線路は続くよどこまでも(山田千紘)
なんて明るくて強い人 線路は続くよどこまでも
山田千紘(著) 私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。
今回ご紹介するのは、山田千紘さんの『線路は続くよどこまでも』 この本を手に取り、表紙の写真を見た時には衝撃を受けました。線路の上に立っている著者、山田千尋さんの、両脚は義足です。よく見ると、右腕がない。 しかし、山田さんに悲壮感はなく、いい笑顔です。 肉体的には、どう見ても大変な状況であろうに、表情があまりに明るいため、理解が追いつかないのです。 これは、乙武洋匡さんの『五体不満足』の表紙を初めて見た時の衝撃と同じだと思います。 山田千紘さんは20歳の時に、電車との接触事故のため、両足と右腕を失いました。 それは2012年7月のこと。大学を中退した山田さんは、ケーブルテレビの営業職として働き始めたばかり。 人とのコミュニケーションが得意な山田さんは、仕事も一生懸命でしたし、職場の先輩方とのお付き合いも大切にしていました。 そしてその日、連日の仕事で疲れていたにもかかわらず、先輩の誘いを断らずに飲み会に参加します。 終電間際の電車に乗り込むと、疲れと酔いで熟睡。駅員さんに起こされて目を覚ますと、そこは終着駅。自宅の最寄駅を通り過ぎてしまっていました。 反対側ホームにやってくる次の電車が終電。乗り遅れるわけにはいきません。慌てて反対側のホームに移動したものの、山田さんはまたそこで眠ってしまいます。 そして、電車がホームに近づいてきた時、なんとか目を覚ましたのは良かったのですが、ふらふらとホームの端に移動した時、よろけて線路に転落。滑り込んできた終電車に轢かれてしまった、ということです。 何か一つでも歯車が違っていれば、こんな大事故にならずに済んだでしょう。ホームでそのまま眠りこけて終電に乗れなかったとしても、7月だったら凍死もしないでしょうから、その方が良かったかも。 とはいえ、事故は起こってしまったし、山田さんの両足と右手は失われてしまったのです。 山田さんはこの顛末を何一つ覚えていないそうです。病院に緊急搬送された後、10日間眠り続け、目が覚めたら両足と利き腕がなくなっていたわけです。 この現実を受け入れねばならないことが どんなことなのか、想像するだけでも胸が苦しくなってしまいます。 いくら明るい山田さんでも、最初は涙が込み上げるばかりだったとか。そして人生が終わったと感じたけれど、懸命に救ってくれた医療スタッフや家族に励まされ、山田さんは目標を立てます。 1つ目は自分の意思、自分の力で歩くこと 2つ目は社会人として自立すること。 そのための第一歩は、左手で字を書く練習をすること。 山田さんにとって「できないことはゲームと同じ」だったのですって。難しい問題を解決、克服するロールプレイングゲーム感覚だったのかも。 本当にポジティブですね。 とはいえ、両足義足で歩くことが簡単なことであるはずはありません。転んだ時の恐怖も大きいと思います。しかし、山田さんは多くの問題を「攻略」し、今に至ります。 山田さんの現在の姿が、表紙の写真な訳です。 しかも著書のタイトルは『線路は続くよどこまでも』。 事故のことを考えれば、電車になんか一生乗りたくないと思ってもおかしくないはずなのに、人生をレールに例えることができるなんて、山田さんはなんて明るくて強い人なんでしょう。 実は、私はこの本を読む前に山田さんのことを知っていました。 山田さんは「山田千紘の ちーちゃんねる」というYouTubeチャンネルをお持ちです。 私は偶然、事故で両足と右腕を失った顛末を語っている山田さんの動画を見ました。その時、私は辛すぎて、動画を最後まで見ることができませんでした。 だけど今回、山田さんのご著書を読むことができ、改めて山田さんの動画を拝見することができました。 辛いから見ないのではなくて、発信されていることの真意を汲まないといけませんね。 この夏(2021年)、パラリンピックを拝見した時にも思ったことですが、もし私が今後事故などで、体の一部を失ったとしても、嘆いてばかりいてはいけない、残った機能を使って、より良い生き方ができるように頑張らないと。 命ある限り生きていかないといけない、諦めてはいけないのだな、と改めて感じました。 それにしても、この本を読んで一番驚いたのは、こんなにも大きな怪我を負い、深刻な状態になっているのに、山田さんには何の手当も障害年金も おりなかったということ。 障害年金の条件は、怪我の診療を初めて受けた日に年金に加入していること。山田さんは大学を中退して働き始めていましたが、試用期間中で、厚生年金にはまだ加入していませんでした。 だったら労災保険は?と思うけれど、労災保険が適用されるのは業務中か通勤経路内のみ。 山田さんが事故にあったのは、通勤範囲とは全く違う駅。だから労災も降りない。左腕が残っていて体幹が損傷していないので、重度特別障害手当の対象にもならない。 こんなことってあるのかと、驚きました。 どうにかならないものなの?! 線路は続くよどこまでも
山田千紘(著) 廣済堂出版 20歳の時、電車にひかれて両足と利き手を失った29歳の著者。絶望を乗り越え、退院3か月後には車の免 許取得し一般雇用で就職。さらに1人暮らしを始め、お弁当を持参する日々。「ないものよりあるものを見る」 生き方に勇気をもらう人が続出し、YouTubeは9万超!メディアにも多く取り上げられ、今回初の書籍。 出典:楽天 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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