がとった行動は、常人には思いつかないものだった。

果たしてその真意は?!

女ってコワイわ〜。

因果はめぐる糸車ってこのことよねぇ、と同じ女性としてゾッとする『柘榴』。

大手企業に就職し、海外勤務をバリバリこなす企業戦士が主人公の『万灯』。

天網恢々疎にして漏らさず、天はすべて見ておられ、手厳しい報いを下されるのだなぁ。

この短編集の中で最もミステリ色が強い話でした。

仕事を「こなす」術ばかり身につけてしまった男性ライター。

都市伝説を扱う特集記事の依頼を受けるがインパクトのある題材が思いつかない。

親切な先輩がくれたネタは「ある道路の全く同じ場所で自動車事故が起き何人も死んでいる」というもの。

現地取材をした主人公が出会った”関守”は…

『関守』は一種、現代の怪談ふうで面白かったです。

もしドラマ化するなら、”関守”役を市原悦子にやってもらいたいワ。

タイトルにもなっている『満願』。
下宿屋のおかみさんが殺人事件をおこした。そのおかみさんに優しく支えてもらったからこそ現役で司法試験に合格し、いまは立派な弁護士となった男が自ら弁護を買って出るが、実刑判決がおりる。

おかみさんの人柄をよく知っている弁護士はなんとかして罪を軽くしようと労を惜しまないがおかみさんはある時、あっさりと控訴を取り下げてしまう。 その態度に疑問を抱いた弁護士が推理する「真実」は?
『満願』はこわいというより、物悲しかったです。

6話6様の面白さで、しかもどれ一つとして駄作がない。

文章は決して派手ではないけれど、その分、丁寧に、端正に物語を紡いでいて読んだ後に満足感があります。

「このミステリーがすごい2015」国内編1位はだてじゃない。

ぜひ読んでみてください。

私の好みでいうと『万灯』と『夜警』が特におすすめです。
満願
米澤穂信(著)
新潮社(2014)
人を殺め、静かに刑期を終えた妻の本当の動機とはー。驚愕の結末で唸らせる表題作はじめ、交番勤務の警官や在外ビジネスマン、美しき中学生姉妹、フリーライターなどが遭遇する6つの奇妙な事件。入念に磨き上げられた流麗な文章と精緻なロジックで魅せる、ミステリ短篇集の新たな傑作誕生。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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