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鉞ばばあと孫娘貸金始末(千野隆司)

最強キャラ登場!

鉞ばばあと孫娘貸金始末
千野隆司(著)
”鉞(まさかり)ばばあ”なんて、生まれて初めて目にする言葉です。表紙を見たら、妙齢のご婦人が鉞を担いでいるワ。これが「鉞ばばあ」なのね。
時は江戸時代。

神田明神の近くに住んでいるお鈴は祖母のお絹と二人暮らし。

お鈴が7歳の時、両親は火事で亡くなってしまい、母方の祖母に引き取られたのだ。

祖母は金貸しを生業としている。

祖母は幼い頃親に捨てられ、弟と共に取り残された。子守奉公、料理屋の仲居を経て金持ちの囲われものとなり、娘を出産。それがお鈴の母だ。


祖母が近所で名高いいじわるばばあになったのはこれまでの苦労のせいだろうとお鈴は思っている。

祖母が信じるのは金と鉞だけ。貸した金を返さないという輩が現れたら鉞を握り督促に行く。

まさに金に命をかけているのだ。鬼気迫るその姿は一度見たら忘れられるものではない。「鉞ばばあ」と言えば通じるようになってしまった。

そんな祖母とお鈴の周りで金がらみの事件が……。

江戸最強の意地悪ばばあと孫娘の痛快事件簿。
(千野隆司さん『鉞ばばあと孫娘貸金始末』の出だしを私なりにご紹介しました)
まずは鉞。

私がこれまで読んだ物語や、見たことがあるドラマの中で、鉞を持って登場するのは金太郎しかいませんよ。それに、そもそも鉞って何?!斧とどう違うの?!

頭の中がはてなマークだらけになりました。

思わず「斧 鉞 違い」で検索してしまいましたよ。

ま、それはこの小説のストーリーには関係ないので割愛しますが、「鉞ばばあ」とは誠に強烈なキャラクターです。


それにしても「ばばあ」。

なんと嫌な言葉でしょうか。

私もそろそろそう呼ばれるお年頃になってきました。

しかし、年齢は誰もが嫌でも重ねるもの。

鉞ばばあと呼ばれるお絹さんにだって、若い時はあったのです。しかも相当な美人だったそうですよ。生まれた境遇が違ったら、蝶よ花よともてはやされ、良きところに嫁ぎ、なんの苦労もなく のほほーんと暮らしたかもしれないのです。


しかし、現実は厳しかった。

親に捨てられ弟と二人。なんとか這い上がって金貸し業を営むようにまでなったのです。偉い!

その途上で生まれた娘には、お金の苦労をさせたくないとお絹さんが思ったのも当然でしょう。

なのに娘と来たら、親の反対を押し切ってわざわざお金に苦労しそうな男性と結婚。母と娘は対立し、勘当ということに。

火事のせいで孫娘のお鈴が一人残ったとき、引き取るには引き取ったけれども、それまでの経緯があり、両手をあげて歓迎、というわけにはいきませんでした。

お鈴は、自分は祖母にとって厄介者だと思っているんですね。ですから、祖母の集金を手伝うだけでなく、看板描きの仕事を請け負って自活の道を探しています。絵の才能があるんです。考え方がしっかりしているのは祖母譲りかもしれません。


読者から見ると、お鈴が思うように、お絹さんが孫を厄介者扱いしているようには見えません。

ただ、決して甘やかさないだけなのです。

それは、お鈴を引き取ってすぐに、武術を習わせていることでもわかります。

親のいない女の子、なめられて男性に酷い目に合わされないとも限らない。その時に自分の身くらい自分で守れるようになれ、ということです。

お鈴にとっての武道が、お絹さんにとっての鉞です。

身を守る術であり、本気を示す象徴なのです。

お絹さんは常に鉞を布で念入りに磨き、顔が映るほどピカピカにしております。

そして、お金を借りに来た人に証文を書かせるときにこの鉞を持ってくるのですよ。

「お金は私にとって命だから、アンタも本気で借りなさいよ。期限を守らないとか、返せないとか、ふざけたこと言ったらどうなるか!」

ということです。おかげで貸金の回収率は驚異の十割(100%)。

鉞ばばあ、こわいっ!

『ミナミの帝王』の萬田銀次郎か、『闇金ウシジマくん』と良い勝負ですよ。


この小説にはそんな鉞ばばあ お絹さんと孫娘お鈴を巡るお金がらみの事件が3つ収められています。祖母と孫娘で解決していくのですが、助っ人が2人。

心強い助っ人は、お絹さんの弟。苦労してグレた時期もあったけど、今ではおかっぴきをするかたわら、妻と一緒に田楽屋も営んでいて、近所の人たちの信頼も厚いのです。

もう1人の助っ人は、お鈴の幼なじみ、豆次郎。こちらはとっても頼りないけど、心からお鈴を心配してくれています。

お金が絡むと人は変わるし、汚いこともしてしまいます。

だけど、この小説にはお金がらみのエグ味がありません。どこか温もりのある物語、時代小説が苦手な方にもお勧めします。

ところで、この小説をドラマ化するなら、鉞ばばあは大地真央さん、お鈴は福原遥さんでどうかしら?真央さんほど鉞を持つポーズがカッコいい女優さんはいないと思います。

その場合、お絹さんと同業の「アイ○ル」さんが番組スポンサーとなり、ドラマの中で真央さんが「アンタ、そこに愛はあるんか」と言えば完璧ですね。

福原さんはドラマ『教場』で警察官の卵を演じていたので、か弱いと見せかけて男性を投げるシーンも見応えあると思う…なんて脳内妄想まで掻き立てる『鉞ばばあと孫娘貸金始末』でした。
鉞ばばあと孫娘貸金始末
千野隆司(著)
集英社
お鈴は火事で両親を亡くし、金貸しの祖母お絹に引き取られた。看板描きの仕事をしながら、祖母の集金を手伝っている。ある日、袋物屋の茂兵衛が返済を延ばして欲しいと頼みにきた。お絹は鉞を握り、覚悟してお借りと言ったはずと断る。帰宅した茂兵衛は首を括って死んだ。だが、お絹は殺しだといい、お鈴が様子を探ることに…。命懸けで金を貸す江戸最強の意地悪ばばあとお転婆孫娘の痛快事件帖。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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