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藤田 由布
産婦人科医 レディースクリニック サンタクルス ザ シンサイバシ

婦人科医が言いたいこと 医療・ヘルシーライフ 2024-06-13
婦人科検診で「精密検査を受けてください」と言われた方へ その1

婦人科検診では「子宮頸がん検査」をします。

20歳以上の女性なら全員に子宮頸がん検査の通知がきます。

検査を一度もした事ない、という女性もたまにいらっしゃいます。

日本では婦人科検診が任意ですが、海外の先進国は健康保険加入の条件として子宮頸がん検査がマストであることもあり、検診率は8割以上だったりします。

婦人科検診を受けたことがあっても、何の検査をしたのか全く覚えていない女性も多いです。

妊娠をした事がある人、つまり妊婦健診を受けたことがある人は全員「子宮頸がん検査」を受けています。なぜなら、妊娠の初期検査に必ず含まれているからです。

検査の説明もなく流れ作業で複数の検査を一気にされたため、知らないうちに検査を受けている人も多いようです。
婦人科検診の結果の意味が分からない人へ
この子宮頸がんの検査の結果を見ても、何が何だかよく分からないと言う人も多いです。

でも、恥ずかしい事ではありません。あなたのせいではありません。ちゃんと説明をしない医師の責任でもあります。
実際に、「NILM」「ASC―US」「LSIL」「HSIL」とか、横文字の検査結果で通知がきても、これらの意味ってよく分からなかったりして、なんか難しいですよね。

また、軽度異形成高度異形成異形成疑いとか日本語で言われても、「なにそれ??」ってなりますよね。

今回は、この子宮頸がんの検査結果の意味を解説します。
また、子宮頸がんの検査については、過去のコラム『子宮頸がんの原因はウィルス感染です』をご覧ください。
婦人科検診(子宮頸がん検査)は数秒でおわります
頸がん検査自体は、ほんの一瞬で済みます。

診察台に乗って、腟の中に器具を挿入され、腟の奥の子宮口を検査ブラシでクルクルシャッシャッシャッて擦るだけです。
自己採取の細胞診は、ダメ!
自分で採取する頸がん検査の細胞診は、正確性に欠けるため無駄です。 婦人科がん検診学会でも、自己検査は推奨していません。3割以下の正確性の検査の結果ですので、まったくもって自己採取は無駄です。
検査結果、『意味わからない』ことありませんか?
検診を受けてから、だいたい1ヶ月以内に結果が手元に届きます。

結果には、NILM、ASC―US、LSIL、ASC―H、HSILという略語が書かれている事が多いです。

NILMは陰性で異常なしという結果ですが、これ以外の全ての結果は、再検査もしくは精密検査が必要となってきます。
『NILM』って何?
NILM は「陰性」という意味です。「ニルム」って読みます。 Negative for Intraepithelial Lesion or Malignancyの略です。

この結果は「悪性所見なし」つまり「異常なし」ということす。これまで通り2年ごとに定期検診を受けてください、ということです。

ただし、NILMであっても、今後も問題ないというわけではありません。

子宮頸がんの原因となるウィルスは、子宮頸部に十数年も潜伏している可能性があります。そして、癌に発展するまで平均でも10年ほどかかるのです。

ちゃんと定期的に検査を受けることが大事です。

ずっと定期検診を受けていて異常がない人は、検診ガイドライン上、69歳で検査を終了しても良いとなっています。
結果が『ASC-US』だったら、どうする?
ASC-USは「アスク・ユーエス」とか「アスカス」とか読みますが、まあ読み方はどうでも良いです。

ASC-USは、子宮頚部細胞診の結果に「異常疑いを認めた」という結果です。

これは、Atypical Squamous Cells of Undetermined Significanceの略で、日本語で「意義不明な異型扁平上皮細胞(ASC-US)」です。簡単に「異形成疑い」と表現する施設もあります。

これは、頚部の細胞に変化があって、異形成も否定しきれないけれども単なる炎症かもしれない、というグレーゾーンのことを指します。

これには、
① 精密検査(ヒトパピローマウィルス(HPV)ハイリスク検査) もしくは、
② 再検査 (4~6ヶ月後の細胞診再検査) が必要となります。生理の日をずらして婦人科を受診して下さい。

いずれの検査方法も、検診の時と同じ方法ですので痛みを伴うことは、殆どありません。

ヒトパピローマウィルスの中にも、「癌になるハイリスク遺伝子タイプ」と「癌にならないHPVウィルス」があり、癌に関連した遺伝子タイプ(16型、18型、その他ガンに関連する遺伝子型31,33,35,39,45,51,52,56,58,59,66,68型)だと精密検査が必要となってきます。
『LSIL』って、どういうこと?
Low-grade Squamous Intraepithelial Lesionの略で、直訳すると「低悪性度扁平上皮内病変」です。「軽度扁平上皮内病変」とか「軽度異形成」などの表記もあります。

LSILは、「ローシル」とか「エルシル」と読まれることがありますが、この読み方も、まあどうでもいいです。

採取した細胞に変化が見られ、軽度のHPV感染像を認めると意味します。

この結果は精密検査が必要となります。

精密検査の方法は、子宮頚部から病変部が目立つ数カ所の組織片(半米粒大)を採取して、顕微鏡で精査します。コルポスコピー生検を行うことが多いです。

この精密検査は、約3〜5分ほどかかります。多少の出血が生じる場合もございますので検査当日は湯船の入浴を避けて下さい。

なお検査後1週間は刺激を与えないようにするために性交渉を避けて下さい。検査の日はなるべく生理の日を避けて婦人科を受診して下さい。
『HSIL』と言われたら?
High-grade Squamous Intraepithelial Lesion の略で、HSILは「ハイシル」と読み、「高度扁平上皮内病変(HSIL)」という結果です。

採取した細胞に変化が見られ、中等度〜高度のHPV感染像を認めるものを指します。

これは絶対に精密検査が必要となります。

精密検査の方法は、前述のLSILの際の精密検査と同じコルポスコピー生検です。
『ASC-H』の場合は?
この場合は、「高度扁平上皮内病変(HSIL)を除外できない異型扁平上皮細胞(ASC-H)」という結果です。Atypical Squamous Cells, cannot exclude HSIL略です。「アスク・ハイ」とか読みます。

これも前述のHSILと同様、中等度〜高度のHPV感染像を認めるものを指し、ASC-Hも必ず精密検査が必要となります。

精密検査の方法も、前述のLSILやHSILの際の精密検査と同じコルポスコピー生検です。
『ガン』の場合
子宮頸がんは、日本では年間約1万1000人の女性が子宮頸がんにかかり(上皮内癌を含めると3万人罹患)、約3000人が毎年亡くなっています。

自覚症状がなく、静かにガン病変は進行していきます。 ガンが進行していくと、性器出血やおりもの異常や下腹痛などの症状が出てきますが、症状があるということは、まずまず進行してしまっている事が多いです。
子宮頸がんは、扁平上皮細胞にできる「扁平上皮がん」と、腺細胞にできる「腺がん」の2つが大多数を占めています。 

どちらもヒトパピローマウィルス(HPV)が関連していることが分かっています。

子宮頸部の細胞には、上皮細胞と間質細胞があり、この2つは基底膜によって隔てられています。上皮細胞から発生した癌が、上皮内にとどまっている段階を「上皮内がん」といいます。

この段階だと、摘出手術をすればほぼ治ります。

けれども、がんが進行すると基底膜を通り越して、間質細胞に入り込んでいきます。

この段階までくると、「浸潤がん」とよばれて、がんの広がり具合によって、以下の図のように進行段階を分類します。
ⅠA期…顕微鏡でのみ診断できる微小ながん。
ⅠB期…診察で明らかにがんを認めるが、子宮頸部に限局する。
ⅡA期…腟の上方までがんの浸潤がある。
ⅡB期…子宮周囲の組織にがんの浸潤があるが、骨盤壁までは達していない。
ⅢA期…腟の下方までがんの浸潤がある。
ⅢB期…子宮周囲の組織への浸潤が骨盤壁まで達する。
ⅣA期…膀胱、直腸の粘膜までがんの浸潤がある。
ⅣB期…骨盤外の臓器に転移する。

子宮頸がんは、検診で行う細胞診や、精密検査で行うコルポスコピー生検などを行い、がんの確定診断を行います。その上で、MRI、CT、PETといった画像検査も行って、進行期を判断し、治療方針を立てていきます。
HPVハイリスク陽性
子宮頸がんの原因は、性行為で感染するヒトパピローマウィルス(HPV)といわれています。

HPVは現在180〜200種類異常が発見されていますが、そのうち40種類あまりが女性の性器で病気を引き起こすことが明らかになっています。

そのうち15種類ほどのHPVが癌につながる種類で「ハイリスクHPV」と呼ばれます。

ガンの原因になる15種のHPV遺伝子型の中でも、16型、18型、45型は危険型とされています。 日本では52型、58型が多いことも分かっています。

HPVは子宮頸がんの他に、尖圭コンジローマ、肛門癌、陰茎癌、腟癌、外陰癌、中咽頭癌などを起こす事でも有名です。

性交経験者の約60~80%の女性が生涯で1回はHPVに感染するといわれており、ハイリスクHPVに感染しても大部分の感染は一時的なもので、免疫力により自然消失します。

ただし、5~10%の割合でHPVが消失せずに持続感染することがあります。

この場合は、数年から10数年の前癌病変の期間を経て子宮頸がんになる可能性があります。
ハイリスクHVPに感染した人のうち、子宮頸がんを発症するのは0.1~0.3%といわれています。

子宮頸がんの症状は殆どなく進行していき、段階的に不正性器出血や性行為時の接触出血などの症状があります。

子宮頚部細胞診が陰性(NILM)であり異型細胞を認めないという結果の場合は、今すぐ精密検査や治療の必要はありません。

ただし、ハイリスクHPVに感染しているという結果だと、たとえ細胞診がNILMの結果でも、1年以内に頚部細胞診の検査をすることをお勧めします。

次号へ続く・・・次号は「精密検査って何をするのか」の実際について説明します
profile
全国で展開する「婦人科漫談セミナー」は100回を超えました。生理痛は我慢しないでほしいこと、更年期障害は保険適応でいろんな安価な治療が存在すること、婦人科がん検診のこと、HPVワクチンのこと、婦人科のカーテンの向こう側のこと、女性の健康にとって大事なこと&役に立つことを中心にお伝えします。
藤田 由布
産婦人科医
レディースクリニック サンタクルス ザ シンサイバシ 院長

大学でメディア制作を学び、青年海外協力隊でアフリカのニジェールへ赴任。1997年からギニアワームという寄生虫感染症の活動でアフリカ未開の奥地などで約10年間活動。猿を肩に乗せて馬で通勤し、猿とはハウサ語で会話し、一夫多妻制のアフリカの文化で青春時代を過ごした。

飼っていた愛犬が狂犬病にかかり、仲良かったはずの飼っていた猿に最後はガブっと噛まれるフィナーレで日本に帰国し、アメリカ財団やJICA専門家などの仕事を経て、37歳でようやくヨーロッパで医師となり、日本でも医師免許を取得し、ようやく日本定住。日本人で一番ハウサ語を操ることができますが、日本でハウサ語が役に立ったことはまだ一度もない。

女性が安心してかかれる婦人科を常に意識して女性の健康を守りたい、単純に本気で強く思っています。

⇒藤田由布さんのインタビュー記事はこちら
FB:https://www.facebook.com/fujitayu
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