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幸せなひとりぼっち(フレドリック・バックマン)

こんなに愛おしい偏屈爺さんがいるなんて

幸せなひとりぼっち
フレドリック・バックマン(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では週に一度、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

今回ご紹介するのは、フレドリック・バックマンさんの『幸せなひとりぼっち』。
”主人公オーヴェは59歳のスウェーデン人。人付き合いが苦手の、無愛想で偏屈な男だ。自動車は国産車(スウェーデンの)サーブと決めている。

小説は、オーヴェがiPadを買おうとしている場面から始まる。

”これはコンピューターなのか”と確認するオーヴェに対し、正確を期する店員が、それは”iPad”であり、”タブレット”や”ネット用端末”とも呼ばれると答えると、オーヴェは店員が自分を煙に巻こうとしているのだと警戒する。

そしてオーヴェは再び問う。
「キーボードはどこについているんだ?」 iPadにはキーボードはついていませんと店員が答えると、もう大変。 なんでも別売りにして余計な出費をさせるつもりだなと怒り出すオーヴェ。

定員との会話を読んでいると誰もがきっと、家電量販店で見かけたことのある、話のわからないご老人を連想することだろう。 ああ、こんな偏屈な人がいるよなぁ…と。

オーヴェはとにかく自分の主義に忠実だ。ルールにはしっかり従う。そしてルールを守らない人には遠慮なく説教をするし、時には実力行使も辞さない。オーヴェは筋骨たくましく、若造の襟首をつかんで振り回すくらいたやすいことなのだ。

オーヴェは長年勤めた職場から、事実上の解雇を言い渡されて以来、近所の見回りを欠かさず、ルール違反の住人とますます対立を深めるようになっていた。

そんなある日、賑やかな一家がオーヴェの向かいの家に引っ越してきた。心ならずも、その家族と関わりになったところから、さまざまな人と出会うことになっていく……。”(『幸せなひとりぼっち』を私なりにまとめたあらすじです)
私は冒頭のシーンだけで、オーヴェを関わりになりたくないタイプの人だと決め付けました。ところが、少年時代のオーヴェと彼の父親のエピソードを読んでいるうちに、徐々にオーヴェに対する気持ちが変わっていくのです。

特に、オーヴェが生涯乗る自動車はサーブだと決めた理由を読んだ時、涙がこぼれました。

オーヴェは良いヤツだ!!

文庫本で449ページあるうちの100ページを過ぎる頃には、私はすっかりオーヴェが好きになってしまっていました。

でもそれはオーヴェが変化していくからではありません。オーヴェは最初から最後まで変わったりしないんです。

50キロ制限の道路なら、後続車からどれほど煽られようと50キロでしか走らない。人の告げ口もしないし、遅刻もしない。彼は自分の主義に合わないことは絶対にしない人間。

彼の「主義」がどのようにして出来上がってきたのかが明らかになるたびに、オーヴェの本質を理解するようになり、彼の肩を持ちたくなってくるのですよ。

こんなオーヴェを理解し、愛した妻の名前はソーニャ。オーヴェも妻のことを本当に愛しています。

それなのに小説の中に彼女が なかなか出てこないことを訝しく思うころ、ソーニャの運命が明らかにされていきます。そして、オーヴェがこれから何をしようとしているのかも。

こんなに悲しい偏屈爺さんがいるなんて。
こんなに愛おしい偏屈爺さんがいるなんて。

私はこの小説を読んでいる間、ずっと、目に涙がたまっていました。ボロボロ泣けるというよりは、じんわりと胸に迫ってきて、涙ぐまずにはいられなかったのです。

読み終わった時、この小説と出会えたことを本当に幸せに感じました。私がこれまで読んだ中で最高傑作だと思っているダニエル・キイスさんの『アルジャーノンに花束を』と双璧と言っても良いくらい。

この小説は人口約990万人のスェーデンで80万部の売り上げを達成したそう。また、2016年の1月時点で、38ヵ国語に翻訳され、250万部売り上げているとか。オーヴェの生き方が時代や国籍を超える真実を含んでいるからでしょう。
幸せなひとりぼっち
フレドリック・バックマン(著) 早川書房
無愛想で頑固な59歳のオーヴェ。いかめしい顔で近所の見回りを欠かさず、ルールを守らない人間には遠慮なく説教する、みなにけむたがられるタイプだ。妻に先立たれ、長年勤めた職場も辞めることになった彼は、孤独な日々を送っていた。しかしある日、向かいの家に引っ越してきたにぎやかな若い一家、そして一匹の野良猫と、不本意ながら交流するはめになって…。世界の人々が笑い、そして涙したスウェーデンの感動長篇。 出典:楽天

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon



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