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ポンコツ一家(にしおかすみこ)

泣いて笑って共感できる

ポンコツ一家
にしおか すみこ(著)
私が担当させていただいているエフエムあまがさきの番組では講談社様のご協力のもと、毎月一冊新刊本を紹介して、それをリスナーさんにプレゼントする「千波留のブック・プレゼンター」というコーナーがあります。

2023年1月のプレゼント本は、にしおかすみこさんの『ポンコツ一家』でした。(※プレゼントはすでに締め切りが終わり、当選者に発送されています。)毎回私は紹介する本を自分でも読んでおります。(もちろん読む本は私物です)

まず最初にお断りしておきたいことがあります。

本書にも書かれていましたが、この本において「ポンコツ」は、病気や患者さんを揶揄する意図で使われたものではありません。

私の文章も、病気や患者さんを貶めるために書いているのではないことをご理解ください。

女芸人にしおかすみこ さん。

真っ黒いストレートヘアにSMの女王チックな衣装でムチを持って登場し、「にしおかぁ〜すみこだよ」と自己紹介する女芸人さんという認識です。

やや自虐的にご本人がおっしゃるように「一発屋」と言っていいかもしれません。

お笑い界のことをそんなに詳しく知っているわけではありませんが、「一発」すら出ないまま、それでもなんとかお笑いを続けている芸人さんは大勢いらっしゃるように思います。

名前や特徴を聞けば、多くの人が「ああ、あの人」とわかる にしおかさんがずっとお仕事を続けておられたのは当然だと思います。

ところが2020年から始まったコロナ禍は、業種に関わらず多くの人を窮地に追いやりました。にしおかさんも仕事が激減。それまで払えていた家賃18万円を払うことができなくなりました。安い家賃の物件に引っ越そうと思ったときに、ふと思い出したのが千葉県にあるご実家。実家の家族はどうしているのだろうか?

にしおかさんのご実家に住んでおられるのは認知症のお母さま(80歳)、ダウン症のお姉さま(47歳)、ほぼいつも酔っ払っておられるお父さま(81歳)という顔ぶれ。これを機に実家に戻ろうと思ったのは無理もないかもしれません。

戻ってみるとそこは、かつて にしおかさんが過ごした家とは異なる状況になっていました。

リビングに入ればそこはゴミ屋敷状態。

食べさし、食べ残しが積み上がったテーブル。床は埃と砂(?)でジャリジャリ。

冷蔵庫を開けてみれば、溶けたり腐ったりした野菜や食べ物がぎっしり。

そんな部屋に ちんまりと座っているお母様。

認知症ではあるものの、普通の時もあれば、いろいろなことがごっちゃになってしまう時もある。

ダウン症のお姉さまは、ご自身のルールで生きているので、やらねばならないこと、やったほうがいいことを してもらうことはできません。

唯一 力になってもらえそうなお父様は大体いつもほろ酔い。

「自分がやらねば誰がやる?!!」

にしおかさんは そう決意するわけです。

でも、経験者の方はお分かりかと思いますが、家族が家族のお世話をするのって、なかなか冷静にはできません。

ついイライラしたり、爆発したり、そんな自分が嫌で自己嫌悪に陥ったり。

他人様のご家族だったら優しくできるのに、なぜ自分の家族だとそうなってしまうのか?

思うに、若くて元気だった頃の親のイメージ、こうあって欲しいという親のイメージと現実のギャップがありすぎて、つい感情的になってしまうのではないかしらん。

にしおかさんの場合、それに加えて、お姉さまとの関係も影響があったと思われます。にしおかさんが子どもの頃からずっと病気のお姉さまが優先されて今に至っています。

「私だって頑張っているのに、どうしていつもお姉ちゃんばっかり?!」

理屈はわかっていてもそんな気持ちになることはあるでしょう。そしてそれは大人になっても同じこと。

だけどやっぱり「私がやらねば誰がやる?!」なんですね。

この本が秀逸なのは、悲しいこと、悲惨な西岡家の現実を、なぜか笑って読めること。言わずもがなですが「嗤い」ではなく「笑い」ですよ。

ご自分や家族にツッコミを入れつつ対処していく様子はさすが芸人さんと思いました。

この本は当初予想したより沁みました。下に紹介している声の書評では、どうしても泣いてしまったくらいです。

笑いながら泣き、そしてとても参考になる一冊です。

とりあえず本は完結したとはいえ、西岡家の介護・介助がここで終わるわけではありません。続編が出版されることになるかもしれませんね。

そもそも にしおかすみこ さんは文章がお上手で、とても読みやすいんですよ。

続編を大いに期待します。
stand.fm
音声での書評はこちら
【パーソナリティ千波留の読書ダイアリー】
上の記事とはちょっと違うことをお話ししています。
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ポンコツ一家
にしおか すみこ(著)
講談社
家族紹介。うちは、母、80歳、認知症。姉、47歳、ダウン症。父、81歳、酔っ払い。ついでに私は元SMの一発屋の女芸人。45歳。独身、行き遅れ。全員ポンコツである。連載第1回だけで1200万PVを超えた「壮絶だけど笑って泣ける」家族のリアルな物語。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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