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The SIX(井上夢人)

まるで映画『アベンジャーズ』のよう

the SIX
ザ・シックス
井上 夢人(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

今回ご紹介するのは、井上夢人さんの『The SIX』。

かつて、岡嶋二人という作家さんがいました。1982年に『焦げ茶色のパステル』で第28回江戸川乱歩賞を受賞し、デビュー。

1985年には『チョコレートゲーム』で第39回日本推理作家協会賞長編賞を受賞、1989年『99%の誘拐』で、第10回吉川英治文学新人賞受賞するなど、数年のうちに3度も大きな賞を受賞する作家でした。

かつての藤子不二雄さんのように、実はコンビ作家ということも話題でした。ともかくあまりにも有名なので、何か一作でも読まなくてはと思っている時に出会ったのが『クラインの壺』。

仮想現実と現実の間を揺れ動く主人公に感情移入しすぎて、読んでいる私の頭もクラクラ。本を閉じて現実世界に戻っているのに、何がリアルで何がバーチャルなのか、実感が持てなくなるほどのめりこんで読みました。

『クラインの壷』が発表されたのは1989年、昭和64年・平成元年のことです。まだバーチャルリアリティということばが一般的ではなかったころに、圧倒的な仮想現実の世界を紡ぎ出していて、凄い人だなぁと思っていたら、この作品を最後にお二人はコンビ解消。

主に執筆を担当されていた方が、井上夢人さんとしてソロデビューされたというわけです。

私は『クラインの壷』以降、井上夢人さんの作品を読む機会がなく、『ザ・シックス the SIX』で井上さんと久々に再会することになりました。

『ザ・シックス the SIX』は6つの作品からなる短編集です。

それぞれの章の主人公は幼児から高校生まで年齢に幅はあるものの、特別な能力の持ち主という共通項があります。

各短編のタイトルと主人公をご紹介しましょう。

「あした絵」
明日おこる出来事が見えてしまう小学4年生の女の子。

「鬼の声」
悪事を企む人間の心の声が聞こえてしまう中学1年生の男子。

「空気剃刀」
気持ちが昂ると、空気を操って相手を傷つけてしまう小学5年生の男子。

「虫あそび」
昆虫を呼び寄せる特殊体質の4歳の女の子。

「魔王の手」
極端な帯電体質の高校2年生の男子。

「聖なる子」
人を癒し治す力がある中学2年生の女子。

それぞれ、方向性は違いますが、いわゆる「超能力」の持ち主です。

しかし、その力のあまりの強さに、周囲に理解されず孤立しています。

また自分が持つ能力に戸惑っている主人公もいます。

大学の講師飛島は、超能力を持つ少年たちを取材し、雑誌の連載コラム「招かれざるゴーストハンター」を執筆しています。

超能力を持つ子どもたちはその記事を読み、他にも自分のような人がいることに救いを感じています。

そして飛島とライターの増山は、みんなを対面させることにします。

いわゆる合宿ですが、その時思わぬトラブルが発生し、異能を持つ子どもたちが大きな力を発揮することになります。

私には、各章の主人公それぞれの特殊能力がとても面白く感じられました。

それなのに、最終章だけが慌ててまとめられているように感じました。盛りだくさんすぎて、ついていけないというのが本音です。

特殊能力の持ち主だれか一人だけでも、十分に「主役を張れる」のです。一人ずつに絞って、小説が一本ずつ書けるんじゃないのかな、という感じ。

そんな超能力を持つ少年少女が最終章で集う様子は、まるで映画『アベンジャーズ』のようでした。

これは深く考えずに楽しむべき小説なのですね。

私個人の好みとしては、「あした絵」の少女や、「鬼の声」の少年の物語をもっと読んでいたい気がしました。

蛇足ですが『The SIX 』というタイトルは、超能力(第六感)を持つ「6人」ということなのかしら。
the SIX
ザ・シックス
井上 夢人(著)
集英社
どうして僕らには不思議な能力があるのだろう?あした起きる出来事が見えてしまう8歳の少女、他人の心の声が聞こえてくる中学生の少年、周りにありとあらゆる昆虫が集まってくる4歳の女児…。自らの存在に悩む、小さく弱い選ばれし者たち。でも、一つになればきっと強くなれるんだ。能力に苦しみ、孤独に怯える6人の子どもたちの目に映る希望の光とはー。力強くもあたたかい感動連作。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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