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ボダ子(赤松利市)

大変な小説を読んでしまった

ボダ子
赤松 利市(著)
赤松利市さんの『ボダ子』を読みました。失礼ながら私は赤松さんを全く存じ上げず、どんな作風の、どんな作家さんなのかわからないまま、タイトルに惹かれて読むことにしたのでした。

ボダ子ってなんなのか?

いくら個性的な名前が増えた現代とはいえ、ボダ子などという命名をする親がいるとは思えません。ボタ山を連想させる、キラキラネームの対極の名前ではありませんか。

よくわからないから、手に取ってみたくなる、そんなタイトルです。
主人公 大西浩平は、大学卒業後消費者金融の会社に就職し、猛烈に働いた。働きすぎで、妻に愛想を尽かされるほどに。その後脱サラし、バブルの波に乗ってかなり豊かな生活を享受した。

3度目の結婚相手との間に生まれた娘 恵子は、理性が吹き飛ぶほどの可愛らしさだった。浩平はこの子だけは何としても幸せにしたいと、ますます商売に精を出すのだった。

しかし、娘が中学生になってすぐに、順風満帆だったはずの浩平の人生に暗雲が垂れ込め始める。徐々に傾きかけていた事業を、なんとか回復させようとしていた矢先に東日本大震災が発生し、事業破綻してしまった。

一方娘は「境界性人格障害」と呼ばれる深刻な精神疾患だと判定された。しつけにはほとんど関わらなかった浩平は、娘の変化に気がつかなかった。手首を切ったりもしているらしい。浩平は東日本大震災被災地の「復興バブル」にかけることにした。

娘も、娘の母も一緒に仙台に移住した。ボランティア活動に生きがいを見出した娘は、被災者からの評判が良いらしい。浩平が話を進めている「防災タワー」の受注ができれば、大金が手に入り、全てうまくいくはずだったのだが……。
(赤松利市さん『ボダ子』の前半部分を私なりにまとめました。)
タイトル「ボダ子」は、浩平の娘 恵子のニックネームです。

被災地のボランティアでは、恵子が境界性人格障害を抱えていることも受け入れられていて、境界性人格障害=ボーダーを由来に、ボダ子というニックネームで呼ばれるようになったというわけ。

やれやれ、やっとボダ子の謎が解けました。

しかし、読んでいるうちに第二の謎が生まれます。

主人公は「ボダ子」ではないのでは?

後半になると、それは確信に変わります。

この小説はタイトルこそ「ボダ子」だけど、主人公は父親の浩平です。

娘が可愛いと言いながら、浩平は父親失格。娘とまともに向き合いません。

娘が壊れていることにも気がつかなけりゃ、娘を救い出すチャンスをむざむざ逃したことにも気がつかない。

娘の現実を認めざるを得なくなった時に思うことは
金だ、金。チキショウ!金だ! 億を超える絶対正義の金を握るしかない!
(赤松利市さん『ボダ子』 P191より引用)
というのだから、つける薬がない!

そしてちょいとお金が儲かると、自分の楽しみ(主に女)に 浪費してしまうんです。

ああ、父親失格以前に、夫失格だし、ある部分に関しては人間失格かもしれません。

そんな浩平なのに、なぜか嫌悪感を覚えないのは、浩平の妙に前向きな性格のおかげかも。

母親譲りの口癖は「何とかなる」。

確かに、もっとたやすく堕ちていきそうなのに、なかなかしぶといのです、浩平は。

「アカン男や!」と思いながらも、ついついページをめくる手が止まりませんでした。

もしかしたら女性の好みが一致することも面白く読めた理由の一つかもしれません。

浩平の好みは「薄幸そうな女」。

私も好きになる宝塚歌劇の娘役さんはどこか影のある人。

「おーい!そこの男役! この娘さんを幸せにしてやっておくれ!」と言いたくなるような娘役さんが好みです。

しかし、読み進めるうち浩平の行為がエスカレートしてきて、大変複雑な心境になりました。

私の好みもこんなヘンタイチックな側面を秘めているのだろうか、と。 (違うと思いたい。)

ところで、赤松利市さんがデビューしたのは去年のこと。

『藻屑蟹』で第一回大藪春彦新人賞を受賞なさったのですが、その時に小説家としての実力以上に注目を集めたのがご本人の経歴です。

「路上生活の経験あり、定職なし」ということで「住所不定、無職の新人」との肩書きがつきました。しかも年齢が61歳だったというのですから、かなりの遅咲きです。

まるで小説の主人公みたいな経歴だなぁと感心していたら、『ボダ子』は赤松さんの自伝的小説なんですって。

どうりで、あらゆる部分がリアリティに満ちていたわけです。

小説の後半にはなかなかハードな描写がありますが、私はなぜか嫌悪感を抱かずに読めました。それだけ、文章に勢いがあり面白いのです。

読後感は「大変な小説を読んでしまったナァ」。

赤松さんの他の作品も読んでみたいと思っています。
ボダ子
赤松 利市(著)
新潮社
バブルのあぶく銭を掴み、順風満帆に過ごしてきたはずだった。大西浩平の人生の歯車が狂い始めたのは、娘が中学校に入学して間もなくのこと。愛する我が子は境界性人格障害と診断された…。震災を機に、ビジネスは破綻。東北で土木作業員へと転じる。極寒の中での過酷な労働、同僚の苛烈ないじめ、迫り来る貧困ー。チキショウ、金だ!金だ!絶対正義の金を握るしかない!再起を賭し、ある事業の実現へ奔走する浩平。しかし、待ち受けていたのは逃れ難き運命の悪意だった。実体験に基づく、正真正銘の問題作。 出典:楽天
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