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牧野富太郎(コロナ・ブックス編集部)

心はいつも花の真盛り

牧野富太郎
植物博士の人生図鑑
コロナ・ブックス編集部(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

今回ご紹介するのは、コロナブックス編『牧野富太郎 植物博士の人生図鑑』。

牧野富太郎さんは江戸末期、土佐藩の造り酒屋の長男として生まれました。

物心ついた時から植物が大好き。親兄弟はもちろん、周囲の誰一人として植物好きはおらず、誰かの影響を受けたわけではありません。とにかく気が付いた時には植物が好きになっていました。

ご自分でもこんな文章を書いたことがあるそうです。
私は植物の愛人としてこの世に生まれ来たように感じます。あるいは草木の精かも知れんと自分で自分を疑います。
(『牧野富太郎 植物博士の人生図鑑』P2より引用)
そんなにも理屈抜きで植物が好きだった牧野少年。生まれたのが自然豊かな土佐で良かった。そして時代が明治に変わる時に生まれてきたのも幸運だったかもしれません。というのも、牧野さんは造り酒屋の一人息子なのです。もっと早く生まれてきてしまったら、職業選択の自由もなく、植物のことは趣味で、家業を継がざるを得なかったかもしれません。

この本は、牧野さんが94歳で亡くなるまでの足跡、エピソードとともに、牧野さんが残した植物画や研究の成果、そして写真が収められています。

牧野さんの植物学における活躍は目覚ましく、新種を発見することも少なくなかったそうです。

しかし考えてみてください。その植物が新種だと断定するのに、どれほど時間がかかったか。

今だったら、目の前にある植物の写真をGoogleレンズで検索すれば似たような写真がピックアップされてきて、形や色を比べることができます。

でも、明治時代、そんな便利なものはありません。図鑑を調べたり、研究機関に問い合わせたり、さまざまに検討した末、ようやく新種と認められたのではないかしら。

そもそも、植物採集をするにしても、それを入れて持ち帰るカバンだってありません。ジップロックやビニール袋、保冷剤もないのです。たくさんの植物を出来るだけ傷つけずに持ち帰る方法は…。

必要は発明の母、とはよく言ったもので、牧野さんは自分で使いやすいカバンや保管箱などを作りました。それがのちに標準化されたそうですから、植物が好きなだけではない創意工夫の人だったのでしょう。

意外なことに牧野さんには学歴がありません。寺子屋で学んだ後、新設された小学校に入学したのですが、小学校の授業に興味が持てず自主退学。「植物が好き」というブレない気持ちで独学で研究を進めているうちに第一人者になってしまいました。

周囲の人にも恵まれたのでしょうが、最も尽力してくれたのは奥さんの寿衛子さんです。彼女はお金儲けに興味がない旦那様を支え、13人の子どもを産み育てます。しかもお金のことを牧野さんに訴えたことは一度もないそうです。

夫のことを「道楽息子を一人抱えているようなもの」と冗談にしていた寿衛子さんには夢がありました。

それは「雑木林の真ん中に小さな一軒家を建てること」。おそらく、夫に思う存分研究をさせてあげたい、そして研究する夫のそばにいたい、という思いだったのでしょうね。

幸いその夢は叶うのですが、転居して2年後、寿衛子さんは54歳でこの世を去ります。

寿衛子さんが重体になった時、牧野さんは新種の笹を発見。その笹を「スエコザサ」と名付けます。そして妻亡き後、庭にスエコザサを植え、自身が94歳で亡くなる日まで、その家に住み続けたのですって。

一つのことに打ち込む姿の美しさと、それを支えた夫婦愛。なんて素敵なのでしょう。

私はこの本を手にしたときは単に学者さんの功績が書かれているのだろうと思い、半ば嫌々読み始めたのです。なのにまさか自分がこんなに感動するとは思っていませんでしたよ。

ちなみに、来年(2023年)NHKの前期の朝ドラ『らんまん』の主人公はこの牧野富太郎さんですって。

神木隆之介さんが演じるそうです。奥さんの寿衛子さん役は浜辺美波さん。これは見なくては!!

ところで、牧野さんが残したのは植物に関する膨大な資料だけではありません。副産物として面白いものが残されています。それは新聞。研究のため日本だけではなく、世界に植物採集に出かけた牧野さんは、植物を持ち帰ったり標本作りの際挟み込んだりするためにその土地の新聞紙を使いました。その結果、樺太や北海道から、沖縄、中国、台湾、アメリカなどさまざまな地域の新聞紙が溜まりました。これは現在も東京大学法学部の明治新聞雑誌文庫に「牧野新聞」コレクションとして保管されています。沖縄は戦火に見舞われ、ほとんどの新聞が焼けてしまったので、牧野新聞は貴重な資料と言えるでしょう。

大好きなことに没頭し、迷いなく道を進むと、他のことも自然とついてくるのですね。

この本に掲載された牧野さんの句の中から最も心に残ったものをご紹介して私の感想の締めくくりといたしましょう。
わが姿たとえ翁と見ゆるとも
心はいつも花の真盛り
(『牧野富太郎 植物博士の人生図鑑』P107より引用)
90代になっていた牧野さん。

「外見はおじいさんに見えても、心はいつも花の真っ盛りなんですよ」

私もそんなおばあちゃんになりたい!
牧野富太郎
植物博士の人生図鑑
コロナ・ブックス編集部(著)
平凡社
草木を無類の友とし、愛人とし、命とした「日本植物分類学の父」94年の生涯。豊かな言葉とスケッチ、写真で綴るビジュアル版の自叙伝決定版。 出典:楽天
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池田 千波留
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コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
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ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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