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■関西ウーマンインタビュー(学芸員編)


河野 未央さん(尼崎市立地域研究史料館 職員)

町のいたるところに歴史とつながる入口がある。
過去と現在が結びつく瞬間が嬉しい

河野 未央さん
尼崎市立地域研究史料館 職員
「地域の歴史を知りたい」「尼崎はなぜ06局番?」「昔から道端にある大きな石が気になる」など、まちの「?」について調べ方をアドバイスしてくれる『尼崎市立地域研究史料館』。尼崎市域に関する歴史資料や図書、公文書などを収集・整理・保存して一般に公開している「公文書館(文書館、アーカイブズ)」です。

職員の河野未央さんは「古文書の訴えかける力にとりつかれ、そうした魅力を伝える役割を果たせるような職業に就きたい」という想いから、今の職場を選んだと言います。

「時代を超えての出会いがある」と歴史のおもしろさを語る河野さん。そもそも歴史に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか? 河野さんにとって歴史の魅力とは? 古文書を通して、どんな世界を見ているのでしょうか?
気づいたら、「昔のもの」に親しんでいた
河野さんが歴史に関心を持ったのはいつ、何がきっかけだったんですか?
さかのぼって考えると、小学生の頃でしょうか。マンガが好きで、家や学校の図書室にある歴史や伝記ものを片っ端から読んでいましたし、同居の祖母と一緒に観るテレビ番組といえば、『遠山の金さん』などの時代劇。

中学・高校では古典の授業が好きで、昔の言葉で書き綴られていてわかりづらいんだけれども、自分が想像できないような社会の中で生きていた人たちは魅力的だったし、現在とは異なる社会の在り方やものの考え方がある一方で「ああ、私もわかる」と共感できる心情があるなどおもしろいな、と。

「昔のものを扱う仕事に就けたら素敵だなあ」と思っていたところ、学芸員という職業を知り、憧れからめざすようになっていました。
憧れを現実にされたんですね。しかし、学芸員は狭き門だったのではないでしょうか?
いえ、私は、厳密に言えば、学芸員としての就職はできませんでした(笑)。業務として似ている部分は多いですが。「なりたいと思って希望しても就職口がなかなかない」というのが、学芸員をめざす人たちが抱える悩みではないでしょうか。

尼崎市立地域研究史料館は「公文書館(文書館、アーカイブズ)」機能を持つ施設で学芸員の勤務する博物館とは異なります。私の職種は、欧米では『アーキビスト』と呼ばれる専門職にあたります。しかし日本では、学芸員と異なりあまり知られていないですし、専門職としての国家資格もありません。

まだまだアーカイブズ施設が設置されている市町村は少ないですし、非常勤職員としての雇用が多い世界です。正規職員であっても、一般職であるため、ジョブ・ローテーションがある場合も多い。全国的には、尼崎市のように正規職員でかつ専門性を活かして長年勤め続けるという条件を認めてもらうのは難しいことが多く、こちらもまだ狭き門ではあります。

私もそうでした。大学院卒業後に尼崎市立地域研究史料館に入職するも嘱託職員だったため、生計を立てることを優先し、一時期は近大姫路大学(現・姫路大学)の教育学部で教員をしていたこともあります。教員の仕事もおもしろかったのですが、古文書に直接触れる機会がめっきり減って寂しさを感じるようになっていました。

その後、尼崎市立地域研究史料館の正規職員の募集が出たので応募して現在に至ります。40才を目前にしてようやく就職できた身としては「諦めたら終わり」と思っています。
小さな点がつながって広がる、おもしろさ
河野さんは学生時代にどんな研究をされていたのですか?
大学院では日本近世史を専攻し、港の機能や都市機構について研究していました。

私自身がずっと町で暮らしてきたので、農民よりは町民のほうが想像できることが多いかもしれないと「都市」に注目。現在の神戸市中央卸売市場神戸本場あたりにあった、「兵庫津」という港町の、江戸時代の町制機構について研究していました。

古くから「大輪田泊(おおわだのとまり)」として知られ、港として栄えてきた場所です。中世期については多くの研究蓄積がありますが、江戸時代、とりわけ北前船で著名な豪商・高田屋嘉兵衛が登場したり、開港問題が持ち上がったりする幕末期以前については、自治体史等の基礎的な研究のほかはあまり具体的なことが知られていません。そこで、豊臣秀吉から江戸幕府第8代将軍の徳川吉宗ごろまでの時代、130年ほどの時期を対象に調べることにしました。

最初は兵庫津について見ていたんですけど、調べれば調べるほどにあちらこちらにつながっていきます。

一部を話しますと、豊臣秀吉の朝鮮出兵の際、現在の阪神間あるいは播磨地域において、海辺に暮らし、操船の技術をもっていたと考えられる一般の人たちが船の漕ぎ手として集められ、一部の人々は朝鮮に渡っていることなどがわかりました。さらに、この時、各村に漕ぎ手がどのくらいいるのかを台帳で管理する仕組みができていたようで、この仕組みが江戸時代に朝鮮通信使のために護衛船を出す時に活用されていることがわかりました。

当初は、兵庫津の町のしくみについて調べていただけで、こうしたことがわかるとは思っていませんでした。しかし、調べていくなかで、朝鮮通信使来朝の際、兵庫津で、人材や資金集めなどを行なう公務員的な役割を担う人の存在が見えてきました。「国家的」イベントですので、1人あたりの事務量は、ものすごいもの。西宮・尼崎町といった阪神間の沿海地域の人々と協同して、それをこなす事務処理能力の高い人たち。

「何?この人たち、おもしろい」「この人たちがなんでこんな動きをしているのか?」をたどって調べていくと、さきほどの豊臣秀吉の朝鮮出兵の漕ぎ手確保の仕組みなども見えてきました。同じような仕組みは、実は大阪湾沿岸地域一帯にあることもわかり、最終的には大阪府南部の和泉国の話にまで広がっていきました。
歴史研究とともに、学生時代から『歴史資料ネットワーク』の活動もされていますね。
私が神戸大学に入学したのは阪神・淡路大震災が起きた年。同年に、被災した歴史資料を救出・保全するボランティア団体『歴史資料ネットワーク』が立ち上がりました。大学3年生の時に先輩から「歴史資料に触れられるよ。早くから触れておくと、いい卒論を書けるよ」などと誘われ、参加しました。当初は参加することの意義などは、あまり深く考えていなかったです。

古文書といえば、武将や政治家など歴史上の有名人物が書いたすごいものをイメージしていたのですが、一般のおうちであっても昔の記録が残されているんだと衝撃的でした。おじいちゃんが書いた個人的な日記さえも重要な歴史資料になるんです。

ひも解いていくと、地域の歴史がわかるし、教科書に載っている歴史上の出来事について「その地域でどう対応したのか」など地域ならではの記録が残っています。個人の体験も、小さなまちの出来事も、大きな歴史につながっていくし、その時代に生きた一人ひとりが「その時代」を表すんだということを肌で感じました。

大学院に進学して以後も活動に関わり続けました。豪雨や台風、地震などによって泥水や生活排水に浸かった古文書を救出・吸水乾燥する作業を市民ボランティアの方などと一緒に行っていました。

その経験を各地に伝えるため、誰でもできるキッチンペーパーを用いた古文書の吸水乾燥法のワークショップを実施、あわせて地域に古文書が眠っていること、その保全・活用の重要性を訴えました。そうした活動の中で、私自身の古文書に対する考え方がさらに変わっていきました。

大学院では歴史資料をもとに研究し、『歴史資料ネットワーク』では歴史資料を救出・保全する活動に取り組む・・・学生時代は別々の活動としてあったものが、仕事を始めてから結びついた感じがします。
山を登るように、少しずつ前へ
これまでにどんな「壁」または「悩み」を経験されましたか?
地域のアーカイブズ施設で勤務するアーキビストは、その地域について「浅くとも広い知識」が必要と言われています。多くのことに興味・関心を持ち、アンテナを高くはっていないといけないと痛感します。壁というよりは、登らないといけない山です。

「調べてもらうためにどうガイドできるか」「何か発見を持って帰ってもらいたい」と真剣勝負、「もっとこういう提案ができた」と反省の連続です。自分がこれまでに取り組んできたことが問われますし、できていない部分が明らかになります。

調べに来られる方は研究者の同志であると思っているので、研究している姿を見ると、「自分もやらないとあかんな」と元気をもらい、「諦めたら駄目だな」と刺激を受けるんです。
河野さんが「諦めたら駄目だな」と思うこととは?
大学院で博士論文を提出して受理されて学位をもらいましたが、自分ではまだ書ききれていないと思っています。調べたことはあくまで素材で、その中から何を抽出して、どんな歴史像を築いて、他にはないオリジナリティを出して、それをどう根拠に基づいて述べられるのかが、研究者には求められます。

私の場合、「調べたら、こんなことがわかりました」「こんなつながりも見出せました」という話はできますが、どんな意味があって、近世社会でどんな意義があるのかを理論として提示できるまでには至っていなかったと今でも思うんです。10年以上前に壁にぶつかって、以降は断念し続けている状態と言えるかもしれません。

年齢や経験を重ねたからこそ、見えてくることがあります。先ほどの江戸時代にいた公務員的な人のことも、公務員になった今だからより親しみが湧いていて、「こんなことを考えていたんじゃないかな」など想像できることが増えたので、歴史資料を読み返したら見えてくるものがあるのではないかな、と。

この仕事を続けていくためにも、研究者としての視点は重要なので、もう1度取り組みたいと考えています。
過去を生きていた人たちと結びつく
河野さんにとって、歴史や歴史研究の魅力は何ですか?
たとえば、医師が医学史を調べたり、情報化社会に突入した90年代以降には「江戸時代の情報通信って、どうだったんだろう?」という研究が出てきたりといったように、「自分だから」「その人だから」興味をもつにいたったり、「その時代だから」できたりする研究があります。

歴史は過去を見ていくものですが、現在とまったく無関係ではなくて、「このことについて調べよう」という興味・関心のスタートは現在を生きる自分の興味・関心から。つまり、現在に興味や関心がないと、過去を見ることができないと言えるかもしれません。

研究者としては純粋にその時代の世界を見てみたいとなるのですが、個人としては生き方に影響を受けたり、今に活かせる気づきや学びがあったり、未来を考えるヒントになったり。何より、時代を超えて、その時代を生きていた人たちと出会うことができます。

古文書の端々に、歴史上に名前は残っていないんだけど、現在を生きる私たちと同じようにその時代を生きていた人たちの息遣いが見えてきて、人生にちょっとずつ触れていけるんです。

たとえば、「若い子どもが商家に奉公に来た」と記載された証文を見ながら「この子はその後どうなったんだろう?」と想像したり、「丹波国から尼崎まで歩いてやってきた」という記録を見つけると「あの距離を歩いていたんだ」と驚嘆したり。

過去と現在、まったく違う時代ですが、それでも「あぁ、一緒かもしれない」と結びつく瞬間がたまらなく嬉しい。
近い未来、お仕事で実現したいことは何ですか?
古文書の大切さを次の世代に伝えていくために、子どもに向けて「古文書講座」をやってみたいです。

古文書を見せても、大人は「読めない」と言って読むのを躊躇しますが、子どもはパズルをするように読める文字を探し、素直に「読めた!」と喜びます。

物事を面白がる才能は子どものほうがずば抜けて高いので、子どもから大人へ、古文書の魅力を逆に伝えてもらえないかとひそかに考えています。
河野 未央さん
1995年神戸大学文学部に入学。在学中、大規模自然災害から歴史資料を守る『歴史資料ネットワーク』に参加、現在も個人運営委員として参画している。神戸大学大学院文化学研究科修了後、同大大学院人文学研究科地域連携センター研究員、『尼崎市立地域研究史料館』の嘱託職員、関西圏の大学の非常勤講師、『近大姫路大学(現・姫路大学)』の助教などを勤め、2014年4月より『尼崎市立地域研究史料館』の正規職員となる。「ふすまの下張り文書はがし作業」などワークショップや講座を各地で実施している。
尼崎市立地域研究史料館
尼崎市昭和通2丁目7-16 尼崎市総合文化センター7階
TEL:06-6482-5246
HP: http://www.archives.city.amagasaki.hyogo.jp/
FB: AmagasakiMunicipalArchives
(取材:2017年9月)
今回の取材以前に『尼崎市立地域研究史料館』に行った際、河野さんに「町のいたるところに、歴史とつながる入口がある。道端に転がっている石もぱっと見ただけでは『ただの石』かもしれないが、もしかしたら『米つき石』(米の脱穀時に使用されていた石)など過去と結びつくものかもしれない。歴史を知ると、いつもの風景が昔とつながって特別な風景になり、何かと、誰かと、つながる入口になる」といったお話をうかがいました。

私が何気なく見ている風景も、河野さんにとっては過去から積み重ねた重厚な風景に見えていて、今を生きている人たちだけではなく、昔を生きていた人たちの息遣いや生き様を感じているんだ、と。

河野さんが見ている世界を少し見せてもらってから、まちで見かける石碑などが気になるようになりました。立ち止まって石碑の文字を読んだり、インターネットや『尼崎市立地域研究史料館』などで調べたり。小学生の頃から見ている“いつもの風景”に昔の風景が重なって、「あれはなんだろう?」と好奇心を刺激される日々を送っています。
小森 利絵
編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP:『えんを描く』

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