私は誰になっていくの?(クリスティーン・ボーデン)
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![]() 私は誰になっていくの?
―アルツハイマー病者からみた世界 クリスティーン ボーデン (著) 檜垣 陽子 (翻訳) 若い頃の心配事といえば、テストどうしよう、とか、友だちにあんなこと言ってしまった、とか、今思えばささいなことばかり。
私はとても神経質な子どもで、取り越し苦労ばかりしていました。 それが人生経験を積むに従い、面の皮が厚くなったのでしょうか、「まぁ、なるようになるさ」と思えるようになりました。 ところが、こと、健康に関してだけは、今までよりも心配性になっている気がします。 悩んでも仕方がないことなのだけど、ついつい、考えてしまう。 その健康上の悩みの一つが認知症になったら、というもの。 認知症に関する記述の中でよく見られるのが「壊れていく」という言葉。 私は何を恐れているかというと、壊れること自体ではなく、壊れたあとでむき出しになる本当の自分が怖いんです。 人間は、個人差はあるでしょうが、いろいろなことを学習し、自らありたいと思う姿に近づくよう努力するものだと思います。 私も、こうありたい、こんな人になりたいと、あがいている毎日です。 つまり今の私は、多分に、「頑張って装っている私」だと思うのです。 もし、努力して身につけたものが全部剥がれていって、芯の部分に残っているのが、とんでもなく嫌な奴だったりしたら… それを周囲の人に知られるのを私は恐れているのだなと、自己分析しております。 そんな時に出会ったのが、クリスティーン・ボーデンさんの著書『私は誰になっていくの?アルツハイマー病者からみた世界』でした。 クリスティーンさんはオーストラリア人。1995年、46歳でアルツハイマー初期と診断された。
オーストラリア政府の首相・内閣省 第一次官補としてバリバリ働き、家庭では3人の娘を育て、多忙を極めていた彼女。職を辞することを医師に勧められる。 *** この本は、クリスティーンさんが、認知症のかたが希望を持って生きられるよう励ますため、また患者さんの周囲の人たちにも、前向きな生活が送れるようにと執筆されたもの。
ご自身の経験、つまり認知症の兆候や、その時の気持ちなどを、非常にわかりやすく、そして淡々とお書きになっています。 まえがきにあたる「日本の読者のみなさまへ」のなかに、この本が翻訳され、認知症と共にに歩んだクリスティーンさんの旅を知ることで、心に何かを感じとってくださるならば光栄です、とのことが書かれていました。 もちろん私はさまざまなことを感じました。 一番ズシンときたのは下記のシーン。 クリスティーンさんはかつて、いろいろな業務案件を、ジグソーパズルを手際よく解いていくように、時間を割り振り要領よくさばいていたとのこと。 そして、要領の悪い、モタモタした人のことを見下していたというのです。 ところが、ご自身がアルツハイマーと診断されたのち、一度には一つのことだけに専念しないと、すべてうまくいかなくなり、取り乱すようになります。 その時になって、かつての自分が抱いていた気持ち、他者への許容のなさを思ったのでした。 私にもそういう点があるので、ぎくっとしました。 苦しみを知る人ほど、他者に優しくできるとは、聞き飽きたフレーズですが、本当にそうなんだなぁ。 でも、人間には想像力があり、体験していないことでも思いやることができるはず。 これからはもっと許容範囲の広い人になりたい、と「頑張って装っている自分」に、もう一つ装いを加えようと思うのでした。(恥ずかしいことだけど、本当に自分に甘く他人に厳しい人間なんです、私は) もう一つ印象的だったのは、クリスティーンさんを救ったのが「神」であったこと。 「神が担ってくださる」と考えることが、大きな安らぎをもたらしています。 ふーむ。 私のように無信心の人間はどうなるのだろう… 神社仏閣巡りが好きだけれど、私が信じているのはその奥の奥にある「宇宙」的なものなのです。 宇宙のことを考えると、何もかもが小さく、人知の及ぶ範囲など知れているといつも思います。 いわば「宇宙教」というものが私の中にあるのです。 それが究極の時に私にどんな影響を与えるんだろう。 この本をご紹介するにあたって、私の認識不足や思いやりのない文章表現によって現在アルツハイマー、認知症と診断されている方やご家族が患者さんで現在介護されている方を傷つけてしまっていたら、大変申し訳ありません。 どうぞお許しください。 ですが、高齢化社会で、アルツハイマーや認知症が全く他人事と思えない今、ぜひ読んでいただきたいと思いご紹介しました。 クリスティーンさんには他にもご著書があります。 再婚されてクリスティーン・ブライデンにお名前が変わってからのご著書もありますよ。 私は誰になっていくの?
―アルツハイマー病者からみた世界 クリスティーン ボーデン (著) 檜垣 陽子 (翻訳) クリエイツかもがわ (2003) 世界でも数少ない痴呆症の人が書いた本―新鮮な驚きと貴重な発見!痴呆になればどのような経験をするのか、望ましい支援とは何か、本人の立場からしか書けない貴重な指摘。痴呆の人から見た世界が手に取るように分かる。 出典:(出典:amazon) ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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