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花になるらん 明治おんな繁盛記(玉岡かおる)

『品よし柄よし値打ちよし』

花になるらん
明治おんな繁盛記
玉岡 かおる(著)
大好きな玉岡かおるさんの最新刊(2017年9月30日出版)『花になるらん 明治おんな繁盛記』

いや、面白いのなんの。実在のあの百貨店がモデルであり、しかも関西が舞台とあって、すべての場面が目に浮かぶよう。あっという間に読み終わりました。

もったいぶって「実在のあの百貨店」と書いたのは髙島屋さん。江戸から明治へ、激動の時代の京都が舞台です。

主人公は”ががはん”こと、勢田雅。京都の呉服屋・高倉屋の創業者の跡取り娘です。小説は”ががはん”の古稀を祝う場面から始まります。

雅の息子である高倉屋四代目の勢田義市が、母のためにしつらえた別荘で開かれた古稀の祝い。多くの客を接待しながら、雅は回想に耽ります。

高倉屋は雅の両親が始めた頃は間口二間の小さな店でした。その前の代までは米屋だったのを、入り婿の父が呉服屋に商売替えし、こつこつ大きくして行ったのです。

それを引き継いだ雅と、婿の二代目義市がさまざまな取り組みをして大店にまで成長させました。

蛤御門の変、天皇の東京行きなど、江戸から明治への時代の波の中、生き残ってきた商売人や技術者たちの心意気や雅自身の女性としての人生の喜怒哀楽について。

特殊な時代とはいえ、人間の本質的な部分はかわらないはず。雅の回想は、今の私たちにも十分に実感を伴います。

しかもそれが、よく知っている百貨店高島屋に関する話となればいっそう興味が湧くというものです。

”ががはん”こと雅の半生とともに、高倉屋(高島屋)トリビアも面白く「へーへー」言いっぱなし。

”高島屋”の屋号の由来とか、なぜ「♪薔薇の包みの高島屋♪」なのか、とか、高島屋がなぜテレビ番組『皇室アルバム』を長く一社提供で支えてきたか、など読み終えればそうだったのかと納得がいくでしょう。

そしてストーリーの根底に流れる、「商売人の矜持」と「日本文化への誇り」が、今こそ日本人に必要なものと思えました。

もちろん主人公”ががはん”こと勢田雅が強気でいて可愛らしいこともこの小説の大きな魅力です。

この小説に冠する言葉、「品よし柄よし値打ちよし」は、この小説の中にありました。読んで絶対に損はありません。

最後に一つ。この小説の中で、私の涙のツボを壊した部分を紹介します。

それは、高倉屋の三男 仁三郎が他家に修行に出されるとき、彼の門出を祝福する趣向。

たった十三歳で修行に出る仁三郎が、車窓から見たであろう場面を思うと、思わず涙がこぼれました。

読む人によって心に響く場面は他にいっぱいあるでしょう。

再度言います。私が大好きな作家さんだということを差し引いて考えても、この小説はぜひ読んでいただきたい一冊です。
花になるらん
明治おんな繁盛記
玉岡 かおる(著)
新潮社
京都の呉服商・高倉屋の娘みやびは、智恵も回るし手も早い。ご寮人さんとなってからは、奥に控えて習い事に興じるよりも店に出たがる働き者で、美しいもの、新しいものが大好き。女だてらに世界を視野に、職人の技巧を駆使した織物を万博に出品しては入賞を果たし、日本が優れた芸術の国であることを世界に知らしめた。皇室御用達百貨店となった高倉屋の繁栄の礎を築いた女性の軌跡を描く大河小説。 出典:楽天

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon



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