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歩道橋の魔術師(呉明益)

歩道橋の魔術師
呉明益(著)
出版社:白水社(2015)【内容情報】1979年、台北。物売りが立つ歩道橋には、子供たちに不思議なマジックを披露する「魔術師」がいた――。今はなき「中華商場」と人々のささやかなエピソードを紡ぐ、ノスタルジックな連作短篇集。(出典:amazon
私は子供の頃から本が好きでした。

でも、白水社という出版社を知ったのは大学に入った年。
フランス語の教材が白水社出版で「へぇ、こんな出版社があったんだ」と
思ったことを覚えています。

白水社は哲学や歴史、語学など専門書を中心とした出版社です。
その白水社が「独創的な世界の文学を厳選して贈るシリーズ」と位置付けている
エクス・リブリス。
呉明益『歩道橋の魔術師』はエクス・リブリスのうちの一冊です。

***
舞台は1980年代初頭の台湾・台北に実在していた商業施設「中華商場」。
それぞれ「忠」「孝」「仁」「愛」「信」「義」「和」「平」と名付けられた
8棟のビルは歩道橋で繋がっていた。
商場ビル内で商いをしている人たちや、さまざまな物売りが、
その歩道橋に露店を出していた。
アイスクリーム、金魚や亀、焼餅などなど。
その中にいた一人の魔術師は、商場の子どもたち一人一人に
忘れがたい印象を残していた。
靴屋の息子、鍵屋の息子、仕立屋の息子、眼鏡屋の娘…
それぞれが商場で成長するうち、何かを失った。
そしてその思い出の中に、佇む魔術師。
***

10の短編からなる『歩道橋の魔術師』。
一見、ある人物が主人公のように見えますが、
商場の子どもたちの回想や、現在の姿から、
だんだん浮き上がってくるのは誰か一人の姿ではなく
1980年代の中華商場全体の雰囲気です。
魔術師はその象徴なのかもしれません。

台湾の話なのに、どこか昭和の日本にイメージが重なり、
昭和世代の人間には、懐かしさすら感じるのではないかと思います。

私はずっと、大阪・梅田の、阪急百貨店、阪神百貨店、JR大阪駅を結ぶ
大きな歩道橋を思い浮かべながら読んでいました。
今でこそ、すっきりとしていますが、
昭和40年代、あの歩道橋にはシートやゴザを敷いた露天商がいました。
それに混じって、傷病軍人のかたも。
脚や腕に包帯を巻き、色あせた軍服姿で座り込むその人たちに、
母親からいくばくかのお金を託されて持って行った時の、
なんとも言えない怖れと胸の痛み。

中華商場の歩道橋の描写から、
これまで忘れていた感情が蘇りました。

また、子どもが成長し大人になる過程は、
人種や国に関わらず同じなのかも知れません。
自分の子ども時代を思い出して、甘酸っぱい思いがするのも、
懐かしさの原因かも。
しかも同じアジア、日本統治下の台湾が舞台なのですから、
ノスタルジックなのもうなづけます。

著者 呉名益さんはもしかしたら村上春樹ファンなのでしょうか。
文章のあちこちに村上春樹的なものを感じました。

白水社の「エクス・リブリス」に選ばれたのもわかる気がする
『歩道橋の魔術師』。
昭和世代の人が読んだらきっと、
その人にとっての「歩道橋」が見えてくることでしょう。

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BLOG ⇒PROページ

著書:パーソナリティ千波留の読書ダイアリー
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。
だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。

「千波留の本棚」50冊を機に出版された千波留さんの本。
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