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マザーランドの月(サリー・ガードナー)



 
マザーランドの月
サリー ガードナー(著), 三辺 律子 (翻訳)
出版社:小学館(2015)【内容情報】(「BOOK」データベースより)もしなにかがちがったら、とおれは考える。もし、もしサッカーボールが塀の向こうへいってなかったら。もしヘクターがそれを探しにいかなければ。もし、もし、もし、もし彼が恐ろしい秘密をだれかにうちあけていれば。もし…スタンディッシュとヘクターの悲痛なまでも美しい物語。2013年カーネギー賞受賞/コスタ賞/マイケルL.プリンツ賞受賞/イタリア・アンデルセン賞受賞/フランス文学賞受賞。パブリッシャーズ・ウィークリーのベストブック、ウォール・ストリート・ジャーナルのベストブック、全米図書YA部門ベストフィクション。(出典:amazon
最近、物忘れが激しくていけません。
用事を済ませようと自宅の2階に上がって、
ハタと戸惑う。
「えーっと。私は何をしに2階にあがったのだったかな?」と。

本屋さんで「おっ、この本おもしろそう」と、
タイトルに惹かれ手にとってペラペラめくり、
やはりおもしろそうなので買って帰った本。
途中まで読んで「あれ?私この本を以前に読んだことがある」と
気がついた時、胸がざわつくことったらありません。
「大丈夫か?私」と。

オッドアイの少年が印象的な表紙の本。
サリー・ガードナーの『マザーランドの月』は
また違った意味で胸騒ぎのする本でした。

この本は「おれ」という一人称で綴られています。
主人公「おれ」は左右の目の色が違う、
スタンディッシュという名の少年です。
表紙の少年がスタンディッシュなのです。

***
スタンディッシュが住む世界は、
あらゆるところに監視の目がある管理社会。
体制に従わなければ、消されてしまうのだ。
学校もその範囲外ではない。
羊のように管理者の意に沿うように行動する生徒が模範生であり、
自分の頭で物を考えたり行動する生徒は必要とされていない。

スタインデッシュは、まず容貌からして規範にそっていない。
左右の目の色が違うなんて。
しかも「難読症」で、文字が読めない。
識字能力はあるのかもしれないが、
意味を捕まえることができないのだ。
そんなスタインディッシュはバカのレッテルを貼られ、
常にいじめの標的になっていた。
親友が現れるまでは。

二人でこんな世界を飛び出したい、
いやきっと飛び出せるはずだ…夢を語り合う二人の少年。
しかし偶然から、二人はとんでもない秘密を知ることになる。
そしてスタインデッシュは…。
***

私はこの本をどうしても今日までに読まねばならず、
ハワイに持って行っていました。
そして「とんでもない秘密」がわかってきたあたりから、
読むのをやめることができなくなり、
せっかく水着を着てプールサイドまで行ったのに、
そのままチェアでずーっと読みふけってしまったのでした。

面白い。
怖い。
愛おしい。
悲しい。
さまざまな感情が呼び起こされ、胸が苦しくなりました。
こんな小説があったとは。

でも、途中からふと不安になってきました。
「私、この話を知っている」
あの残酷な場面も、このつらいシーンも、
一度見たことがある。
もしかしたら、以前に一度読んだのだろうか?
でも本の奥付を見ると、今年(2015年)5月に発行されたばかり。
おかしいなぁ、なぜ知っていると思うんだろう、 物理的に、読んだはずがないのに。
不思議だ。

ところで、著者サリー・ガードナーは自身が難読症だったそうです。
そのためでしょう、子供の頃は「指導不可能児」とされていたとか。
スタインデッシュは、著者自身の投影かもしれません。

私は昔、とある専門学校の講師をしていた時期があり、
教え子の一人が、難読症でした。
でもそれを知ったのは、ずいぶんたってからのこと。
彼が就職した会社を退職し、起業したあと本人から聞きました。
難読症にもいろいろあるようで、彼は数字が読めなかったんです。

たとえば125という数字が152に見えたり、521に見えたり…。
だからいくら真面目に取り組んでも、
簡単な足し算や引き算もほとんど正解できません。
それが難読症という病気だと、自分も周囲もわからず、
「この子はバカだ」と思われていたそうです。

しかし本当はバカどころか、とても賢くて、
私が教えていた科目ではいつもほぼ満点でした。
そして、いわゆる「普通の」人とは違う発想ができる人だった。
だからこそ、現在自分の会社をしっかりと運営しているのです。

この小説の主人公スタインデッシュも同じで、
バカなんかではありません。
最後には「勇気あるヒーロー」になります。
(「タイムズ」誌の評価から言葉をお借りしました)

難読症の主人公の語りだからか、
この小説は時系列に書かれておらず、
短い文章が時間を行きつ戻りつしながら綴られるていきます。

全体像を捕まえるまで、多少の時間がかかりますが、
わかったあとは、緊迫の展開に呼吸をするのを忘れそうになるでしょう。
後半はぜひ、落ち着いて読んでくださいね。

それにしても、読み終わった今も、
「私は前からこの話を知っていた」と思うのはなぜでしょう。

やっぱり不思議だ。

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BLOG ⇒PROページ

著書:パーソナリティ千波留の読書ダイアリー
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。
だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。

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