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二十四時間(乃南アサ)

二十四時間
乃南アサ(著)
一日を構成する二十四時間、それぞれの時間帯で起こった二十四の短篇集。

主人公は「私」で、基本的に一話完結ですが、通して読むと「私」は同一人物で、自身の体験を語っていることが判ってきます。

東京郊外で育ち、私立中高一貫校を卒業後大学に進学するが中退。広告代理店勤務を経て作家になった…

つまり乃南アサの私小説と思われます。

誰にでもありそうな思い出を、時間に結び付けて語っていく手法が面白いと思いました。

中でも一番共感し、涙したのが「十五時」
「私」が作家になりかけの一番あわただしい頃に、実家の愛犬が老衰で死亡。死に目に会うことが出来ませんでした。

少し前から「私」の目にも老化が著しかった愛犬「くま」。「私」は実家に帰るたびに「今日がお別れかもしれないけど、またきっと、生まれかわってきて。そうしたら、今度は死ぬまで一緒に暮らせるようにしようね」「今度こそお別れかもしれない。どうか苦しまないで。大丈夫、きっとまた会えるからね」と話しかけていたのです。白内障で目が見えなくなり、耳も遠くなっていた「くま」に向かって。

それからしばらくしたある日、アパートに帰ってきて鍵を開けている「私」のもとに、一匹の子猫が駆け寄ってきてはっし!とジーンズに飛びつきしがみついてきました。「そっくす」と名づけたその猫が…
泣きました。

私も実家に「小太郎」という、愛想のいい誰にでも好かれる、だけど駄犬を置いてきていたのです。

その子は17歳で天寿を全うしましたが最後の半年ぐらいは、まったく「くま」と同じでしたから。

そして、生後半年で「自己免疫性血小板損傷」という白血病に似た病気で天に召された白い子猫のテン。

私もテンに何度も何度も話しかけたものです。

「必ず見つけ出すから、生まれかわってきてね。今度は健康に生まれて来るんだよ。また会おうね」と。

その後我が家にはモンプチと言う子猫がやってきましたが残念ながらテンの生まれかわりだとは思えません。

乃南アサ「十五時」を読んだら、もう一度生まれかわりを信じたいと思えました。

愛しかった犬や猫(もちろん人間も)と、もう一度どこかで会えるのだとしたら、それはどんなに嬉しいことでしょう。

あー、これを入力していても泣けてくる。

このあと出かけないといけないって言うのに、鼻水ずるずるだぁ。
二十四時間
乃南アサ(著)
新潮社(2007)
幼なじみの“よっちゃん”は、会う度に違った。私立の詰め襟中学生、暴走族の高校生、恋する浪人生。でもその内面はいつも温かで…(「二十四時」)。子供の頃、雪の積もった帰り道を歩いた。方向感覚を失って、“遠く”という“悲しく寂しい場所”に迷い込んでしまった(「十七時」)。人生のそれぞれの風景を鮮やかに切り取った、私小説の味わいを残す、切なく懐かしい二十四の記憶。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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