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嗤う淑女(中山七里)

女神の顔をした悪魔

嗤う淑女
中山 七里(著)
続きが気になりすぎて、読み出したら止まらない、中山七里さんの『嗤う淑女』を読み終えました。

『嗤う淑女』は5つの章から成り立っています。
一 野々宮恭子
二 鷺沼紗代
三 野々宮弘樹
四 古巻佳恵
五 蒲生美智留
(中山七里 『嗤う淑女』 目次より引用)
「一 野々宮恭子」をご紹介しましょう。
野々宮恭子は中学1年生。平凡な顔立ち。いや、もしかしたらブサイクの部類に入るかもしれない。スタイルだけでもいいと良いのだが、太っているのだ。寸胴だし、足も太い。その上病弱で病欠気味だ。

どうやら恭子はクラスのリーダー的女子をイライラさせるようで、2学期に入った頃からいじめられるようになった。最初は、話しかけても無視されるくらいだった。次に、悪口を言われるようになった。

いじめはどんどんエスカレートしていき、この頃ではトイレに入っていると上から水をかけられたり、お気に入りのマフラーを便器の中に突っ込まれたりするようになってきた。

学校に行くのが嫌だ。これではいじめられるために行っているようなものではないか。だが、恭子は平気を装って今日も登校する。こんな屈辱的なことを家族に知られたくないからだ。

そんなある日、恭子のクラスに、皆が思わず息を呑むほどの美少女転校生がやってきた。

転校生 蒲生美智留は恭子のいとこだった。幼い頃仲良くしていたが、しばらく疎遠になっている間に美智留は恐ろしいほどの美貌に成長していた。

もし、美智留と自分がいとこだとわかったら、あまりの違いに、なおさら自分がいじめられることになるのではないかと、恭子は不安でたまらない。

しかし、恭子の予想は外れた。恭子へのいじめはひどくならなかった。いや、恭子へのいじめは無くなったのだ。その代わりに、美智留が新たにいじめの対象になっていた。

美人の美智留はどんな時も冷静沈着だ。誰にも媚びないし、みんなと群れようとしない。その態度がクラスのリーダー的女子には癪にさわったのだろう。美智留へのいじめは加速度的にひどくなっていった。

自分に矛先が向かなくなったことに安堵する恭子だったが、美智留へのいじめを見て見ぬふりをしている罪悪感に苛まれもする。そんな恭子のことを、美智留は怒るどころか、許してくれた……。
(中山七里さん『嗤う淑女』の出だしを私なりにご紹介しました)
いじめ、嫌ですねぇ。女子のいじめは陰湿です。眉を顰めながら読んでいたのですが、美智留は強い女の子です。どんなにいじめられても、へこんだりしません。平然としています。

そして、落ち着いた態度で「報復」に乗り出します。中学生とは思えない、したたか かつ悪どいやり方で。その「報復」の一部始終を目撃した恭子は、美智留の強さに驚きつつ、畏怖を覚えました。

美智留は恭子に打ち明けます。クラスメートのいじめなんか、たいしたことではないと。自分は家でパパから もっと酷い目に遭っているのだから、と。

美智留の父親の所業は、読んでいて胸が悪くなりましたが、美智留の人格形成に大きな影響を与えた出来事でしょうから、避けては通れない場面なのかもしれません。

一方で、恭子が大変な病気であることが判明します。抜本的な治療は骨髄移植だけれど、恭子の両親や弟は白血球の型が合わず、移植できません。

しかし、いとこである美智留の型はピッタリ一致。恭子は美智留から骨髄移植を受けることができました。恭子にとって、美智留は恩人になったわけです。

いじめからも、病からも救ってくれた恩人である美智留が、実の父親に虐待されていることを知った恭子が、美智留を救いたいと思うようになるのは当然の成り行きでしょう。

恩返しの気持ちだけではありません。頭が切れて冷静沈着、そして美人である美智留への憧れも動機になりました。結局「一 野々宮恭子」では、恭子と美智留が「共犯者」になります。

第二話からは成人した恭子と美智留が登場します。

美智留は大学卒業後、保険会社に就職。ファイナンシャルプランナーの資格を取得したあと独立し、現在は「生活コンサルタント」の仕事をしています。恭子はそのアシスタント的存在です。

美智留と恭子は「真っ当な人生」から外れつつある人たちの前に現れます。買い物依存症の鷺沼紗代。就職に失敗し親元で燻っている野々宮弘樹。リストラにあった夫の代わりに必死で家計を支える古巻佳恵。

彼女たちは、美しい美智留が自分の話を穏やかに聞いてくれるだけではなく、どうしたらお金に苦労しないで済むのか、どうすれば自立できるのかをわかりやすく解いてくれることに対して、感謝の念でいっぱいになります。

そして勇気を得た気分になり、一歩を踏み出してしまうのです。それが破滅への道だとも知らずに。

美智留は美しく、とても親切。落ち着いた口調で、難しいことをわかりやすく解説してくれます。行き詰まった人にとっては女神に見えることでしょう。ですが、読者にはわかります。これは悪魔だゾ、と。

「五 蒲生美智留」の章は、手に汗握るような展開で、おそらく誰もが、途中で読むのをやめることはできないと思います。驚きの展開が待っています。常人じゃない、やっぱり悪魔だ。

この作品はドラマ化されていまして、私は先にドラマを見ました。

原作を読んでわかりましたが、ドラマは様々な制約があるせいか、マイルドでした。原作にはかなりエグい表現があります。そういうのが苦手な方は手に取らない方が良いかも。

過激な表現にも耐えられる方には続編があることもお伝えしておきましょう。私は多分、続編も読むと思います。怖いもの見たさ、です。
嗤う淑女
中山 七里(著)
実業之日本社
中学時代、いじめと病に絶望した野々宮恭子は従姉妹の蒲生美智留に命を救われる。美貌と明晰な頭脳を持つ彼女へ強烈な憧れを抱いてしまう恭子だが、それが地獄の始まりだったー。名誉、金、性的衝動…美しく成長した美智留は老若男女の欲望を残酷に操り、運命を次々に狂わせる。連続する悲劇の先に待つものは?史上最恐の悪女ミステリー! 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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