マザーランドの月(サリー・ガードナー)
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![]() マザーランドの月
サリー ガードナー(著), 三辺 律子 (翻訳) 最近、物忘れが激しくていけません。
用事を済ませようと自宅の2階に上がって、ハタと戸惑う。 「えーっと。私は何をしに2階にあがったのだったかな?」と。 本屋さんで「おっ、この本おもしろそう」と、タイトルに惹かれ手にとってペラペラめくり、やはりおもしろそうなので買って帰った本。 途中まで読んで「あれ?私この本を以前に読んだことがある」と気がついた時、胸がざわつくことったらありません。 「大丈夫か?私」と。 オッドアイの少年が印象的な表紙の本。 サリー・ガードナーの『マザーランドの月』はまた違った意味で胸騒ぎのする本でした。 この本は「おれ」という一人称で綴られています。 主人公「おれ」は左右の目の色が違う、スタンディッシュという名の少年です。 表紙の少年がスタンディッシュなのです。 スタンディッシュが住む世界は、あらゆるところに監視の目がある管理社会。体制に従わなければ、消されてしまうのだ。学校もその範囲外ではない。羊のように管理者の意に沿うように行動する生徒が模範生であり、自分の頭で物を考えたり行動する生徒は必要とされていない。
スタインデッシュは、まず容貌からして規範にそっていない。左右の目の色が違うなんて。しかも「難読症」で、文字が読めない。識字能力はあるのかもしれないが、意味を捕まえることができないのだ。そんなスタインディッシュはバカのレッテルを貼られ、常にいじめの標的になっていた。親友が現れるまでは。 二人でこんな世界を飛び出したい、いやきっと飛び出せるはずだ…夢を語り合う二人の少年。しかし偶然から、二人はとんでもない秘密を知ることになる。そしてスタインデッシュは…。 私はこの本をどうしても今日までに読まねばならず、ハワイに持って行っていました。
そして「とんでもない秘密」がわかってきたあたりから、読むのをやめることができなくなり、せっかく水着を着てプールサイドまで行ったのに、そのままチェアでずーっと読みふけってしまったのでした。 面白い。 怖い。 愛おしい。 悲しい。 さまざまな感情が呼び起こされ、胸が苦しくなりました。 こんな小説があったとは。 でも、途中からふと不安になってきました。 「私、この話を知っている」 あの残酷な場面も、このつらいシーンも、一度見たことがある。 もしかしたら、以前に一度読んだのだろうか? でも本の奥付を見ると、今年(2015年)5月に発行されたばかり。 おかしいなぁ、なぜ知っていると思うんだろう、 物理的に、読んだはずがないのに。 不思議だ。 ところで、著者サリー・ガードナーは自身が難読症だったそうです。 そのためでしょう、子供の頃は「指導不可能児」とされていたとか。 スタインデッシュは、著者自身の投影かもしれません。 私は昔、とある専門学校の講師をしていた時期があり、教え子の一人が、難読症でした。 でもそれを知ったのは、ずいぶんたってからのこと。 彼が就職した会社を退職し、起業したあと本人から聞きました。 難読症にもいろいろあるようで、彼は数字が読めなかったんです。 たとえば125という数字が152に見えたり、521に見えたり…。 だからいくら真面目に取り組んでも、簡単な足し算や引き算もほとんど正解できません。 それが難読症という病気だと、自分も周囲もわからず、「この子はバカだ」と思われていたそうです。 しかし本当はバカどころか、とても賢くて、私が教えていた科目ではいつもほぼ満点でした。 そして、いわゆる「普通の」人とは違う発想ができる人だった。 だからこそ、現在自分の会社をしっかりと運営しているのです。 この小説の主人公スタインデッシュも同じで、バカなんかではありません。 最後には「勇気あるヒーロー」になります。(「タイムズ」誌の評価から言葉をお借りしました) 難読症の主人公の語りだからか、この小説は時系列に書かれておらず、短い文章が時間を行きつ戻りつしながら綴られるていきます。 全体像を捕まえるまで、多少の時間がかかりますが、わかったあとは、緊迫の展開に呼吸をするのを忘れそうになるでしょう。 後半はぜひ、落ち着いて読んでくださいね。 それにしても、読み終わった今も、「私は前からこの話を知っていた」と思うのはなぜでしょう。 やっぱり不思議だ。 マザーランドの月
サリー ガードナー(著), 三辺 律子 (翻訳) 小学館(2015) もしなにかがちがったら、とおれは考える。もし、もしサッカーボールが塀の向こうへいってなかったら。もしヘクターがそれを探しにいかなければ。もし、もし、もし、もし彼が恐ろしい秘密をだれかにうちあけていれば。もし…スタンディッシュとヘクターの悲痛なまでも美しい物語。2013年カーネギー賞受賞/コスタ賞/マイケルL.プリンツ賞受賞/イタリア・アンデルセン賞受賞/フランス文学賞受賞。パブリッシャーズ・ウィークリーのベストブック、ウォール・ストリート・ジャーナルのベストブック、全米図書YA部門ベストフィクション。 出典:amazon ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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