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ブッデンブローク家の人びと(トーマス・マン)

先祖から受け継いだかけがえのないもの

ブッデンブローク家の人びと
トーマス・マン (著)
ドイツの商家として繁栄した、ブッデンブローク家の生きざまを描いた長編小説です。

上巻は二代目ヨハン・ブッデンブロークの愛娘トーニを中心に展開されます。

街を歩けば「ブッデンブロークのお嬢様」と、うやうやしく挨拶され一族の誇りをもって育ったトーニ。

ただ裕福ということではなく、家業である商会を築き、維持する父親や祖父に対する敬意から、自身も一家の名に恥じない生き方をしようという考えが自然と身についたかのようです。

19歳になったある日、思いもよらない縁組が持ち上がります。

相手は財力に申し分のない商人でした。社会情勢の不安からブッデンブローク商会はゆるやかな下降の兆しがあり、これはありがたい話です。

しかし、トーニにとっては気が進まないどころか嫌悪(けんお)の情をいだくような相手だったのです。

必死の抵抗に両親も一歩下がり、体調を崩したトーニに静養として旅をさせます。

元気をとり戻して屋敷に戻ったトーニは、偶然机に置かれていた重厚な金縁の帳面―ブッデンブロークのこれまでの歴史が刻まれた帳面―を手に取ります。

(本文より)
トーニは、帳面を取り上げ、ぱらぱらめくり、読み始め、興味をそそられて読みふけった。読んだのは、主として簡単な、熟知していることばかりであった。

しかし、記入している一人一人は、前の人たちから誇張をせずに自然に厳そかな調子になる文体を引きついでいて、意識せずに自然に年代記めいた文体で書いていて、読む者に、一つの家族が自らを、そして、一家の伝統と歴史をつつましく、それだけに深く、尊敬してきたことを感じさせた。

トーニは、それを初めて感じたのではなかった。これまでにも、このページをたびたびのぞくことがあった。しかし、今朝のようにその内容が強い印象を与えたことはなかった。…

そして、ふいに、発作的に、ペンを取り上げ、インキ壺のなかへペンを浸すというよりは、むしろ突っこみ、人差し指が反り返るほど力をこめ、ぎこちない字で書きこんだ。

「…1845年9月22日、ハンブルクの商人ベンディクス・グリューンリッヒ氏と婚約」
祝福された結婚ですが、幸せは長く続きませんでした。

夫の虚偽が発覚したのです。

グリューンリッヒは「ブッデンブローク商会」の名前とトーニの持参金目当てで近づいたペテン師だった…!

やがて首が回らなくなり破産の道に追い込まれ、トーニの離婚が成立。

幼い娘を連れてブッデンブローク家に戻ってきます。

さらに2度目の夫も持参金目当てで、さんざんな目に遭ったトーニは再び実家に戻ることになります。

どんなに辛いことがあっても暖かく迎え入れてくれる家族。

これほどありがたく心に染みることはありません。

そして父親の亡き後、長男・トーマスが三代目として商会を継ぎますが、この頃から一家は没落への道をたどるのです…。

ブッデンブローク家の人びとを思った時、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲が浮かびました。

ドイツに生まれたメンデルスゾーン(1809-1847)は大変裕福な家に生まれ、最高の教育を受け、一生不自由のない人生を送りました。

前衛的なものを嫌い、古き良き西洋音楽の伝統を重んじました。

そんなメンデルスゾーンが「音楽の父」バッハを敬愛したのは自然なことかもしれません。

その作風はノーブルで美しく、まるで真珠のように艶めきます。

しかし、メンデルスゾーンを語る上で忘れてはいけない事実があります。

彼はユダヤ人だったのです。

「成功したユダヤ人一家」ですが、道を歩いている時に石を投げられるなど、相当つらい経験もありました。だからこそ、生き抜くための真の実力が必要だったのです。

ユダヤ人としての宿命を背負ったことが、憂いとして音楽の根底に流れているようです。

著者であるトーマス・マン(1875-1955)もドイツ人ですからこの曲に触れていたかもしれません。

一家を通して、人はどう生きるべきかを考えるきっかけになりました。

自分一人の問題ではなく、その細胞一つ一つが先祖から受け継いだかけがえのないものである。

そう痛感した時、ブッデンブローク家の人びとと交流できたようでした。
メンデルスゾーン&ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲
1835年から約10年間、メンデルスゾーンが指揮を務めていたゲヴァンドハウス管弦楽団。良き伝統を受け継ぐオーケストラと、情感たっぷり若さ溢れるヴァイオリニスト・ヴェンゲーロフの名演です。
ブッデンブローク家の人びと
トーマス・マン (著)
望月市恵(訳)
岩波書店 (1969)
「ある家族の没落」という副題が示すようにドイツの一ブルジョア家庭の変遷を四代にわたって描く。初代当主は一八世紀啓蒙思想に鍛えられた実業家である。代を追うにつれこの家庭を、精神的・芸術的なものが支配し、次第に生活力が失なわれてゆく。 出典:amazon
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植木 美帆
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兵庫県出身。チェリスト。大阪音楽大学音楽学部卒業。同大学教育助手を経てドイツ、ミュンヘンに留学。帰国後は演奏活動と共に、大阪音楽大学音楽院の講師として後進の指導にあたっている。「クラシックをより身近に!」との思いより、自らの言葉で語りかけるコンサートは多くの反響を呼んでいる。
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チェリスト植木美帆のファーストアルバム。 クラッシックの名曲からジャズのスタンダードナンバーまで全10曲を収録。 深く響くチェロの音色がひとつの物語を紡ぎ出す。 これまでにないジャンルの枠を超えた魅力あふれる1枚。 ⇒Amazon
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