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北欧の幸せな社会のつくり方(あぶみ あさき)

政治が身近な社会

北欧の幸せな社会のつくり方
10代からの政治と選挙
あぶみ あさき (著)
北欧諸国※といえば、高福祉で生活水準の高い国々というイメージがあります。世界中の国を対象とした幸福度ランキングや学力調査、ジェンダーギャップ指数、報道の自由等々でも、常に上位を占めています。

著者あぶみあさきさんは、ノルウェーを拠点とするジャーナリスト・写真家で、北欧の情報を発信されています。本書では、そんな北欧諸国の社会と政治がどのようにつくられているのかを取材し、まとめられました。

あぶみさんによると、北欧の政治と社会を読み解くうえで鍵となるのは、民主主義に対する意識です。北欧諸国では、子どもの頃から政治に関心と関わりを持ち、政治を身近なこととして、自分事として考える習慣があるといいます。

本書では、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、デンマークの活気ある選挙運動や柔軟な政党活動の様子、市民と政治家との近さ、市民が若い頃から政治や選挙に関心を持つ機会などについて、たくさんの写真とともに紹介されています。

まずは北欧流選挙の様子が紹介されます。北欧の選挙は、まるでお祭りのようです。広場には各党の選挙スタンドが建てられます。おしゃれな屋外物置のようなサイズの小屋に、飲み物や軽食、ペンなどのちょっとした文房具が用意され、コーヒーを飲みながら市民と候補者やボランティアが気軽におしゃべりをしています。キッズスペースを設けてあることもあるそうです。

北欧ではどの国も選挙運動に厳しい規制がなく、飲食物やグッズの配布は禁止されていません。戸別訪問も禁止されていないので、首相や大臣が突然ドアをノックするということもあるとか! そのかわり、日本のような大音量の街頭演説や選挙カーの巡回の習慣はないそうですよ。

学童・生徒らが選挙運動に関わることにも制限はありません。それどころか、子どもたちが各党の選挙スタンドを回って質問を投げかけるという授業も実践されているそうです。著者のあぶみさんが、子どもは大人とは違う質問をするかと各党に訊ねたところ、どの党にも多くの子どもが「あなたの政党は難民のために、何をするのか」と聞いてきたとのこと。大人の方が、年金や税金など自分の生活に関わることばかり気にしているそうです。

高校では、投票の練習をする「学校選挙」「模擬選挙」が開催されます。本式の選挙戦さながら、各政党の青年部の代表が学校を訪れ、生徒の前で政策討論会を開きます。校内にはやはり選挙スタンドが設置され、気軽に質問をすることができます。こうした活動に対して学校がなにか制限を設けることはありません。学校選挙の結果は多くのメディアでトップニュース扱いとなるそうです。

政党の青年部には中・高生も多く、彼らは堂々と政治家を名乗っているそうです。北欧諸国の政党の青年部は母党から独立している部分も多く、独自の政策を持ちます。彼らの意見は、若者を代表する声、未来の有権者の声として尊重され、母党の公約に盛り込まれることもあります。

選挙権も被選挙権も18歳からの北欧では10代で議員になることもできます。候補者名簿に10代の名前があるのは自然な光景だそうです。若い頃から政治や選挙に関心を持つ機会が整っていることがわかります。

市民が党員になることも「ふつう」のことだそうです。北欧はどの国も小国で、社会のネットワークに参加する手段として団体に所属することを好む傾向があり、政党もそのひとつだそうです。そのかわり、党や政策に不満があればすぐ退会するので、党員数の増減は世論調査なみに人気のバロメーターになっているとのことです。

政治に関わる方法は選挙だけではありません。スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんから始まった気候変動対策を求める金曜日ごとのデモは、またたくまに大勢の若者の共感を呼び、大人も参加するようになりました。気候変動に限らず、北欧では国会や市庁舎前での抗議活動は当たり前で、参加者を変な目で見る人もいなければ、顔を隠して参加することもないそうです。教育機関や企業も若者のデモ参加をプラスにとらえているそうです。

「みんなのことはみんなで決める」「自分の意見には価値がある」「一人ひとりに社会を変える力がある」という意識が支える北欧社会。国の規模や制度の違いはあっても、私たちにも参考になることがたくさんありそうです。力と希望をもらえる一冊です。
※本書で取り上げられているのは、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、デンマークの4か国、これにアイスランドを加えた5か国が一般に北欧と呼ばれます。
北欧の幸せな社会のつくり方
10代からの政治と選挙
あぶみ あさき (著)
かもがわ出版 (2020)
18歳選挙権が導入された日本の、これからの政治のあり方の道標にしたい北欧ドキュメンタリー。 選挙になると選挙小屋が建ちコーヒーや文具が無料配布され、十代の政治参加が歓迎される北欧。写真とともに北欧民主主義を読み解く。 出典:amazon
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橋本 信子
大阪経済大学経営学部准教授

同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。専門は政治学、ロシア東欧地域研究。2003年から初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発にも従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。
BLOG:http://chekosan.exblog.jp/
Facebook:nobuko.hashimoto.566
⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら



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