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N/A(年森瑛)

今の若者って大変だ

N/A
年森 瑛(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

今回は、年森瑛さんの『N/A』をご紹介しました。

年森さんはこの作品で第127回文學界新人賞を受賞し、2022年にデビューされました。

文學界新人賞は選考委員満場一致だったそうです。同時に、芥川賞候補にも選ばれたということで、読む前から期待が高まりました。
主人公 松井まどかは女子校に通う高校2年生。

まどかは背がスラリと高く、周囲からは「松井様」と呼ばれている。

バレンタインデーともなると、下級生だけでなく同級生からもチョコレートが届く。

モテるのだ。今年は学校始まって以来の記録的な数のチョコレートをもらった。

まどかは自分に厳しい食事制限を課しているが、それはスラリとした体型を保つためではない。ましてやモテたいためでもない。月経を止めておくためにそうしているのだ。

まどかが炭水化物を抜き始めたのは13歳の時。学校から配られたプリントに「過度なダイエットによる低体重は月経が止まる可能性がある。将来のために無理しないように」という趣旨の文章を見つけた時からだ。効果はすぐに体に現れた。いい方法を見つけたと思っている。

しかし、家族のパソコンの検索履歴に「子ども 食べない」「拒食症 親 対応」といった文字を見つけて以来、心配させすぎてはいけないと、体重を40キロ弱に維持するようにしている。
(年森瑛さん『N/A』の出だしを私なりにまとめました)
この小説の主人公まどかは、成長した女性の象徴である月経が来て欲しくないからダイエットをしています。

普通は、痩せたい、ダイエットしたいと思って食事制限をしすぎた結果月経が止まるわけですが、まどかの場合は目的と手段が逆転しております。まず、このことが私には衝撃でした。新しいタイプの主人公だと思って。

そして小説では続いて、学校内や通学中のまどかと友達たちの様子を描いています。

やや乱暴な喋り言葉は、現実世界のSNSで時々見かけることがあります。省略気味で乱暴なメッセージをそのまま口語にした感じ。

例えば、大好きなアイドルを応援する「推し活」についての会話を引用しますと……
「翼沙、また推し変した?」
「変わってないんよ。増えただけ」
「不純だ」
「は?死んでほしいんだが」
(年森瑛さん『N/A』P12より引用)
この会話、真剣に相手に向かって「○ね!」と思って言っているのではないのはわかります。わかりますけど、私たちが高校生の時、こんな言葉を使う人は多分いなかったと思います。それ以外の会話も、言葉数が極端に少なく、言い切り調。若い子って今リアルな世界でもこんな会話をしているのか、と、子どもも孫もいない私には新鮮でした。

会話に驚いたあとは、まどかの付き合っている人に関する記述に再度驚きました。

まどかがお付き合いしているのは「うみちゃん」。

教育実習にやって来た教師の卵から「お試しで付き合ってみない?」と誘われたのでした。

高校生のまどかとLGBTQの問題をサラッと書いてあり、これも今どき。

とにかくページをめくるたびに「ほぉ」「へぇー」「今ってこんな感じなんだ」と、驚かされること多し。

タイトル『N/A』は「Not Applicable」(該当なし)、あるいは「Not Available」(利用できない)の略なのだそうです。私にはタイトルと内容がマッチしているのか、そうでないのか判断がつきません。

とにかくあらゆる意味で驚きです。

そして最も「今ってこうなんだ」と感心したのは、学校を離れた後の女子高生たちのスマートフォンでのメッセージのやり取り。

私なんかはいつも、ぱぱぱっと書いて即送ってしまいますが、まどかは、いったん書いたメッセージを読み返し、あれこれ考えては何度も削除して書き直しています。

相手にどう思われるか、どう受け止められるか、自分の言葉が重みを持ちすぎていないか、などを気にして、なかなかメッセージを返せないでいるのです。

こんなふうに書いたら相手が傷つくのではないか、自分の言いたいことがうまく伝わらないのではないのか、そう考える一方、「既読」になったメッセージにはすぐに対応しなくては、とも考える。まさに、今時の女子高校生にとっての大きな問題なのでしょう。

今時の女子高校生は大変だ、そう思わずにはいられないのでした。

いや、ツールが変わるだけで、いつの世も青春は大変なものかもしれません。

元に戻りまして、審査員全員一致で第127回文學界新人賞を受賞したことが納得できる作品でした。
N/A
年森 瑛(著)
文藝春秋
松井まどか、高校2年生。うみちゃんと付き合って3か月・体重計の目盛りはしばらく、40を超えていない。文學界新人賞受賞。 出典:楽天
profile
池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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