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認知症の私から見える社会(丹野智文)

自分のこととして読みたい

認知症の私から見える社会
丹野智文(著)
丹野智文さんの『認知症の私から見える社会』を読みました。表紙の著者近影を見て、こんなに若い人が認知症の当事者なのかと、まずは驚きました。

丹野さんは1974年生まれ。大学卒業後、営業の仕事をしていましたが、2013年に若年性アルツハイマー型認知症と診断されました。39歳で診断が下ったということになります。

それから8年。丹野さんは講演会で話すなど、認知症への社会的理解を広める活動をしてこられ、300名を超える認知症当事者と出会い、話を聞いてこられました。

丹野さんは、世の中の認知症に関する情報のほとんどは、認知症当事者の側に立ったものではなく、家族側の立場で、家族側に向けて発信されたものだとおっしゃっています。

確かにそうかも知れません。

親や配偶者が認知症と診断された場合、どのようにするべきかなど、家族に向けた情報は私もなんども見たことがあります。

丹野さんはおっしゃるのです。定期的な検査の際、医師でさえ認知症当事者の話を聞くよりも、家族の話を聞くと。

そして生活についても、昨日までは自由にしていたことを「危ないからダメ」「(お金を)なくすから、財布は持たないで」と、禁止されていくと。

実際には、診断が下った翌日から急に症状が進行するわけではないのに、周囲の人たちの意識が大きく変わってしまうのです。

そして、全て周りが決めようとし、当事者は置いてけぼりのような格好になり、ストレスを感じる……。

丹野さんの文章を読んでいて、私はふと、昔のがん患者さんと同じ状況かも知れないと思いました。

私の祖父母は癌で亡くなっています。どちらも本人への告知はありませんでした。周囲の者が、知らせないと決めたのです。当時(1980年代)、それは珍しいことではありませんでした。

だけど私は横で見ていて、私なら告知してほしいと思いました。

病名や状況を知り、どんな方針で、どんな治療を受けるのか、知らされずに周りに決められるなんて、絶対に嫌です。辛い治療であればあるほど、何のためにその治療を受けるのか、知って選択したい。

ずっと本当のことを知らされず、全て周りに決められ、いざ体が動かなくなってから「あれもしておきたかった」「これも片付けておきたかった」と思うなんて、耐えられません。

病名告知についてはいろいろなご意見があると思います。これはあくまでも私の意見です。

話がそれました。

丹野さんは、病気についてや生活全般について、当事者がどう思っているのか、当事者が望んでいるのは何か、そういったことも考慮した方が、当事者にとっても家族にとっても良い結果になるのではないかと提案しておられます。

そして、ご自分の体験や、300人以上の認知症の方から聞いた話のなかで、どうすれば本人や家族がよりよく生活していけるかを具体的に提案しておられるのです。

例えば、認知症当事者が同じものを何個も買ってしまう場合、「同じものばかり買って!」というのではなく、それを誰かにプレゼントしたり、寄付するという解決法を紹介しています。

また認知症当事者さんが、何かをどこかにおき忘れパニックになってしまう場合、(人によっては「盗られた!」と思ってしまう場合)あらかじめ同じものを何個も用意しておき、「ほら、あったよ」と渡すだけでも、落ち着きを取り戻せる、とのこと。

そもそも携帯電話や財布などはネックストラップなどで身に着けるようにして、置き忘れを防ぐことも大切。

そして最も驚いたのは、認知症の当事者さんこそITをうまく活用すべきだとおっしゃっていることでした。

スマートフォンだと、字を思い出せなくても音声入力ができるため、喋り言葉でメールを書くことも容易だし、地図アプリを使うと、目的地まで連れて行ってもらえます。

認知症当事者の人には新しいことは覚えられない、と先入観を持たずに、試してみてほしい、と。私も、その先入観を持つ一人だったなと思いましたよ。

認知症になって「できなくなること」にスポットを当てたり、家族がどれほど大変かといったネガティブな情報だけではなく、どうすればより良く生活できるのか、ポジティブな情報をみんなでもっと共有したいと丹野さんはおっしゃっています。

こういうことを本にしたり、講演会をすると「本当は認知症じゃないのでしょ?」「認知症らしくない」と言われることが多いのだとか。

丹野さんは診断を受けて8年。他の人が見ると何も問題がないように見えても、症状の進行を感じるそうです。だけど、進行してもより良く生きたいと願い、工夫をしておられます。
私が認知症になって感じていることは、認知症になったからといって、今日と明日は何も変わらないということです。

一週間後、1ヶ月後も変わらないと思っています。一年後、もしかすると症状が進行するかもしれません。

当事者が「希望」を持って暮らせるようになるためには、進行する一年後に「備える」ために、多くの仲間と話をして、

「工夫をすることで、これまでの暮らしを継続していくことができる」ということをみんなと共有しておくことが必要です。

(中略)当事者にとって希望を持つということは、いつできるかわからない認知症の特効薬を待っていることではなく、認知症を受け入れて、未来を再構築していくことではないでしょうか。

未来への希望は、身近な希望を周囲の人に伝え、一日一日をお互いに笑顔で楽しく過ごすことであり、認知症を受け入れ「認知症とともに生きる」ことだと考えます。
(丹野智文さん『認知症の私から見える社会』P151〜152より引用)
私はこれまで認知症について、家族を介護する側でしか考えたことがありませんでした。この本は、自分が当事者となった場合と家族が当事者となった場合の両方で参考になると思います。
認知症の私から見える社会
丹野智文(著)
講談社
認知症と診断されて8年、全国の仲間の話を聞いて書いた、認知症当事者のリアルな声。 出典:楽天
profile
池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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