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おいしくて泣くとき(森沢明夫)

人の世のご縁の不思議

おいしくて泣くとき
森沢明夫(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

今回ご紹介するのは、森沢明夫さんの『おいしくて泣くとき』
心也は中学3年生。母親は心也が小学3年生の時に亡くなった。今は大衆食堂を営む父との二人暮らし。

父の食堂では、家で満足にご飯が食べられない小中学生に無料で食事をふるまう「こども飯」をしている。

心也はそれを良いことだと思いながらも、複雑な気持ちだった。

と言うのも「こども飯」を食べにきていることを心也に知られたくない同級生や同じ学校の生徒がいるから。

心也の幼馴染 夕花も、心也の家にこども飯を食べに来ている。小さい頃はよく一緒に遊んだが、最近はあまり喋らなくなった。

だけど同じクラスなので、夕花がクラスの女子にいじめられていることに心也は気づいている。

夏休みに入る前、クラスである委員を選出することになった時も、「夕花がやればいい」と、いじめっ子たちが囃し立てた。

みんな、せっかくの休みに役目を増やしたくなくて、それに便乗し、夕花が係に選出された。そして男子の係は心也に決まった。

二人で打ち合わせをするうち、心也は夕花の家庭事情を少しずつ知ることになる。

母親が再婚した相手が激昂すると、夕花に手を上げることがあるらしい。そしてその夏、とうとう大きな出来事が起こった……
(森沢明夫さんの『おいしくて泣くとき』の出だしを私なりにご紹介しました)
この小説は中学3年生の心也と夕花から見た、こどもたちに無償で食事を提供する「こども飯」のことや、家庭内暴力などの社会問題が織り込まれています。

そして「こども飯」を提供するお店として、心也の父親の大衆食堂の他に、夫婦で経営をしているカフェが描かれています。

胸の痛む問題を描きつつも、文章に明るさがあるため、すっと読み進めることができます。

そして最後に「え?!そういうことだったの?」という驚きが。

そして、ページを遡って、これが伏線だったのか!と感心することしきり。

とはいえ、この小説はミステリではありません。

その驚きの種類は言葉にすれば「人の世のご縁の不思議さ」ということになるでしょう。

人によっては「そんなうまいこと行くわけない」と思うかもしれません。

でも私は、どのような境遇であろうと、諦めてはいけない、そして自分の可能性を信じよう、という著者のメッセージを感じました。

【若干のネタバレ 蛇足】
ただ……心也の同級生だった石村くんはどうなったのだろう?それがとても気になるのでした。
おいしくて泣くとき
森沢明夫(著)
角川春樹事務所
貧困家庭の子どもたちに無料で「こども飯」を提供する『大衆食堂かざま』。その店のオーナーの息子、中学生の心也は、「こども飯」を食べにくる幼馴染の夕花が気になっていた。7月のある日、心也と夕花は面倒な学級新聞の編集委員を押し付けられたことから距離が近づき、そして、ある事件に巻き込まれ…。無力な子どもたちをとりまく大人たちの深い想い。「美味しい奇跡」を描いた希望の物語。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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