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母親からの小包はなぜこんなにダサいのか(原田ひ香)

共感できる小説

母親からの小包はなぜこんなにダサいのか
原田ひ香(著)
原田ひ香さんの『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか』は6つの短編で構成されています。

それぞれのタイトルをご紹介しましょう。
第一話 上京物語
第二話 ママはキャリアウーマン
第三話 疑似家族
第四話 お母さんの小包、お作りします
第五話 北の国から
第六話 最後の小包
(原田ひ香さん『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか』目次より引用)
一部に繋がりがあるものの、基本的には一話完結の短編集と考えて良いと思います。

共通しているのは親子、おもに母親と娘の物語であることとと、小包が登場すること。

世の中にはいろいろな親子がいるものですが、母親からの小包はなぜかことごとくダサい。

私自身は母と比較的近くに住んでいたため、これまで母からの小包を受け取ることはありませんでしたが、もし小包が送られてきたとしたら絶対ダサいであろうと想像がつきます。

ではなぜ世のお母さんがたが作る小包がどうしてダサくなるか?

子どもを思う心と、荷物の隙間を無駄にしたくない気持ちが原因ではないかと思います。

野菜にお米、地元のお菓子、タオルや下着などなど、たくさんのものを詰め込むのですから、おしゃれからは程遠い小包になるのは仕方がないことでしょう。

6組の親子の物語の中から「第一話 上京物語」をご紹介しましょう。
吉川美羽はこの春、岩手県盛岡市から東京の女子短大に進学した。

先に上京していた兄の家に同居させてもらいながら住居を探し、ようやく憧れの高円寺にロフト付きの洋室を借りることができた。

美羽の東京進学を最後まで反対していた母親からは、しょっちゅう電話がかかってくる。

母は盛岡至上主義者で、美羽には大学を卒業したらすぐに帰ってきて欲しいと願っている。盛岡で結婚するのが一番なのだと。

美羽は母親に束縛されているように感じる。短大を卒業しても、盛岡には帰らず東京にいたいのだ。
(原田ひ香さん『母親の小包はなぜこんなにダサいのか』「第一話 上京物語」の出だしを私なりに紹介しました)
私は盛岡市には行ったことがありません。

ただ、ユーミンこと松任谷由実さんの曲「緑の町に舞い降りて」の中に、モリオカという言葉の響きがロシア語みたいだったという趣旨の歌詞があり、ずっと特別な思いのする場所ではありました。

主人公 美羽の母は、自分が生まれ育った盛岡が一番だと常々美羽に言い聞かせています。

自分のように、ずっと盛岡にいて盛岡の「いい人」と出会って結婚するのが一番なのだと。

では「いい人」とはどんな人かというと、それは「パパみたいな人」。

パパとは、美羽にとってのパパであり、美羽の母にとっては夫のことです。

美羽のパパは地元の国立大学を卒業したあと、地元で最も古い信用金庫に就職しました。

バブル崩壊など、いろいろな危機を乗り越えて、パパの勤める信用金庫は今でも地元で最も固いお仕事と思われているのです。

美羽の母は、そういう盤石な生活を娘にも選んで欲しいわけですね。

ここまでの話だと、美羽の母のことを古い考えの女性のように感じると思います。

女性の幸せは夫しだい、とでも言うのかと、娘の美羽でなくても反発心が湧き起こってくるのではないでしょうか。

少なくとも私は、嫌なお母さんだなぁ、と思いましたよ。

しかも、この母親は美羽の兄が東京に進学することは比較的簡単に許可したのに、美羽が東京の大学に進むことには全力で反対しました。

男尊女卑的な考え方もありそうではありませんか。

そんな母親の干渉にうんざり気味の美羽でしたが、慣れない東京で過ごすうちに、母親に対する気持ちが徐々に変わっていくのです。

古い考え方しかできない母親だと思っていたけれど、母にも別の一面があったことを知ります。

そんな美羽の母から届く小包はもちろんダサいです。

ですが、そのダサさがとても愛おしい。

登場人物の気持ちに自然と寄り添って読めるのが原田ひ香さんの小説の魅力なのかもしれません。

六つの短編の中には、やや深刻な問題を抱えた親子の話もあるのですが、重くなり過ぎることはなく、読者の心理的負担が少ないのもありがたい。

『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか』に描かれているのは六組の親子。

たった6つではあっても、世の中にはいろいろな親子がいるものだなと思いました。

もちろん世の中にはもっと無数の親子関係が存在していて、すべて異なっていると思います。

でも「母親からの小包はダサい」というのはほぼ全てに共通しているものかも。

残念ながら私は子供に恵まれなかったため、子どもの立場でしか読むことができません。

親の立場、子の立場、両方で読むことができたら、もっと深く楽しめる作品だと思いました。
 
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母親からの小包はなぜこんなにダサいのか
原田ひ香(著)
中央公論新社
野菜、お米、緩衝材代わりの肌着や靴下、ご当地のお菓子など。昭和、平成、令和ー時代は変わっても、実家から送られてくる小包の中身は変わらない!?業者から買った野菜を「実家から」と偽る女性、父が毎年受け取っていた小包の謎、そして母から届いた最後の荷物。家族から届く様々な“想い”を、是非、開封してください。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
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ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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