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藤田 由布
産婦人科医 レディースクリニック サンタクルス ザ シンサイバシ

婦人科医が言いたいこと 医療・ヘルシーライフ 2022-05-19
アフリカ最貧国は、13才で結婚、14才で出産 その②

通常、赤ちゃんを娩出してから10分以内に胎盤がベロンと出てくる。胎盤は500〜700gのお好み焼きサイズのレバーの塊みたいなものだ。

13歳の少女アミーナの胎盤は、20分経っても出てこない。

村の女性が次第に焦り始め、いろんなものを手に持って集まってきた。

一人の女性が、おもむろに小屋の中で何かを炊き始めた。6畳そこらの部屋の中に煙が充満し始め、そこにいた皆んながゴホンゴホンと咳き込み始めた。

とうがらしだ。

とうがらしを炊いたら、もちろん噎せる。

四つん這いのアミーナを残して、部屋内にいた全員が外に飛び出した。咳が止まらないし、目がシュワシュワして耐えられない。

要するに、こうだ。

アミーナを咳き込ませて、腹圧をかけさせて怒責で胎盤を出させようとしたのだ。

アミーナは、とうがらしが炊かれた小屋の中で体を丸くうずくまってゴホンゴホンと咳き込むが、肝心の胎盤は出てこない。

すると、村の女性たちは、大きな石を持ってきた。

この石をアミーナに担がせて、両手で何度も石を上げ下げするように指示したのだ。

アミーナは言われるがまま、ひざまずいた状態で両手で3kgほどの石を何度も頭の上まで持ち上げた。

これも、要するに腹圧をかけて胎盤を出そうとする作戦だ。

アミーナは20回ほど石を上げ下げしてギブアップした。当然だ。彼女はさっき出産したばかりで、疲れきっていた。

すると、ある女性が「両手で握り拳を作り、人差し指にできる穴をめがけて息を思い切り吹きかけなさい」とアミーナに言った。

手で握り拳をつくると、穴など普通は出来ないが、要は思い切り息を吹いてお腹に力を入れて怒責かけろ、というわけだ。

とうがらし作戦しかり、石持ち上げ作戦しかり、握り拳に息吹きかけ作戦も、どれもみな腹圧で怒責かけて胎盤を出させる目的なんだろう。

ちょっと再現してみた。

四つん這い

大きい石を持ち上げる 

握り拳に息を吹きかける
いやはや、度肝抜く荒技にただただ呆気に取られるばかりだ。
それでも胎盤は出なかった
荒技の連続にアミーナもヘトヘトになりながらも、必死にウーンウーンと腹圧をかけて頑張っている。

でも、胎盤は一向に降りてこない。

ある女性が「ちょっと休憩しよう」と言って、アミーナに何やら薬らしいものと水を持ってきた。「これを飲みなさい」と。

何かを煎じた粉と、何かの動物の骨を砕いたような粗い顆粒の何かだった。何かの伝統薬だろう。

小休憩のあと、数分後に胎盤がようやく剥がれ落ちて出てきた。
娩出された胎盤は、すぐに小屋の入り口に深さ30cmほど掘られた穴に埋められた。

胎盤を地面に埋めるのは、村の風習だそうだ。

アミーナは言葉を発することなく、ただただ呆然としていた。自分がさっき産んだ赤ちゃんにも見向きもしない様子だった。

余裕がなかったのだろう。若干13歳の少女だ。

幸い、アミーナの腟口からの出血も少量で、大事には至らなかった。皆んなで胸を撫で下ろしたのを覚えている。やれやれ、という顔で村の女性たちは退散していった。
数時間経ってからアミーナの小屋を訪ねてみた。

月明かりの下でアミーナは赤ちゃんを抱っこして、優しく微笑んでいた。なんて美しい景色なんだろうと見惚れたのを覚えている。

たった昨日まで歌遊びでワイワイと遊んでいた少女が突然に母親になったのだ。

分娩直後のアミーナ、13歳くらい 
若年は骨盤の発達も不十分なことも多く、若年出産は早産や妊娠合併症のリスクも高い。世界的に若年層の少女の最大の死亡原因は妊娠および出産中の合併症という報告もある。若年の妊娠・出産を減少させるよう国際機関の様々なプロジェクトが取り組んでいる。
産婦人科医になるしかない
西アフリカのサハラ砂漠の南に位置する摂氏50度の世界最貧国、ニジェール。

数ある専門科の中で産婦人科を選択したのも、ニジェールの村落地域での体験が大きく影響したのは言うまでもない。

日本では助かる命が、ニジェールではいとも簡単に失われる現実。

私はニジェールの村落で数々の危機的な状況を垣間見た。

この現実に途方にくれたものだった。その際に突き動かされたことは、次にニジェールに戻る時は医師となって命の現場で仕事ができるようになろうと思い、それが私の医学部入学への大きなきっかけとなった。
profile
全国で展開する「婦人科漫談セミナー」は100回を超えました。生理痛は我慢しないでほしいこと、更年期障害は保険適応でいろんな安価な治療が存在すること、婦人科がん検診のこと、HPVワクチンのこと、婦人科のカーテンの向こう側のこと、女性の健康にとって大事なこと&役に立つことを中心にお伝えします。
藤田 由布
産婦人科医
レディースクリニック サンタクルス ザ シンサイバシ 院長

大学でメディア制作を学び、青年海外協力隊でアフリカのニジェールへ赴任。1997年からギニアワームという寄生虫感染症の活動でアフリカ未開の奥地などで約10年間活動。猿を肩に乗せて馬で通勤し、猿とはハウサ語で会話し、一夫多妻制のアフリカの文化で青春時代を過ごした。

飼っていた愛犬が狂犬病にかかり、仲良かったはずの飼っていた猿に最後はガブっと噛まれるフィナーレで日本に帰国し、アメリカ財団やJICA専門家などの仕事を経て、37歳でようやくヨーロッパで医師となり、日本でも医師免許を取得し、ようやく日本定住。日本人で一番ハウサ語を操ることができますが、日本でハウサ語が役に立ったことはまだ一度もない。

女性が安心してかかれる婦人科を常に意識して女性の健康を守りたい、単純に本気で強く思っています。

⇒藤田由布さんのインタビュー記事はこちら
FB:https://www.facebook.com/fujitayu
レディースクリニック サンタクルス ザ シンサイバシ
〒542-0085 大阪府大阪市中央区心斎橋1-8-3 心斎橋パルコ10F
TEL:06-6253-1188(代表)
https://shinsaibashi.santacruz.or.jp/

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