この小説の主人公はマリア。
戦うために生まれてきた女性。
その速さから「疾風のマリア」と呼ばれることも…。
さて、あなたはどんなマリア像を思い浮かべましたか?
おもしろいことに、このマリアさんは「オオスズメバチ」です。
それだけでもかなり不思議な設定ですが、
冒頭狩りを終えて戻ってきたマリアに
「おかえりマリア」とお姉さん蜂が話しかけたので、
思わず「みつばちハッチ」を思い出してほほえんでしまいました。
しかし、読み進むにつれて、だんだんと真摯な気持ちに。
女王蜂に仕え、巣(彼女たちは帝国と呼んでいる)の繁栄のためにひたすら闘うマリア。
さまざまな昆虫を狩るときの駆け引き、死にゆく者と勝利者の会話、
戦闘シーンのすさまじくも生き生きした様子には、思わず魅せられてしまいます。
昆虫の世界は弱肉強食で、残酷だとか可哀想などという
甘っちょろい似非ヒューマニズムは通用しません。
そして生き残るために、それぞれの昆虫が獲得してきた
本能や身体的特徴や能力の素晴らしいこと。
そして、マリアの目を通して見る自然、季節の移ろいの美しいこと。
また、昆虫の、特にオオスズメバチについての詳細な描写・解説は
非常に面白かったです。
読みながら何度も「へぇ~」と心の中の"へぇへぇボタン"を連打。
小説を読みながら、昆虫博士になれそうな薀蓄たっぷり。
私は理科が苦手だったので、途中、オオスズメバチのゲノムの話になると、
ちゃんと理解できませんでしたが。
闘い続けるマリアの中に ふときざす、
「私たちは何のために生まれてきたの?」は
この世に生を受ける全てのものに共通の疑問で
思わず自分自身にも問いかけてしまいます。
そしてたった30日ほどの命を燃やしつくし、
自分の「役目」を果たして死んでいくマリアの姿に
なんと最後に涙してしまったのには自分で自分にびっくり。
まさか自分の人生で、
オオスズメバチのワーカー(働き蜂)を思って泣くことがあろうとは。
マリアの誇り高さ、生き様と死に様には
「たかが蜂」と言わせない何かがあります。
昆虫の一生をこれほど輝かしく書きこんだ、
百田尚樹という作家の力には魅了されました。
お勧め度★★★★★。満点です。
しかし、オオスズメバチの勇敢さ獰猛さを改めて知り、
成虫が肉食でなくって本当に良かったと胸をなでおろしました。
(幼虫は肉食です) |
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター
コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
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著書:パーソナリティ千波留の読書ダイアリー
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