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藤田 由布
婦人科医 レディース&ARTクリニック サンタクルス ザ ウメダ

婦人科医が言いたいこと 医療・ヘルシーライフ 2023-03-23
ギニアワーム撲滅寸前!! あと13例 !!
その①〜 天然痘に次ぐ世界で2つ目の人類の勝利 !!! 〜

おそらく来年こそは世界的ビッグニュースになるだろう。

しかし「来年こそは!」と言われつづけて、かれこれ5年ほどになる。

最後の1例をやっつけるのに時間がかかるのが「完全撲滅」の難しさなのだ。

1980年代から米国カーター財団の主導のもと「ギニアワーム寄生虫感染症」の撲滅活動が展開された。これに、私は1997年から長年に携わってきた。

1980年代には、20カ国350万人以上の感染者があったギニアワームが、40年の時を経て、ついに…

2023年1月24日現在、ついに、幻の寄生虫「ギニアワーム」が撲滅達成まで、4カ国あと13人となった。チャド6例、南スーダン5例、エチオピア1例、中央アフリカ共和国1例である※。(※ The Carter Center公式HP:Guinea Worm Disease Reaches All-Time Low
今まで毎年感染人があったマリとアンゴラは、2022年はゼロとなった。

世界中で4ヵ国に13匹しかいない、と思えば、ものすごい貴重な寄生虫のように感じる。

しかし、先日会った某大学の寄生虫学博士の先生から言われたことが印象的だ。「ギニアワームは撲滅されない方が僕らは嬉しいんだけどな〜」と。

要するに寄生虫博士にしてみれば、撲滅されるまでしばらく話題になるので、その方が面白いのだそう。

しかし、アフリカ最貧国の村落住民と共に過ごした私の感覚は違う。

疫病撲滅とは、農村で貧困で苦しむ住民にとっては最強の健康サステナビリティーなのだ。

これは末端で住民と共に活動してきた私だから言えることなのだ。
パスタにそっくりな「ギニアワーム」
ギニアワーム感染症は細長いパスタのような形状の寄生虫Dracunculus medinensis(和名:メジナ虫)によって引き起こされる感染症である。

この疾患は、雨季の間のみにできる溜池や池水など不衛生な水を飲用する村落でみられ、こういった貧しい農村地域で流行する感染症で、「貧困の象徴」とされてきた。

ギニアワームに感染した人は痛みで歩けなくなり、雨季の大事な畑仕事も市場での経済活動も出来なくなる。

※治療中の痛みに耐えるご婦人の感染者
更なる貧困に突き落とされるこの感染症がまだ存在する国は「負け組」と揶揄されてきた。
医療のシンボルがギニアワーム?!
ギニアワームは医療従事者とも関連する。

諸説あるが、医療のシンボルマーク「アスクレピオスの杖」に巻き付く蛇がこのギニアワームである。

救急車や薬局でもみられるこの蛇のマークは、WHOのシンボルマークにもみられる。

埋葬されたミイラの体からもギニアワームが発見された報告があり、この寄生虫は太古から人類を苦しめてきた疫病であることがわかる。

※トーゴ北部の感染村には氷を持参して痛みを緩和して治療
ギニアワーム症は紀元前1550年のエジプト医学パピルス『エーベルス・パピルス』に記されている。 英語名のdracunculiasisの由来はラテン語の「リトル・ドラゴン」からである。

また、「ギニアワーム」という名称は17世紀にヨーロッパ人が西アフリカのギニア海岸で発見した地名が由来である。
撲滅できた疫病は、世界でまだ1つだけ

*図1:1986年と2008年に感染が確認されていた国(参照:カーターセンター公式HP)
人類が疫病を撲滅させた例は、過去にたった1つのみ。1980年に撲滅宣言された天然痘だけだ。

そして40年経過した今、次なる撲滅達成が実現するのが、この「ギニアワーム感染症」だ。

※天然痘(引用:疾病対策予防センター公式HP)
天然痘とは,「オルソポックス」というウイルスの一種である天然痘ウイルスによって引き起こされる疫病であり、非常に感染力の強い疾患。かつては世界中で多くの死者を出していた。

天然痘は、呼吸やせきで排出した空気を吸い込むことでヒトからヒトへ感染する。また、寝具などを介しても感染する。

1〜3週間で感染が成立した後に、身体中に発疹ができ、肺や脳や骨にも感染することもあり、致死率は約30%ほどである。

一方、このギニアワームは感染することで死亡することは殆どない。

※トーゴ北部の少女の感染者 2004年
日本も多大なる貢献

※日本政府からの深井戸やポンプ建設の援助
ギニアワーム撲滅活動には日本も多大な貢献をし、数十億円規模で援助してきた。

汲み上げ式のポンプや深井戸の建設では村落住民の安全で衛生的な水を確保するに寄与した。

実際に、たくさんの村人に「うちの村でも井戸を作っておくれよ!」と随分と声をかけられたものだ。

さらに、水を濾すフィルターを数十万枚製作して支援したのも、日本の援助だ。

しかし、末端のフィールドで撲滅活動を運営するメンバーは殆どアメリカ人だった。

※アメリカ人とトーゴ人の仲間とトーゴ北部で共に活動した
日本が援助したフィルターを村で配布するのもアメリカ人だったので、私は少し歯痒い思いをした。

今になっては笑い話となるが、アメリカ人から「日本の援助だと分かるようにフィルター1枚1枚に日本の国旗でも刺繍しようか!笑」と皮肉られた。

※溜池の水は自宅でフィルターで濾してプランクトンを除去してから飲用することを推奨した
日本の地道な‘陰なる’援助を末端の現場で見てきた私は、こう思った。日本はとことん優しい国だ。お人好しと言っても過言でないくらい…

少し皮肉めいているが、日本は2022年8月、米国カーターセンターの活動を医療分野の優れた功績だと認めて「第4回野口英世アフリカ賞」を授与した。

アメリカ主導の活動を、縁の下で莫大な費用で支えてきたのは日本なのに。

とはいえ、結果的に現地の住民に還元されるならば、「その援助を誰がしたか」は問題ではない。 と、お人好し日本人ならこう考えるのが常だ。

次号は「人体の中で勝手に交尾するギニアワーム」の生態の不思議に迫ります!

※足の甲からギニアワームがでてきた少女の患者

※ニジェール国ザンデール県ガリンイッサンゴーナ村の子供たち

※電子顕微鏡でみるギニアワーム幼虫の全貌 全長0.1mm(M: mouth, D: dorsal denticle, AM: amphidal openings P:4 large papillae, E: excretory pore) 引用:原田正和、村主節雄(香川医科大学病理学講座医動物学) ‘Scanning Electron Microscopy on the First Stage Larvae of Dracunculus medinensis’, The Japan Journal of Parasitology, Vol.38, No.1, February 1989
profile
全国で展開する「婦人科漫談セミナー」は100回を超えました。生理痛は我慢しないでほしいこと、更年期障害は保険適応でいろんな安価な治療が存在すること、婦人科がん検診のこと、HPVワクチンのこと、婦人科のカーテンの向こう側のこと、女性の健康にとって大事なこと&役に立つことを中心にお伝えします。
藤田 由布
婦人科医

大学でメディア制作を学び、青年海外協力隊でアフリカのニジェールへ赴任。1997年からギニアワームという寄生虫感染症の活動でアフリカ未開の奥地などで約10年間活動。猿を肩に乗せて馬で通勤し、猿とはハウサ語で会話し、一夫多妻制のアフリカの文化で青春時代を過ごした。

飼っていた愛犬が狂犬病にかかり、仲良かったはずの飼っていた猿に最後はガブっと噛まれるフィナーレで日本に帰国し、アメリカ財団やJICA専門家などの仕事を経て、37歳でようやくヨーロッパで医師となり、日本でも医師免許を取得し、ようやく日本定住。日本人で一番ハウサ語を操ることができますが、日本でハウサ語が役に立ったことはまだ一度もない。

女性が安心してかかれる婦人科を常に意識して女性の健康を守りたい、単純に本気で強く思っています。

⇒藤田由布さんのインタビュー記事はこちら
FB:https://www.facebook.com/fujitayu
レディース&ARTクリニック サンタクルス ザ ウメダ 副院長
〒530-0013 大阪府大阪市北区茶屋町8-26 NU茶屋町プラス3F
TEL:06-6374-1188(代表)
https://umeda.santacruz.or.jp/

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