御社のデータが流出しています(一田和樹)
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![]() 82歳の敏腕セキュリティ・コンサルタント 御社のデータが流出しています
一田 和樹(著) 私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では週に一度、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。
今回ご紹介するのは、一田和樹さんの『御社のデータが流出しています』。 「”図書館だより”の次の紹介本はこれです」とタイトルをお聞きした時には、てっきりIT系の新書かと思ったのに、実際に手にとってびっくり。 なに、このファンシーな表紙は。 これは情報処理業界の問題点を指摘する書籍ではなく、小説だったのです。 まずは意表を突かれました。 「吹鳴寺藤子のセキュリティチェック」というサブタイトルの通り、主人公の名前は吹鳴寺藤子。職業はセキュリティ・コンサルタント。
コンピューターネットワークの拡充に伴い、増加するネット犯罪。個人情報の漏洩・盗難や電子マネー詐欺など、時代の先端の犯罪に警察は対応しきれないことが多い。 吹鳴寺藤子はそんな犯罪のからくりを解き明かすスペシャリストなのだ。 藤子の日常のこだわりは、こだわった豆を自分で挽いて飲むコーヒー。 おいしいコーヒーをいただきながら、パソコン操作。時にはちょっときわどい手を使ってでも謎に迫る…… クライアントに向かう時、犯人に迫る時も口調はあくまでも上品なセキュリティ・コンサルタント吹鳴寺藤子…… (『御社のデータが流出しています』のごく狭い範囲をご紹介しました) さて上の紹介文を読んで、どんな女性を思い浮かべましたか?
ドラマ化したら誰が演じそうですか? それぞれの藤子像が立ち上がったところで、藤子情報をもう一つ付け加えます。 吹鳴寺藤子の年齢はなんと82歳! びっくりしました。 おばあちゃま名探偵といえばアガサ・クリスティーの作品に登場するミス・マープルを連想しますが、ネット犯罪に立ち向かうということは情報処理の最先端にいるということ。ミス・マープルのコピーではないのです。 読者以上にびっくりするのは、小説世界のクライアントさんです。 セキュリティ・コンサルタントの第一人者と対面する場に現れるのが82歳のおばあちゃまなんですから。 ただでさえ、会社が巻き込まれた犯罪にピリピリしているのに、からかわれたと思ってムッとする企業人たち。 でも藤子さんはそんな反応には慣れっこ。上品なくちぶりで、いなしたり、時には軽く脅したり。なかなか愉快です。 私もかつてはシステムエンジニアでしたからね、おばあちゃまがどのようにネット犯罪を解き明かすのか、お手並み拝見……と、最初は上から目線でした。 ところが! 私がシステムエンジニア、プログラマだったのは、大学卒業後の約15年間だけ。日進月歩という言葉すら生ぬるいぐらい進歩著しい情報処理業界です。 仕組みにしろ用語にしろ、もうついて行けてないワ。 それをもっとも象徴するのが第四話「パスワードの身代金 COBOLレガシーシステムの罠」。 COBOLとはコンピュータプログラム言語の一つです。まさに私がコーディング(プログラム作成)に使用していた言語で「COBOL」と見た瞬間、「やっと私がわかる話だ!」と喜びましたよ。 私が就職した頃、コンピュータ言語は理系はFORTRAN(フォートラン)、事務系はCOBOL(コボル)、その中間がPL/I(ピーエルワン)、そして人工知能はC言語といった具合でした。 私は在庫管理や給与計算、入退室管理など事務系のプログラムをCOBOLで組んでいました。懐かしいなぁ。 ところが文章を読んでガーン。 COBOLは事務処理のために開発されたプログラミング言語である。遠い昔、事務処理にさかんに利用された。
現在、新規の開発で利用されることはほどんどなく、過去のシステムのメンテナンスが中心となっている。とはいえ、いまだに多くの企業で過去の遺産として活用されている。 (『御社のデータが流出しています』P269から引用) ”遠い昔” ”過去の遺産”といった言葉がグリグリと胸をえぐってきましたわ。
そうか、そりゃそうだわね。20〜30年も前のことですもんね。 私が組んだあのプログラムたちは、すでに新たなプログラミング言語に置き換えられてしまったかしら。 生き残っていたとしてもメンテナンスする人に「なんやこのロジックは!!もうちょっとスッキリした組み方できへんかったんかい!」とご迷惑をかけているかもねぇ。 しょぼーん。 いかんいかん。私個人の感傷はおいておきましょう。 現在ニュースでも聞くような犯罪について取り上げてあり、小説とはいえ「こんなことになっているのか!」と驚かされました。 また、途中で時系列の感覚が狂わされるしかけがあり、最後の最後に「ああ、そういうこと!」と思わせてもらいましたよ。 謎解きは痛快ですが、生活の端々で藤子さんが直面する”老い”については、自分の未来だなと思って胸が痛い部分もありました。 藤子さんのプライベートな面について謎な部分も多く、次は藤子さん自身のことをもっと知りたいと思いました。 ![]() ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』 |
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