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藤田 由布
婦人科医 レディース&ARTクリニック サンタクルス ザ ウメダ

婦人科医が言いたいこと 医療・ヘルシーライフ 2022-05-05
アフリカ最貧国は、13才で結婚、14才で出産 その①

初めてのアフリカ、初めてのニジェール
私が世界最貧国のニジェールに初めて降り立ったのは1997年。青年海外協力隊員として派遣され、ニジェール国の保健省の教育課に配属された。

貧しいって一体どういうことか、いまいち理解しないままアフリカに赴いたのだった。

今でこそハッキリ言えるのは、アフリカで私が何かを教えるなんてとんでもない。

教わったのは私だ。

肌で文化を学び、現地の人々から美しく生きる方法をたくさん教えてもらった。忍耐強く、優しく、賢く、楽しく、協調性と包容力に長けた最も美しい民族がそこにあった。

国際協力と一体なにか、これを自問自答を繰り返す日々だった。

3年間にわたり青年海外協力隊で過ごした後も、国際協力機構(以下JICA)の技術協力プロジェクトや米国財団のコンサルタントなどで10年以上ニジェールという国に携わってきた。

気がつけば私にとってニジェールが愛おしくて掛け替えのない存在となっていた。

なぜ、そんなにニジェールが好きなのか。よく聞かれる。

答えは、ただただ御縁があり、関わるごとに愛おしい存在になっていったから。

アフリカに長年携わる人って、きっと同じような理由を口にするのではないだろうか。
年間5400人の妊婦が死亡する国

「自分の年齢なんて知らないわ」と言って笑う働き者の少女(およそ10歳)
アフリカの西に位置する灼熱の砂漠の国「ニジェール」は、世界で最も貧しい国である。人がすぐ死んでしまうのだ。

特に、妊婦さんが周産期(お産の前後や分娩中)に死亡する数があまりにも多過ぎる。 毎年5400名も亡くなる。この数は想像に絶する。今もなお、ニジェール国内だけでも毎日15人の妊婦が亡くなっているだ。(※参照:UNDP/HDI 2017-8年)

ニジェール国内の妊婦さんは今も200人に1人が亡くなるのである。

私が以前勤めていた日本の病院では年間1000人の分娩があったが、院内で毎年5人の妊婦さんが亡くなるなんて、あり得ないし、あってはならない。

国によって、こんなに差があるなんて…

生まれてすぐの赤ちゃんも、40人に1人が亡くなっている。

原因は妊娠時の合併症や分娩時の事故、敗血症、肺炎や下痢といったもの。日本でこれらが原因で命を落とすなんて有り得ないのだ。(※参照:UNICEF 2018年)

劣悪にも程がある。
昨日まで踊って歌遊びして少女が出産!?

無事に女の子を出産した直後のアミーナ
ニジェール国の首都から東へ900kmのザンデール県郊外の150世帯くらいの小さな村で、それは起こった。

電気も水道もないこの村には200人くらい子どもがいるが、小学校に通っている児童はたったの4人。

村の子ども達はよく遊ぶしよく働く / 少年たちの仕事は主に水汲み
土壁と藁葺き屋根の6畳ほどの小屋で、 13歳の少女アミーナが一人で赤ちゃんを分娩していたのだ。

元気な赤ちゃんの産声が周囲に響き渡り、村の女性たちが気付いてザワザワと集まり始めた。私も女性たちの群れに連れられ小屋に入った。

アミーナの夫が慌てて家に戻って自分の服を数着かき集めて急いで家を出て行った。村の決まりで、分娩した女性の家から夫は1週間追い出されるのだ。

小屋の中のベッドの上で、アミーナは仰向けになって、股の間で臍の緒が繋がったままの状態の赤ちゃんがいた。

アミーナの股の間からは少量の出血があり、彼女は呆然と一点を見つめていた。赤ちゃんを分娩した直後、何が自分に起こっているのか理解できていない様子だった。

村で一番年配の老婆が手際良く剃刀を持ってきて、新生児の臍の緒を切り、赤ちゃんを抱き上げた。

ニジェール村落部の景色 広大な乾燥地帯の小村
実は、アミーナの年齢は誰も知らなくて、本人も知らなかった。

おおよそ13歳という感じ。学校に一度も行ったことがなく、文字の読み書きができない少女だった。

隣の家に住む16歳くらいの従兄弟と結婚したばかり。2人は幼馴染のまま結婚したのだった。

部屋を見渡すと、床の上に白紙の母子手帳が転がっていた。

アミーナは「妊婦検診は良く分からないから一度行ったきり、母子手帳の文字が理解できないので使わなかった」と。

ニジェールの田舎の妊婦健診は、妊娠中に合計4回ほど通うだけ。血圧を測って、問診する程度。ほとんどの分娩は自宅で行うので、各村の長老のお婆さんが産婆の役割を担っている。

新生児の臍帯を切った剃刀は、お世辞にも清潔なものとは言えない錆びれた不潔なカミソリだった。
生まれたばかりの赤ちゃん洗う水は、ドロ水

アミーナの赤ちゃん ※黒人の赤ちゃんは生まれたばかりは白い肌である
生まれたばかりの赤ちゃんは、老婆がひょいっと担いで小屋を出て行った。庭で新生児を洗うためだ。

度肝抜かれた。新生児の沐浴に使う水は、池の泥水だったのだ。

「こんな茶色に濁った水で赤ちゃんを洗って良いの?生まれたばかりだよ?」と私。

「え?何がいけないの?」と村人。

赤ちゃんは免疫が備わってないので、泥水からの感染症も心配。せめて沸騰させて殺菌した水を使うのが良いと思うんだ、と私は微力ながら村人に説明してみた。

すると村人は、「なるほど!」と言って、沸騰させた泥水のお湯を持ってきて、「これならいいんだろう?でも、この水すごく熱いよ」っと。そして、その中に泥水を混ぜて、「これでちょうど良いお湯加減だ」と村人。

村人は、せっかく沸騰させて殺菌した泥水に、汲んできた池の泥水を足して、振り出しに戻してしまっていたのだ。

だめだこりゃ… でも仕方ない。

村の生活水は、池の水。茶色く濁った水の方が甘くて美味しいんだよ、と言う村人。

子どもが子どもの世話をする、これも立派な仕事だ
もう一つ別に驚いたことは、黒人の生まれたての赤ん坊の肌が真っ白なこと。

生まれて1週間くらいすると、嘘のように黒くなる。黒人の赤ちゃんは、数日かけて肌のメラニンが生成されて肌が黒くなっていくのだ。
胎盤が出ない!!壮絶分娩は続く…
赤ちゃんを産んだばかりのアミーナに、次に課せられた事は胎盤を娩出することだ。

村の女性たちはアミーナをベッドから床に移動させた。

そして、アミーナを床の上で四つん這いにさせて、胎盤を出すためにお腹に力を入れるように言った。

アミーナは小屋の床の上にうつ伏せになって、ウーンっと唸って四つん這いになり、お腹に力を入れて胎盤を娩出しようとしていた。

ウーン、ウーンと何度も唸るアミーナ。
胎盤がなかなか出ない!!

胎盤が出ないアミーナに、この後とんでもないことが起こったのだ…

『アフリカ最貧国は、13才で結婚、14才で出産 その②』へ続く
profile
全国で展開する「婦人科漫談セミナー」は100回を超えました。生理痛は我慢しないでほしいこと、更年期障害は保険適応でいろんな安価な治療が存在すること、婦人科がん検診のこと、HPVワクチンのこと、婦人科のカーテンの向こう側のこと、女性の健康にとって大事なこと&役に立つことを中心にお伝えします。
藤田 由布
婦人科医

大学でメディア制作を学び、青年海外協力隊でアフリカのニジェールへ赴任。1997年からギニアワームという寄生虫感染症の活動でアフリカ未開の奥地などで約10年間活動。猿を肩に乗せて馬で通勤し、猿とはハウサ語で会話し、一夫多妻制のアフリカの文化で青春時代を過ごした。

飼っていた愛犬が狂犬病にかかり、仲良かったはずの飼っていた猿に最後はガブっと噛まれるフィナーレで日本に帰国し、アメリカ財団やJICA専門家などの仕事を経て、37歳でようやくヨーロッパで医師となり、日本でも医師免許を取得し、ようやく日本定住。日本人で一番ハウサ語を操ることができますが、日本でハウサ語が役に立ったことはまだ一度もない。

女性が安心してかかれる婦人科を常に意識して女性の健康を守りたい、単純に本気で強く思っています。

⇒藤田由布さんのインタビュー記事はこちら
FB:https://www.facebook.com/fujitayu
レディース&ARTクリニック サンタクルス ザ ウメダ 副院長
〒530-0013 大阪府大阪市北区茶屋町8-26 NU茶屋町プラス3F
TEL:06-6374-1188(代表)
https://umeda.santacruz.or.jp/

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