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小森 利絵
フリーライター えんを描く

おてがみじかん ライフスタイル 2021-09-15
お手紙とわたし~津玲子さん編④~

私のまわりにいる「日常の中でおてがみじかんを楽しんでいる人」にインタビュー。5人目は津玲子さんです。お手紙の思い出や楽しみ方などについてうかがったインタビューを4回に分けて紹介しています。

「自分の気持ちや想いを乗せやすいツール編」「お手紙が『今、ここ』以外の世界とのつなぎ目編」「年に1度、その人とやりとりできるチャンス編」とお話をうかがってきて、第4回目となる今回は「お手紙は自由。つくる楽しみもある編」です。

お手紙を書く時のこだわりや楽しみ、お気に入りのアイテムについてお話をうかがいます。
お手紙を書く時にこだわっていることや楽しんでいることはありますか?

津さん:レターセットの余白部分に、絵を描いたり、たわいもないことを書き綴ったりすることを楽しんでいます。

たとえば、「先日、息子がおなかを出して寝ていました」「あったかいおふとんを出しました」といった生活がわかること、「家の前のトマトがなりました」といった我が家に来たことのある人が想像できること。

「キンモクセイ。よく見ると、背が高いのと低いのがあることに、今年気づきました」といった最近気づいたこと、「元気でやっているよ」「元気じゃないよ」「秋になったね」「今日は少し日差しが強かったね」といった今を生きている雰囲気など。

「元気? 最近さ~」としゃべるみたいに書いています。

お手紙だから書けることなのかなと思うんです。長くなってもいい、絵だって自由に描けるから、そんなしょうもないことも書けるような気がしていて、まるで学生時代のノートみたいですよね。

そのたわいもない一言があることで、津さんの日常がすごく身近に感じられていいなと思いました。ところで、お手紙を書く時のお気に入りのアイテムはありますか? 3つほど、教えてください。まず、1つ目は?

津さん:一筆箋です。
アート系の福祉事業所の一筆箋が、めちゃめちゃかわいいんです。アートをしようとしてアートをしていない、生活の一部みたいな作業の中から生まれる、型にはまらない、ゆるい感じの作品が好き。

中でも、このたんまりあるのは「あとりえすずかけ」さんの一筆箋(写真・下5点)。カラフルでおもしろい絵が、ほんの一言書き綴るだけでもさまになるようにデザインされています。紙もざらばん紙やクラフト紙など、文字を書きやすいんです。1セットにつき、3~4種類の絵柄が入っているのも、楽しいんですよね。

一筆箋にはまったのは、こういったかわいい一筆箋に出会ったことと、日々の忙しさに追われ、お手紙を書く時間を持ちにくくなっていたタイミングだったでしょうか。

一筆箋なら、ちょこちょこっと書くのにちょうどいいスペースです。結局、一筆だけで終わらなくて、2枚、3枚と書き綴ることもありますが、書きたくなったら枚数を増やせばいいだけだから。ぱっとスペースを見て「たくさん書かなきゃ」というプレッシャーを感じず、気楽に書き始められるところがいいですよね。

お気に入りのお手紙アイテムの2つ目は?

津さん:はがきです。
旅先など出かけた先で、絵はがきを見かけると、ついつい買ってしまいます。台所に貼って飾ったり、かわいい絵はがきをやりとりしたりすることが好き。一筆箋と同じで、文字を書けるスペースが狭いので、プレッシャーがなく、気楽に書けるのがいいですね。

時には、無地のはがきに手を加えて、楽しむこともあります。たとえば、このはがきは小森さんに書こうとしていたものです。あとりえすずかけさんで見つけた無地のはがきで、カーテンみたいにしたらかわいいかなと思って、糸でチクチク、色鉛筆で色も塗ってみました。
「最終的にこんなふうにしよう」というイメージはなく、「こうしたら、どうかな」「楽しくなるんじゃないかな」とひらめいて、手を動かしながら、気ままにつくっています。

こんなふうに封筒や便箋、はがきに自分なりのアレンジを加えるお手紙は、お手紙全体を楽しんでもらえるだろうなという相手に送っています。

以前、小森さんからいただいたお手紙が楽しくて、それを私にくださったことが嬉しかったんです。私がこういう楽しいパッケージにしたら喜ぶこと、そのパッケージも含めてメッセージを汲み取ることをわかって書いてくださっているんだって。

また、私のお手紙を受け取って、「素敵でした」と絵を添えて書いてくださったので、「ああ、私の想いも受け止めてくださったんだ」と嬉しくなりました。

言葉や文面だけではなく、お手紙全体で「私もこんな雰囲気のものがかわいいと思いました」「最近、こんなものにときめいたんですけど、どうですか?」「お手紙を読んで素敵だと思いました」ということをやりとりしている感じがするんです。

お気に入りのお手紙アイテム、3つ目は?

津さん:茶封筒です。
A4サイズの紙が三つ折りで入る大きさがお気に入り。お手紙を入れてもきちきちにならないし、切手を貼って住所を書いても、絵を描ける余白が残るからです。紙質も、ちょっと厚めなら、なおよし。

飾り付けることも楽しんでいます。部屋をうろうろしながら、身近にあるものをあれこれ使って、即興で飾り付け。はぎれや麻ひも、シールを使うことが多いかな。こうやってハートの形に切って木工用ボンドで貼り付けたり、まるいシールを貼って水玉にしたり。

へたくそだし、技術的にもいろんなことはできないんですけど、手を動かしながら何かをつくることは楽しいです。
「こうしたらどうかな」「ああしたらどうかな」と手を動かす時間も、楽しいですよね。津さんのお手紙を見ると、わくわく、うきうきしてきます。自由な発想の源は何でしょうか?

津さん:昔、紙の真ん中をホッチキスで留めて2つ折りにして、まるで本みたいに仕上げたお手紙をもらったことがありますし、食工房の青木さんはカレンダーや通信の挿絵を描いておられるので、いただくお手紙も楽しくって。観光地に行くとさまざまな形のおもしろい絵はがきとの出会いがあります。

そういったいろんな表現のお手紙をいただいてきたから、「お手紙はこうしないといけない」というものがなく、自由でいいんだというのがあるんだと思います。

今、手仕事を習っている先生の影響も大きいです。先生はもともと木工作家で、身のまわりにあるものからいろんなものを生み出す方。手仕事の教室では、編み物や縫物など、一人ひとりが好きに何でもつくることができます。

たとえば、手帳をつくった時、「手帳って、こんなふうに成り立っているんだ」「木工用ボンドで、布をこんなにもぴちっと貼れるんだ」と、物の成り立ちや道具の活用法、アイデアのもとをいただきました。つくり方も「こうする」「こうしなければならない」というのはなくて、貼ってもいいし、塗ってもいいしと、いろんな方法や知恵を教えてくれるんです。

そんな体験や発見、アイデアのもとの寄せ集めで、お手紙でもいろいろつくってみています。
今回取材を受けるということで、屋根裏部屋から昔いただいたお手紙を出して見ていたら、本当にいろんな方々からお手紙をもらっていたなって。お手紙を見るまではすっかり忘れてしまっていた方もいましたが、お手紙を見れば思い出せ、あたたかな言葉をいただいていたなって。

お手紙は、時間をかけて考えながら書くので、暴言やひどい言葉にはならないのかもしれませんね。お手紙というと、いい思い出ばかりです。そういうものばかり、覚えているのでしょうね。
(2020年10月取材)

<お話をうかがって>

自分の中に浮かんでくるものを、手を動かしながら、即興的に自由に表現されている津さん。津さん自身の中から生まれてくるわくわくを表現されているから、お手紙から楽しい雰囲気が伝わってくるんだと思いました。

自分の中で「こうしたら、どうかな?」「ああしたら、どうかな?」と思うことがあっても、他者との関係性の中では、なかなか出せないことがあります。

お手紙は、誰かとの関係性の中で生み出すものではありますが、その相手を目の前にしてではなく、1人の時間に紡ぐもの。「こうしたら、どうかな?」「ああしたら、どうかな?」と思うことを、素直に表現しやすいように思いました。

頭で考えるのとは違う、手を動かす中で生まれてくるもの、自分の中から溢れてくるもの。自分の素直な部分が表出され、相手とも素直に向き合うことができているのではないかなと思いました。

今回で津さんへのインタビューは最終回です。これまで「自分の気持ちや想いを乗せやすいツール編」「お手紙が『今、ここ』以外の世界とのつなぎ目編」「年に1度、その人とやりとりできるチャンス編」「お手紙は自由。つくる楽しみもある編」と、お手紙にまつわるさまざまなお話をうかがいました。

津さん、お話を聞かせてくださり、ありがとうございました。
profile
レターセットや絵葉書、季節の切手を見つけるたび、「誰に書こうかな?」「あの人は元気にしているかな?」などアレコレ想像してはトキメク…自称・お手紙オトメです。「お手紙がある暮らし」について書き綴ります。
小森 利絵
フリーライター
お手紙イベント『おてがみぃと』主宰

編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP:『えんを描く』
 
『おてがみぃと』
『関西ウーマン』とのコラボ企画で、一緒にお手紙を書く会『おてがみぃと』を2ヵ月に1度開催しています。開催告知は『関西ウーマン』をはじめ、Facebookページで行なっています。『おてがみぃと』FBページ

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