ブリット=マリーはここにいた(フレドリック・バックマン)
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![]() 自分軸で生きること ブリット=マリーはここにいた
フレドリック・バックマン(著) ブリット=マリーは63歳。職を求めて職業安定所の窓口にやってきたが、担当者と全く話が噛み合わない。
「それで結局は40年間働いたことがないんですね?」 「いいえ!働いていましたとも!」 ブリット=マリーは度がすぎるほどの綺麗好きで、匂いや汚れを取るためにシーツには重曹をまぶしてから掃除をするし、窓だっていつもピカピカに磨き上げている。 カトラリーもフォーク、ナイフ、スプーン、順番をきっちりと決めて収納している。夫が帰って来れば脱ぎ捨てたシャツを洗濯機へ。 夫の連れ子である二人の子どもの面倒も見てきた。これまで毎日忙しく「働いて」きたのだ。 しかし、いくら説明しても職業安定所の担当者は言う。 「40年働いていなかったあなたに合う職場はなかなかありませんよ」と。 確かにブリット=マリーは結婚してずっと、外で働かず家庭を守ってきた。 それには理由がある。夫のケントが言うには、自分は「社会不適合者」らしい。しかもお金を稼ぐのはケントの方が上手だ。 だったら、お金儲けはケントに任せて、自分は家庭を切り盛りすればいいと考えてこれまでやってきたのだ。毎日ピカピカに磨き上げて、誰に見られても恥ずかしくない家に。 しかし最近、ブリット=マリーは気がついていた。夫のシャツから香水の香りがすることに。 ブリット=マリーはそれを気のせいだと思うことにした。「香水の香りがするような気がする」シャツはさっさと洗濯。そうすれば気のせいだと思うことができた。 しかし、ある日、ケントが脳出血で倒れたと、若い女性からの電話を受けてしまった。それによって、別の女性の存在を気のせいにはできなくなったブリット=マリー。自分がケントと一緒に暮らす意味を見失ってしまう。 同じ時期に恐ろしいニュースを知ってしまった。ある人が、亡くなって何日も経ってから発見されたという。誰もその人の死に気がつかず、遺体は大変な状況になっていたらしい。 ブリット=マリーは怖気だつ。ケントと別れて一人で暮らすことになったら、自分もそうなってしまうかも。 人一倍綺麗好きなブリット=マリーにとって、そんな状況で発見されるなど、我慢できない。少なくとも毎日働きに出れば、何かあった時、職場の人が数日で気づいてくれるだろう。 だからブリット=マリーは職業安定所に出かけたのだ。 「あなたに合う職場が見つかればご連絡します」と言う職業安定所の担当者。それは暗に「あなたに合う仕事はありません」と言われているのと同じ。 だが、ブリット=マリーは言葉通りに受け止める。そして連日窓口を訪れて、合う職業が見つかったか尋ねる。ついに担当者は根負けして、誰も応募者がいない唯一の職場を紹介する。 それは、不景気の波に飲み込まれたある町のコミュニティセンターの管理人だった。 その町ではあらゆる公共施設が閉鎖されており、最後に残っていたコミュニティセンターも、いずれ閉ざされる。それまでの不定期間だけ雇用される管理人だ。ブリット=マリーはともかくその町に向かったのだった。 (フレドリック・バックマン『ブリット=マリーはここにいた』の出だしを私なりに紹介しました) 私は読み始めた時には、職業安定所の職員に同情してしまいました。
なんと話の通じない おばさんを担当してしまったことかと。 でも、読んでいるうちに、ブリット=マリーにもいろいろな事情があることがわかってきて、応援したくなってくるのです。 子どもの頃の体験。 仲が良かった姉と、姉に期待していた両親のこと。最初は愛しあっていたはずの夫と、いつの間にかすれ違っていたこと。 それらは、洋の東西を問わず、誰にでも起こりうることで、もし自分がその立場だったらと思うと、同情せずにはいられなくなります。 また、これまでずっと 「ケントが好きではないから」 「ケントがこう言っていたから」 と、何事も夫を基準に考えていたブリット=マリー。 職業安定所で紹介された職場がある町に来た当初は、何を見聞きしても「ケントはそんなことはしないわ」と考えてしまいます。 でも、その町で様々な事情を抱えた人と触れ合ううち、徐々に、考え方や行動が変わってくるのです。 「そうだ、頑張れ!ブリット=マリー」 「そんな夫、若い女にくれてやれ!!」 「この町であなたは必要とされているよ!」 と。 ブリット=マリーは決して生まれ変わりません。 融通がきかない性格が直ったりすることもありません。 ただ、そんな真っ直ぐすぎる性格にも良い点がある事を周りがわかってくれるのです。 誰だって長所があり欠点がある。家の外に出る事で、ブリット=マリー自身、その事を知っていくのです。 著者 フレデリック・バックマンさんのデビュー作『幸せなひとりぼっち』と共に、お勧めしたい作品です。⇒幸せなひとりぼっち(フレドリック・バックマン) ブリット=マリーはここにいた
フレドリック・バックマン(著) 坂本あおい(訳) 早川書房 63歳のブリット=マリーはとてつもないきれい好き。長年にわたり自宅を完璧に磨き上げていたが、このたび浮気した夫を置いて家を出た。数十年ぶりに見つけた外での仕事は、さびれた田舎町にある閉鎖予定のユースセンターの管理人。持ち前の頑固さで住民たちとぶつかりつつも、ブリット=マリーはなぜか子供たちにサッカーチームのコーチになるよう頼まれて…。『幸せなひとりぼっち』著者による新たな感動作! 出典:楽天 ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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