探偵を捜せ!(パット・マガー)
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![]() 探偵を捜せ!
パット・マガー(著)井上 一夫 (翻訳) 『刑事コロンボ』というドラマをご存知ですか?
ヨレヨレのコートを着た どうしようもないダメ刑事(に見える男)が何かというと「うちのカミさんがね」と言いながら巧みに犯人を追い詰めていくアレです。 今となっては随分昔のドラマです。 お若い方は知らないかもしれません。 でも、リアルタイムでご覧になった方ならほとんどブームと言えるほどヒットした理由がお分かりになるはず。 冒頭に殺人がおこり、犯人もはっきりわかってしまうなんてそれまでの犯罪ドラマでは考えられないことでした。 『刑事コロンボ』の面白さは謎解きや犯人当てにあるのではなくコロンボがジリジリと真相に迫っていく様子やたかをくくっていた犯人が徐々に焦って自らボロを出してしまう瞬間などにありました。 パット・マガーの『探偵を捜せ!』を読んだ時初めて『刑事コロンボ』を見たときと同じような衝撃を受けました。 「こんな手法があったのか!」と。 金持ちのフィリップは病弱なため都会から田舎に引っ越し、小さなホテルを営みながら療養生活を送っている。美貌の妻マーゴットは元女優でかいがいしく夫の看病にいそしみ…というのは世間を欺く表の顔。本当のところは田舎暮らしに飽き飽き。チャンスを見計らって、夫を殺し財産と自由を手に入れようとしていたのだった。
そしてある夜、そのチャンスはやってきた。病死に見せかけ、夫を殺すマーゴット。ところが、夫は死ぬ前に、気になることを言い残した。妻に殺されることを予見して、探偵を頼んであるのだと。 そして、その夜ホテルに4人の客がやってきた。この中の誰が夫の雇った探偵なのか?あれこれ探りを入れたうえ、「きっとこの人が探偵だ」と思われる相手を殺すマーゴット。とにかく自分の身が危うくなる前に、相手を倒さねばならないのだから。もちろん、今度もぬかりなく、不幸な事故に見せかけることは忘れずに。 しかし、恐ろしいことに、殺した後でマーゴットはその人物が「探偵」ではなかったことに気がつくのだ。では誰が?残りは3人。次は誰を… 犯人が探偵を探すなんて、ミステリの常識を覆すではないですか。
読者にも、誰が探偵なのかわからないように書かれているので私は「多分、この人が探偵なのに。マーゴットはおバカさんだなぁ」と思いながら読み進めましたが、見事にハズレ。 ハズレてなんだか嬉しいのがミステリです。 むむむ、作者よなかなかやるな、と。 もう一つ「おぬし、やるな」と思ったことがあります。 殺人が出てくる小説なのに、途中まではちょっとユーモラスなのです。 ところが誰が探偵かわかってからの展開、結末がとても にがいの。 これまで読んだことがないタイプの終わり方でした。 うーん。滑稽と見せかけて悲惨。 殺人は嘘と同じで、一つ嘘をつくと、それを隠すためにまた嘘をつき、それがどんどん膨らんでいく…。 策士策に溺れる、で人間、ストレートに生きた方が幸せですね。 何が人生を狂わせたのか。 フィリップと出会う前、マーゴットはどんなふうに生きていたのかもっと知りたくなりました。 悲しい女性です。 この小説は、一味違うミステリを読みたい方にお勧めします。 余談ですが『探偵を捜せ!』の原題は『Catch Me If You Can』。 「捕まえるもんなら捕まえてみろ」「鬼さんこちら」の意味だそう。 しゃれてますね。 スティーブン・スピルバーグ監督、レオナルド・デカプリオ主演の映画で今年(2015年)6月に宝塚歌劇団 星組 紅ゆずる主演で舞台化される『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』とは全く別のお話です。 探偵を捜せ!
パット・マガー(著)井上 一夫 (翻訳) 東京創元社(1961) 病弱な夫を殺して、金と自由を手に入れようとした美貌の若妻。夫を殺した夜、その山荘を訪れた四人の客のなかには、夫が死ぬ前に呼んだ探偵がいる。妻は必死の推理と、すぐれた演技の芝居をして自分の罪をかくし、探偵を捜し出そうとするが……。探偵が犯人を捜すという定石を破って、犯人が探偵を捜すという“異色”の本格推理小説! 出典:(出典:amazon) ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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