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荒木飛呂彦の漫画術(荒木飛呂彦)

漫画に限らず、もっと普遍的なハウツー

荒木飛呂彦の漫画術
荒木飛呂彦(著)
人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の作者である荒木飛呂彦さんが、「王道漫画の描き方」を伝授する新書です。

私は2年前まで、「ジョジョ」については書名を知っている程度でした。学生や子どもたちが絶賛しているのを聞いても、「ふ~ん」でした。

ところが2017年に大阪で開催された美術展「ルーブルNo.9」展に出品されていた荒木さんの絵を見てから、にわかに興味をもつようになりました。

「ルーブルNo.9」というのは、フランスのルーブル美術館が第9番目の芸術と位置づけている漫画のことを指します。荒木さんは、ルーブル美術館から依頼され、同館を舞台としたオリジナル漫画を創作するプロジェクトに参加していたのです。

その美術展で、私は、荒木さんの絵のもつ色彩の鮮やかさ、西洋美術を取り込んでいるという「ポージング」の面白さを知りました。

先日、代表作「ジョジョ」連載30周年(2017年)を記念した原画展にも行ってきました。

たくさんの原画、ジョジョの世界をイメージした彫刻や映像の展示も面白かったのですが、それとは別に私が興味をひかれたのは、キャラクター設定のための「身上調査書」や、荒木さんが影響を受けた西洋絵画や彫刻と荒木作品との比較など、「ジョジョ」がどのように生み出されるのかを解説したコーナーでした。

そこで荒木さんが書かれている新書を数冊買ってさっそく読んでみたところ、本書には、ご本人が書かれているとおり、「漫画に限らず、もっと普遍的なハウツー」がちりばめられていて、ガシッとハートを掴まれてしまいました。

「ジョジョ」は『少年ジャンプ』連載作品のなかでは「異端」であると言われるそうです。しかし荒木さんによれば、「ジョジョ」は少年漫画のヒット作を研究して見出した鉄則に沿って描かれているのだそうです。

編集者に、そして読者にページをめくってもらうために、作品の冒頭では何を表現すべきか、どのような展開でなければならないかを、先行するヒット作から読み取った法則を反映させているといいます。

「独特」「個性的」と評される荒木さんですが、まずは先人に学び、その黄金の法則を守りつつ、独自性を発揮させているのです。

そして人まねではなく、あくまで自分が描きたい世界観、テーマを追求することが大事だと荒木さんはいいます。そしてそのテーマは自分の人生に沿っていることが重要だと説きます。

「自分が興味を持っていて、自分の心の深いところや人生に関わるものであれば、それが仮に暗いテーマで売れそうにないと思えたとしても、やはりそれを描こうと決意すべきだ」という言葉は心にドオオオオンと響きました。

「たいして興味がないのに世間に合わせて」売れそうなテーマを取り上げても、「頭脳で考えることに疲れや限界が出てくる」漫画家を実際に見聞きしてきたそうです。

事前に徹底的なリサーチをすることも大事です。物体の構造、作品の舞台にする時代の風景や風物、資料からだけではわからないその土地の空気や距離感などは現地取材で確かめます。

インターネットでさまざまな情報が得られるようになりましたが、やはり自分の目で見ないとわからないこともたくさんあるからです。

常に何かに興味を持ち、周囲の出来事に素直に反応できるアンテナを持ち続ければ、「アイディアが尽きる」ということはないはずだといいます。「自分の興味」を限定して、そこから外れたものを無視するという“自惚れ”は絶対にNGだという言葉も肝に銘じたいものです。

荒木さんはアイディアを生むための習慣として、「おもしろいな」と思ったことをノートに書き留めているそうです。その内容は大きく3つに分かれるとのこと。

①自分がよいと思ったこと。加えて、どんなところがよかったのか、なぜそう思ったのかの分析。

②自分とは違う意見や疑問に思う出来事、また理解できない人。「なぜ、この人はそんな風に思うんだろう?」「どうして、こんなことが起こるんだろう?」「その意見を聞いて、自分はどう思ったのか」などと分析することで、自分にはない視点を学ぶことができるとのこと。

③怖い出来事や笑える出来事、トラウマになりそうな出来事。これらも、なぜそう思ったのか理由を考えることでアイディアにつながっていくとのことです。


これらは漫画の描き方にとどまらず、あらゆる創作や仕事に通じることではないでしょうか。

自分の関心事を追究しながらも、食わず嫌いをしないでアンテナを張って、新しいことやものを生み出していきたいと思った年頭でした。
荒木飛呂彦の漫画術
荒木飛呂彦(著)
集英社新書(2015)
全く人気が衰えることなく長期連載が続く『ジョジョの奇妙な冒険』の作者、荒木飛呂彦。絵を描く際に必要な「美の黄金比」やキャラクター造型に必須の「身上調査書」、ヘミングウェイに学んだストーリー作りなど、具体的な方法論からその漫画術を明らかに!本書は、現役の漫画家である著者が自ら手の内を明かす、最初で最後の本である。 出典:amazon
profile
橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師

同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。
BLOG:http://chekosan.exblog.jp/
Facebook:nobuko.hashimoto.566
⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら

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